第12話

 三メートルの跳躍。襲いかかる爪。それをかわして横に飛ぶ。

奥野武志は地面を転がった後に膝で立つと敵に銃口を向けた。


「速ええ」

銃口の先にはもう敵が居ない。


「大丈夫?」

電柱を背にして隠れているメガネが言った。


「ああ。キャップは?」

「血みどろ。マサカズが付いてる」

「モンスターだよ。ついてないねえ」

 奥野武志の後ろに立って加藤が言う。


 モンスターは人間が豹変した化物である。

 この国が殺人無罪なのはこのモンスターを殺す必要があるからだ。


「きた!」

 家の塀の向こうから飛び出てきたモンスターに加藤が拳銃を撃った。

 モンスターに弾が当たらない。

 加藤はモンスターの一撃を受けて倒れた。

 モンスターが家の塀の向こうに消える。


「いてえ」

 加藤は奥野武志とメガネに引きずられながら言った。


「逃げるぞ」

 奥野武志が言った。


 危なくなったら逃げるのは常識だ。

 戦っても勝てるかわからない場合は逃げる。


 キャップとマサカズももう逃げたはずだ。

 生きる目的は生き続ける事なのだ。

 奥野武志は加藤をおぶって走った。

 メガネが奥野武志の横を走っている。


「きゃ」

 メガネが右肩から血を流して前のめりに倒れた。

 モンスターが後ろから追い越しざまにメガネの肩を踏み台にして跳躍したのだ。


「おい、立て、メガネ」


 メガネは右腕を抱えてうずくまっている。


「加藤、下ろすぞ」

 奥野武志は右手に拳銃、左手に腰から抜いたナイフを持っいる。


 家の塀の向こうから出てきたモンスターは塀の上から跳躍すると奥野武志を襲ってきた。

 銃撃がモンスターに当たらない。

 モンスターは奥野武志の肩に食らいつく。

 その勢いで奥野武志は地面に叩きつけられた。


 その時、奥野武志は左手のナイフでモンスターを刺した。

 食らいついていた奥野武志の肩から口をはなし、モンスターが悲鳴を上げる。

 そのモンスターの顔の前に奥野武志は銃口を向けた。


「あ」

 奥野武志は銃口をモンスターに向けたまま動けなかった。

 顔を見てモンスターが若い女だと判ったからだ。


 突然、モンスターの頭が割れた。

 そしてモンスターが仰向けに倒れる。


「おい、武志、大丈夫か」

 奥野武志の父が立っていた。

 刀を持っている。


「覚えておけ。良心ってのは人間のルールだ。それをコイツ等が尊重してくれるって事はない」

 

 人は助け合いながら生きている。

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殺人無罪の国 朝野風 @tennerinto

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