第7話

大回廊を抜けた先に魔族の軍が駐屯していた

歩兵に槍兵に弓兵に…を主体とした総数2千の防衛部隊である

大回廊を抜けてくるであろう王国軍を足止めする先兵たちである

大回廊は鉄の門で閉鎖され幾重にも石壁で囲まれており櫓も建ち並ぶ


「マ・ファ<顕現される神の力>」

「サ・ナイ<幾万の夜を聖光が貫く>」


シロの左手から発現する聖なる光が鉄の門を文字通りに消し飛ばす

門の向こうの石壁も櫓も聖なる光の進行方向に在ったものは全て消し飛んだ

門の向こうに駐屯していたはずの魔族の軍の数も既に半数を下回る


「ア・クウ<崩壊する地維>」

「ア・プレ<調整される大地>」


アヤカが土魔法を発動する、魔族の駐屯地の全体を覆う二重の魔法陣である

数百メートルの魔法陣の中は地面が裂け割れる、幾つもの岩盤が隆起する

魔法陣内の地面は攪拌されあらゆる構造物が崩れ落ちる

混ぜこぜにされた土も草も木も石も鉄も獣も魔物も魔族も全てが攪拌される

魔法陣が消えるころには綺麗に整地された円形のグランドが残る

生物も建造物もない、円形の整地


「なんじゃこりゃ?」


円形の整地の上から地上に降りる影が驚きの声を漏らす

赤い肌を持つ二本角、蝙蝠の羽を持つ魔族

シロの聖光のダメージを既に受けたようで右腕が消失している

この駐屯地の唯一の生き残りである


「扉が閉まっていたから開けさせてもらったよ」


「歩きにくそうだから整地したわ」


「そうじゃねーだろ?」


魔族は質問したわけではない、問い掛けはしたがシロとアヤカにではない

それを”扉を開けた”だの”整地した”だの意味が分からないが、思わず突っ込んだ

この魔族はこの駐屯地を任されていた

魔王の四天王の中では最弱ではあるが、それでも四天王の1人である

2千の兵を魔王様から預かって防備を固めていた、固めていたつもりだった

それが一瞬で掻き消えて入念に整地されたのだ、その光景を何もできずに見ていた

自らの腕も消失している、避けたのではない腕だけが光に飲まれたのだ

腕の消失に気が付いて飛んで逃げたのである、一人だけ逃げたのである

しかし、悔しいとの気持ちも湧かない…圧倒的すぎる力に感覚がマヒする

この魔族は生まれながらの強者ではなかった、強者を喰らい強くなってきたのだ

魔族はあらゆるモノを喰らい糧していく、より強いモノを喰らえばより強くなる

魔族は力が全てである強者が正義であり弱者は悪である、弱肉強食が法である

その力の信奉者である魔族が強大な力に呆気に取られているのである

魔王をも遥かに凌駕する力に


「ちょっとあなた、魔王に伝えて欲しいんだけど?」


「何だ?もう勝ったつもりか?魔王様は絶対に屈しないぞ」


「違うわよ、ちょっと通るから邪魔しないでって伝えといてちょうだい」


「何だと?これだけの事をして、ちょっと通るだけだと?」


「いいから伝えといてよね」


一方的な大量虐殺を事も無げにして詫びれる様子もない少女を見て魔族は低く唸る

しかし、少女にとって魔族の命など気にする価値もないという事かと納得する

少女は手を腰に当てて胸を張り偉そうに此方を見ている

隣の少年は何やらボーっとしているようにしか見えない

獣人の少女は辛うじて震えているようだが、こいつらの仲間である

感覚が違い過ぎると魔族は思う、こいつらは異常者だと結論する


「わかった、伝えておく」


「わかったのならいいのよ、さっさと行きなさいよ」


「一つ聞きたい、魔族の領土を通るお前らの目的は何だ?」


「決まってるじゃない、邪神の封印よ」


「な、なんだってー!?」


魔族は急いで魔王の下に飛ぶ、魔族は昼夜飛び続けた

休憩することも忘れて飛び続けた、一度止まるともう飛べなくなるとすら感じて

魔王城は天然の岩山をくり抜いて作られた岩山城である、そして王都である

岩山城の中に王都が有りそこで魔族はくらしている

魔王城の最上階に魔王は居た

黒く大きな体に紅の瞳を持つ男、魔族は魔王にありのまま起った事を話した

魔王は嬉しそうに笑っていた

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