第8話

「アヤカ、邪神は何処で復活するか知っている?」


「さー、知らないわね」


「にゃんと、シロ様もアヤカ様も場所を知らないで旅をしていたんですか?」


「「うん」」


魔族の勢力範囲を一週間ほど徘徊してからの遅すぎる話題である

地竜からスライムを救った場所でキャンプを張る、食料の確保は既に出来ている

残りは助けたスライムがレベルアップのファンファーレを奏でながら消化している

2人はミーナ特製の地竜の串焼きや地竜の肉団子スープに舌鼓を打つ

シロもアヤカも魔族の勢力範囲に来れば邪神の復活場所は簡単に分かると思っていた

お決まりの妖しい雲の下に行けば何かあると思っていた

しかし、この一週間探したのだが妖しい雲が見つからなかった

唯一気がかりな雲があるとしたら、そびえ立つ岩山に掛かる黒い雲だけである

仕方がない、明日はあの岩山に行ってみるとしようとシロは考える



「A大隊は城の正面に出ろ}


「C中隊は城壁からレンジウエポンを使え」


「E中隊は上空から爆撃せよ」


「駄目です正面から突破さr…うわー」


「応答がありません前線指揮塔が破壊されたようです」


「将軍っ!将軍っ指示をください」


参謀の自分を呼ぶ声がどこか遠くに聞こえる、目の前の景色が揺らぐ

魔族として生まれ魔軍の産湯に浸かり将軍の地位まで叩き上げて六〇と数年

百年戦争の歴史の中で未だかつて此処までの負け戦が有ったろうかと自問自答する

三人であるたった三人に魔王城の全兵力が敵わないのである

守備兵力であるC大隊はあっという間に蹴散らされた、増援に回したB大隊も消失

今は攻撃の要の筈のA大隊が前線の壁となっているが何時まで持つのかも不明である

A及びB中隊は共にレンジウエポンを撃った報復で消し炭にされた

飛行中隊のD中隊は既に落とされている、E中隊も落とされるのだろうと思う

大粒の汗が頬を伝う、体が動かない目を閉じる事もしゃべる事も出来ない

体が痙攣する、もしかして自分は既に死んでいるのではと将軍は考える


「将軍っ!、しっかりせんかっ!!」


バァーーーーーーンっと、勢いよく将軍の肩が叩かれる

将軍は叩かれた勢いで反対側の壁に飛んで行く、壁に頭からめり込む将軍

叩いた主は自分の手をじっと見つめる、そんなに強く叩いたつもりはないのにと

参謀がゴホンと咳ばらいを1つ、戦況を叩いた魔族…魔王に伝える


魔王は初めは笑って聞いていたが段々と笑みが消えて行く

次第に顔から表情が消えて黒光りする肌から汗が滴り落ちてくる

「まさかっ」「ないないっ」などともはや言えず言葉も出てこなくなる

椅子に腰を下ろしアゴに手を当てて深く考え込む、ロダンに作られた像のように



空の上から降ってくる爆薬の入った樽がシールドに触れて轟音と共に爆発する

ミーナが「ヒッ」とか「キャッ」とか言っているのがシロは何か楽しい

先程まで盾を構え武器を振るっていた幾百もの魔物たちは蹴散らした

今は空からの爆撃と遠距離から飛んでくるバリスタの矢が鬱陶しい


「サ・スト<天変の雷嵐>」

「フ・メイ<極炎憤怒の災禍>」


アヤカが呪文を唱える、直上に数百メートルの二重の魔法陣が浮かぶ

黒く禍々しい雲が何層も渦を巻く、紫色の雷が荒れ狂い上空の敵が撃ち抜かれる

同時に魔法陣から炎の渦が立ち上り踊り狂うようにクネクネと動く

炎の先端が城に延び城の一角が爆発して弾け飛ぶ、木は燃え石や鉄は溶けて塊となる

どうやら爆撃と遠距離攻撃も止んだようなので城門を潜るとする

城門を潜ろうとするとまた魔族が押し寄せてくる、次から次と面倒である


「ピ・ケミ<神威純潔の領域>}


シロが右手を挙げて神の言を唱える

天に神の紋章が輝き幾千幾万の淡く輝くオーブが雪のように降ってくる

オーブに触れた魔族は消失していく、体が淡い光に包まれてこの世から消失する

更にやってくる者たちもオーブに触れて消失していくことであろう

しかし建物内のバリスタは面倒である、アヤカがさらに魔法を発動する


「エ・ラン<天槍穿通>}


直上に数百メートルの魔法陣が浮かぶ、風が渦巻き質量を持ち始める

幾百もの風の槍が魔王城の壁面に突き刺さる、崩れ落ちる岩壁

今や外から魔王城の城内を見学する事も出来る、風通しが良くなったことであろう

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