第6話

王城で一月ほど滞在した後に邪神封印の旅に向かわされる

王城の宝物庫が解放されて魔導具が下賜される

大聖堂の聖櫃が解放されて神器を女神より賜る

下女として獣人族の少女が1人付けられる

道中の案内人として高レベルの冒険者のパーティと同行したが

魔族の勢力圏の手前の町で別れる


「それじゃーここまでだ、世界の事を頼んだぜ」


「うん、いままでありがとう」


「いいってことよ、じゃあな」


笑顔で手を振り去っていくパーティリーダーの騎士崩れの戦士

その向こうで小さく手を振るパーティーのメンバーの面々

剣士にモンクにレンジャーに神官に魔術師、今日まで旅してきた仲間である

彼らはこの世界での生き方を教えてくれた

実戦…実際に敵に相対しての戦闘である、人数の有利不利など集団戦闘も経験する

キャンプの仕方から食料や水の確保の仕方に料理の仕方までも教わる

冒険者ギルドへの登録もすまし、仕事の受け方も教わった

宿の取り方から料金の値切り方まで町での生活の仕方も教わる

彼らは仲間であり家族であった、語り合い分け合った

シロも荒んだ心が回復のを感じていた、力強い仲間の支援を感じた

アヤカも夜な夜な逃げ回らなくてもよい生活に満足していた

大聖堂でも王城でも同性から避けられていたアヤカは神官と魔術師とよく話をした

女性の神官と女性の魔術師はアヤカの良き友人となり良き姉たちであった

一緒にお風呂に入り一緒に寝る、女の子グループで恋の話に花を咲かせる

そんな仲間ともお別れである

町を見下ろす雪山の向こうは魔族の勢力圏である



万年雪をいただく雪山の標高が1万メートルに達する山脈の1つである

神の加護により寒さや低酸素からシロもアヤカも守られる

だがしかし山登りは嫌だとアヤカが駄々をこねる、歩きにくいと言い出す

そこで冒険者ギルドの支部長から大回廊のダンジョンを提案される

雪山の中腹に口を開ける大回廊は太古から活動を続けるダンジョンである

大回廊ダンジョンの中層部は山の向こうに通じていた

神殿の入り口を模した大回廊ダンジョンの入り口

中に入ればもう引き返す事ができない道である


「ミーナ、ここで君を解放しようと思う」


「そうね、もっと早く解放してあげればよかったわね」


「そんにゃ…」


ミーナと呼ばれる白茶の髪と鳶色の瞳、猫耳と尻尾の獣人族の少女

王都から下女としてシロとアヤカに同行していた

ドジでおっちょこちょいだが明るい頑張り屋の少女である

その明るさにシロもアヤカも何度も救われた、かけがえのない仲間である


「もう、ミーナは必要にゃいですか?」


鳶色の瞳に大粒の涙を溜めて懇願するように尋ねるミーナ

シロは首を振りミーナの肩に手を置く、アヤカがミーナを後ろから抱きしめる

優しく温かいその温もりをミーナは感じる、捨てられる訳ではないと知る

しかし、ミーナは帰る場所は存在しない

ミーナの村は魔族の進行で潰された”見せしめの村”の1つである

村人は全て殺され吊るされた、生き残りはいなかった

唯一の例外であるミーナは吊るされた母親から生まれた所を拾われたのだ

そのミーナも獣人族という事だけで奇跡の子ではなく忌子として扱われた

教会に養われるべき神の子になれず教会という名の家族の外にミーナは置かれた

教会の下僕となり獣人族という罪が消えるまで教会に奉仕し続けなければならない

ミーナはそれでもいいと思っていた、それが自分の存在理由だと思っていた

しかし、シロとアヤカは違ったミーナを仲間として家族として接した

ミーナは世界が変わった気がした、色の無かった世界に色が生まれた気がした

嬉しいと思った、楽しいと思った自分は幸せなんだと感じるようになった

感じたことがない感情が溢れた、それをくれたのがシロとアヤカだった

ミーナはシロとアヤカと離れたくないと咽び泣く


「わかったよ、ミーナ一緒に行こう」


シロのその言葉にピクリとミーナの猫耳が動く

恐る恐る顔を上げてシロの顔を覗き見る、頷くシロを見てミーナの顔に笑みが差す

腫れぼったい瞼を見開き、涙が流れるのをそのままにシロに飛び付く抱き着く

今度は嬉し泣きで嗚咽を漏らす

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