第5話

世界は歓喜する

邪神封印の為に勇者と聖女が召喚されたことが世界中に報じられる

整列する騎士団に迎えられて王への謁見に始まり数々の式典が催される

大聖堂から法皇と聖母も呼ばれ人々の前で勇者と聖女に神の祝福を与える

パレードも執り行わる、王族と共に馬車に乗り民衆の歓声を受ける

七色に輝く色とりどりの魔法と数々の奇跡が昼夜の空を覆う


各国から王都に使者が押し寄せる、披露宴での令嬢と令息の列が連なる

シロの目は次第に虚ろになっていき世界が亡べばいいと呟き始める

アヤカへのアプローチも次第に過激になっていった、相手も手段を択ばなくなる

薬や魔法を駆使し人手を使いアヤカを追いつめてくる、強姦団と言っていい位である

飲食物に薬を仕込むのは常套手段として、気化薬を風に乗せて運んでくる

手鏡やブラシなどの私物にすら塗り薬を仕込まれる、浴室の湯ですら油断はできない

直接魔法を使ってくる者たちは既にアヤカに危害を加え始めている

生きてさえいれば手足を落としてでも捕まえる気である、もはや暗殺者レベルである

アヤカも必死である、今までは手加減してきたがそろそろ手加減もしきれなくなる

何度ひとりで逃げようと考えた分からない、しかしシロの傍から離れられない

アヤカはシロから離れたくないのである



民衆は世界に絶望していた、終わりのない魔族との戦争と重税

魔族との戦争に駆り出され、働き手不在で収穫の減る農作物

野盗となる者も既に出ている、村が丸ごと野盗の巣なども今や珍しくもない

生き延びるために子供を奴隷商に売り渡し、老人を口減らしの為に山や谷に捨てる

明日をも知れない毎日に民衆の心は救いを持てめていた

勇者と聖女はそんな民衆の一縷の希望であった

しかし、人々は知る事になる

勇者は聖女は世界を救う、それは国を権力者を守るための戦いである

今の治世が、この地獄のような生活がこの先も続くという事である

人々は考える

邪神こそが民衆の救世の神ではないのかと

死こそが救いの道ではないのかと



シロは王城の通路を速足で進んでた、誰にも見つからずに静かに素早く

心が逸る、早く会いたいと気持ちが急く

いつ以来であろうかこんなに感情が揺れるのは、身も心も軽く感じる

王城での種馬の日々、次第に訓練の時間も削られ部屋から出る事も禁じられる

次々と扉から女性が現れシロに愛を囁くが、事が済めば無言で扉から去っていく

勇者の特性か女神の加護なのだろう、シロは疲れる事も無ければ果てる事も無い

勇者は精神も疲弊しない、しかし心は疲弊する

物として扱われる毎日にシロの心は限界であった、いや既に限界を超えていた

目的の部屋の前に立つシロ、期待に胸を膨らませて扉を開く

窓辺には長い金の髪を後ろに1つで束ね、神官の礼服を着て窓辺に佇む聖母の姿

シロの姿を見とめ微笑む


「何か御用でしょうか?」


「あいたかった」


「そうですか」


「僕はもう…僕は貴女と一緒に居たい」


「それは出来ない事で御座います」


「僕はもう嫌なんだ、こんなのおかしいよ…こんな事で世界が救えるわけがない」


「それも勇者様の使命に御座います」


シロは自分の境遇を、世界の現状を唱えて自分の主張を取り繕う

自分の気持ちを理解してもらいたいと聖母に縋りつく

そう、シロはただ聖母に甘えたいだけなのである


聖母はシロがこの世界にきて最初に見た女性であり、教師であり従者であった

そして、何よりもシロの初めての女性である

聖母の髪を瞳を唇を肌をシロは思い出す、暖かさを柔らかさを思い出す

母を知らず女性を知らなかったシロが手に入れた、始めての温もりであった

シロにとって聖母は癒しである、聖母が傍にいれば他に何もいらないとさえ感じる

しかし、そんなシロを聖母は拒絶する

シロは驚く、聖母も本心では自分と同じ気持ちだと思ていた

裏切られたと心が騒めく


聖母は孤児から選ばれる、孤児の中から才能を見出された少女が聖母に選ばれる

孤児にとっては女神が母であり法皇が父である、教会は家族である

そう小さなころから教え込まれる

シロは聖母との夜伽の際に聞いた聖母の境遇を自分の都合よく解釈していた

彼女も温もりを欲していると勝手に思っていた

シロと聖母が初めて同士であったこともシロの情が思考を鈍らせた

聖母は教会の命により勇者の傍女として仕えたのである、シロにではない

シロはその事に気が付いてしまう

聖母がシロを拒絶して、自らの下腹部を愛おしそうに撫でる姿を見て

彼女も他と同じなのだと

シロは聖母の中に自分の居場所が無い事を悟り部屋を後にする

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