第2話 

七色に淡く輝く銀の髪と瞳を持つ女神

大きく開いた胸元を強調するフリフリの白いブラウスから覗く白い肌

フロントが膝上丈の白いテール・スカートから延びる脚線美と白いハイヒール

女神と呼ぶには少しばかり妖艶な雰囲気である


女神がニッコリと笑顔で2人の前に現れた時にアヤカは膝から崩れ落ちたorz

アヤカは恋愛成就の噂に賭けていた、勇気を振り絞りシロを誘った

一世一代の賭けだと考えていた、これを逃して次は無いと考えていた

アヤカとシロは志望校が違う

アヤカは地元の高校を受験するが、シロは県外の高校を受験する

「落ちたら一緒の高校だよ」と、シロは笑っていた

しかし、アヤカはシロに受かって欲しいと思っている

思っているが離れたくない、離れたくないが落ちて欲しくはない

そんな葛藤で勉強が手に付かないアヤカを見かねて親友の恭子が教えてくれた

その噂がアヤカにとって最後の希望だった

アヤカは泣いた、溢れる涙を止めることが出来なかった

悔しいのか、悲しいのかもわからない

唯々後から後から涙が溢れてくる

泣きながら何やら笑いまで込み上げてくる

空虚さを感じるとでもいうのだろうか脱力する

もう、全てがどうでもよくなった


「アヤカちゃん、大丈夫だよ」


シロがアヤカの頭をポンポンと優しく叩く

振り返るとシロのいつもの笑顔がソコにある、笑うと目が線になる猫のような笑顔

どんなに辛くてもシロの笑顔で元気になれるアヤカの回復薬

しかし、その笑顔も見納めになるかと思うと自然に涙が溢れてくる


「ジィ…ロォ…あだ…あだじぃ…もうぅ…う…」


アヤカは溢れる涙をそのままにシロに言葉にならない言葉を伝える

伝える言葉に意味など無い、口をついて出ただけの意味のない言葉である

シロは「うん」「うん」と頭を撫でて頷く


「そろそろいいかしらぁ?」


ズビビビビーっとアヤカが鼻をかんだ所で女神が声を掛ける

女神はしゃがみ込みハンカチでアヤカの涙を拭き取る、顔を拭いて髪の毛も整える

「うん」と満足げにアヤカの顔を見てから魔法を唱える


「クール<冷気>」

「ヒール<回復>」

「クリーン<清潔>」


アヤカの瞼の腫れがひき、赤くなっていた顔も落ち着いた色合いを取り戻す

涙でグシャグシャだった顔も元の可愛らしい少女の顔に戻る

アヤカも「ありがとう」とお礼を言えるくらいには落ち着きを取り戻したようだ


「ごめんなさいねぇ」


女神が申し訳なさそうに話し出す

いま女神の管理している世界の聖と邪の均衡が崩れて近々邪神が復活する、と

邪神が復活すれば大地は割れ天は落ち生物は死滅する

聖の力が衰えた今は邪神の復活に対して神が降臨することが出来ない

そこで勇者と聖女を召喚して人々に聖の心を呼び起こさせて神力で邪神を再封印する

そこで選ばれたのかシロとアヤカでだった

理由を聞いたところ”たまたま”知り合いの古い神の結界内にいたからと説明された


「なんで…なんで、あたしたちがそんなことをっ!」


アヤカが抗議するのも当然と言えば当然である、彼らには関係のない話である

女神の管理する世界が滅んだところで地球の裏の国が亡ぶほどにも影響は無い

アヤカにとってはつい先程までの日の出の方が切実な現実であったのだから

しかし、シロは違うようである目を輝かして「やりますっ!」と力強く答えている

アヤカはその言葉に一瞬頭の中が真っ白になる

シロにとっては勇者>高校>アヤカの順なのかと、また泣けてきそうになる


「シロ、あんた受験はどうするのよっ!」


「でもアヤカちゃん、世界の危機なんだよ?」


「世界の危機を救ってもあんたの人生が終わったら意味無いでしょっ!」


「でも、人々が困ってるんだよ?」


腹が立つ…途轍もなく腹が立つ、アヤカが指が白くなるほど拳を強く握りこむ

シロに志望校を聞かされた日の事を思い出す

家に帰りその高校をネットで調べて県外の男子校だった事を思い出す

それから勉強が手に付かずに食事も喉を通らなかった日々を思い出す

親友の恭子に噂を教えてもらった日の喜びを思い出す

どうやってシロを神社に誘うか悩んだ日々を思い出す

大晦日に一緒に行ってくれると言ってくれたシロの顔を思い出す

「うん、いいよと」笑ってくれた顔

しかし、腹が立つ

シロに向き直り地面を踏みしめて腕を振り被り渾身の一撃を撃ち放つ

アヤカの拳がシロの顔面を襲う


「ストーップ!!」


女神の制止でアヤカの動きがピタリと止まる

が、遅かった

アヤカの渾身の右ストレートはシロの右頬を撃ち抜いていた

全身のバネが遺憾なく発揮された綺麗なフォームである

シロはゆっくりと魂が抜けたかのように崩れ落ちる


「アヤカぁ、これはぁ貴女にとってもぉ良い話なのよぉ?」


「あ"ー?」


座った目で握り拳のまま女神の方に向き直るアヤカ

女神は腰が引けて数歩後ずさりをする


「アヤカぁ、あなたぁ鍛冶の神にぃ縁結びのお願いをぉしてたでしょぉ?」


「なんでそれを?って、鍛冶の神?」


「そうよぉ、あの社にはぁ天之御影命にぃ奉納された太刀がぁ収められているのぉ」


「え?でも?」


「聞いたわよぉ、あ~んな事やぁこ~んな事をぉお願いしたんですってぇ?」


「嘘よ、そんな事お願いなんてしていないんだからっ!」


「まあいいわぁ、貴女にとってのぉ良い話をぉするわねぇ」


「なによっ」


「邪神の封印をぉしてくれたらぁ元の場所ぉ、元の時間にぃ戻してあげるわぁ」


「当り前じゃない、それの何処が良い話なのよっ?」


「それはぁ、邪神をぉ封印するまでぇ一緒に居られるってぇ事なのよぉ?」


「それがっ…」


「気が付いたかしらぁ?それまでにぃ既成事実をぉ作ればいいのよぉ」


「でも…」


「最後のチャンスなんでしょぉ?」


「ぐぅ…」


「契約成立かしらぁ?」


シロに回復魔法を掛けて起こす、ニコニコと契約の説明をサックリと終わらせる女神

女神はシロの背中におっぱいを押し付けて耳元で甘い声で囁きサインを迫っている

シロも満更ではなさそうな顔でモジモジと体を動かしている

悪魔のようにサインを迫る女神からシロを守るアヤカだがシロの視線に気が付く

女神のおっぱいを見ている

言葉では言い表せない敗北感を感じながらもアヤカは書類の内容を確認する

契約に穴が無いか書類をとにらめっこするが文字がとてもとても小さい

さらに嫌がらせのように分かりづらく書かれている、読ませるつもりがないのだろう

しかし、細部まで時間をかけて読み解く

まずは重要な帰還に関する内容が書かれていなかったので交渉する事にする

交渉の結果、邪神の封印の成否に限らず帰還の約束を取り付けた

次には帰還後の報酬も無かったので交渉するが難航する

この世界の如何なるモノも持ち出し禁止なのである

者も物も能力等のあらゆるモノも元居た世界で再現できないのである

これも成否に限らず帰還してから現地の神の加護を得られる約束も取り付けた

以上で契約を締結する


「世界をよろしくねぇ」


女神の投げキッスをアヤカが素早く叩き落とす

人類の存亡が掛かっているとは思えないくらいに気軽に送り出されるシロとアヤカ

召喚された先は大聖堂の最上階であった

円形の部屋は広く天井も高かい、均等に配置された柱と綺麗に磨かれた床に輝く紋章

正面には送り出してくれた女神よりも清楚な女神像が飾られていた

女神像の下には母性という言葉のしっくりくる女性、聖母が佇んでいた

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