第2話 Everydayライフ。

朝。眠い。体が起き上がることを全力で拒んでいる...なんとか自力で起きないと。


しかしながら、やっぱり眠い。

そもそもとして、何故どうして何故故に朝になると次の日が来ると人は起き上がり1日を始めるのだろうか?


それは一体どこの国の法律で定められているのだろうか?

我が国では残念ながらそのような法律はない。ただ朝になれば人は起きるものだという固定概念や先入観に囚われ多くの人々はなんの疑問も抱かず自らの体にムチを打ってまで起き上がるのだ。自分が持つ睡眠欲を断ち心を奮い立たせて起き上がるのだ。

その事を俺は甚だ可笑しいと思う。笑うことが可能である。故に可笑しいのである。


何故己が睡眠欲という人間の生理現象とまで言える大切な欲求を断ってまで朝起き上がらなければならないのだろうか?


まぁ、数多の凡俗共はなんの疑問もなくその固定概念、先入観の奴隷となり起き上がるのだろうが俺は違う。俺は凡俗共とは違うのだ丸っきり180度体を構成するタンパク質の作りからDNAの配列まで根本的に愚劣な人間共とは違うのだ。

と鼻で世界を笑い、つらつらと長ったらしい屁理屈を頭の中で自分に言い聞かせ自らを正当化し、二度寝を試みるものの自分の中に生じた罪悪感がそれを邪魔する。睡眠欲と罪悪感が心の中で討論を繰り広げるが結局のところは睡眠欲が勝ったらしく改めて毛布にくるまり眠りに落ち...


「お兄さま、朝ですよ起きてください!」


と元気よく扉を開け放ち部屋の照明をつけ窓を開ける、流れるようにその一連の動作が行われる。こもっていた部屋の空気が一掃され春の穏やかな空気が部屋中に広がる。

なんて、生易しいものではなく現在は4月と言えども朝は当然の如く寒い。故に部屋に寒風が流れ込みあっという間に部屋が墓場と化した。

その墓場に転がる凍死体。否、俺芥川龍介は未だ毛布にくるまったままピクリとも動かず起きる気配が全く持って無い。冷気が漂うこの部屋の中で僅かな温かさを求めて毛布に密着する。既に脳内討議では二度寝と決まったのだ、今更にその意見を変えることは出来ない。


「もう、お兄さまったら...毎日起こす私の身にもなってください。」

とため息混じりに嘆く美少女が此処に1人。彼女こそが我が実の妹 芥川 史華あくたがわ ふみかである。黒髪ショートの童顔で見るからに小学生なのだが、信じられないことに彼女は中学生らしい...兄ながらに信じられない。

しかしながら、事実なのだから受けとめるしかなかろう。


「史華、俺はお前の全てを受け入れるよ。」


赤面する妹を見ながら迎える朝はなんと清々しいことか。

やはりこいつは手玉に取りやすくて面白い。


「か、からかわないでください!」

と顔を赤くして言う彼女に俺は満面の笑みを浮かべこう続けた…


「おはよう!」




いつも通りの朝のやり取りを終え祖母を交えて朝の食卓を囲む。今日の朝食は秋刀魚の塩焼きに玉子焼き、味噌汁とご飯は毎朝決まって出る。ま、見ての通りコテコテの和食だ。今どきこんなにThe Japanese-style food と言ったような食卓はあるだろうか、いや恐らくないと思う。それでいて、椅子に腰掛けテーブルを囲んでいるのならごくごく一般的であると言えようが、現在我々3人が囲んでいるのはひとつの部屋丸ごと使ってギリギリ収まる大きさのテーブルの周りに座布団を敷いて畳の匂いが心地よい部屋で静かに囲む食卓だ。

これほどの光景をこの日本で幾つ見れるだろうか。それに、3人とも背筋をピンとはりとても良い姿勢で大きな咀嚼音もなく聞こえるのは箸が触れる音くらいである。学ラン、セーラー、着物とが一堂に会して食事をしているところを客観的に見るとこの家だけ時間の流れが三四十年程遅いような感じがする。厳格な祖母の口が開き何かを語ろうとする。どうせまたつまらない小言だろうと俺は眉を嫌そうに寄せた。


「あ、私ハワイに行くから。」


...?

...?

「は、Why???」


あまりの驚きと疑問に思わず口走ってしまった。我ながらつまらない洒落だがここはスルーして理由を述べて欲しい。決して決して狙った訳では無いのだ。故に面白いとかそういうのではなく真面目に返答して欲しいところではある。


「つまらない洒落だねぇ〜。」

心外である。


「もっと、他に言うことは無いのかい?何で行くのか理由くらい聞いてもいいだろうに。」

心外である。


「まぁ〜、いいか。あんたは昔からトロイからねぇ〜。」

このク○バァバァ。


「何年か向こうで暮らすから。色々と家のことは任せたよ。」


と、愛すべき孫のことには目もくれず自分の言いたいことを言いたいだけ言ってしまいには守るべき家を孫達に丸投げする、この理不尽極まりない老婆は俺の祖母である芥川 菊 である。俺は飽きれ真正面にいるにもかかわらず頑として無視を決め込んでいた。すると、流石と賞賛すべきであろう我が妹がこの哀れな老婆に相槌を打った。


「はい、承知しました。お祖母様。」爽やかな笑顔で返答する史華に祖母も機嫌を良くした顔で箸を進めた。




家の門をくぐり学校へ向かう。家の門というのはなんとも過剰表現のような気がするが、仕方の無いことにこれが本当にもんなのである木に鉄を打ち付けて作っている大きな厚い門、開け閉めだけでもひと苦労なので普段は門の隣にある扉から出入りする。

なので、正確に言えば家の門の隣にある普通の扉をくぐりである。大きな門だけが異物感満載で存在するのではなく家を取り囲むように人の身長より高い塀で囲まれている。取り囲まれている家も家と言うより豪邸であるがあまりその表現は好きではないので家と言っている。豪邸などと自分の家を表するのは小心者の俺としてはなんとも気が引ける。決して小金持ちの成金野郎が俺の家より劣る大きさなのに自らの家を豪邸豪邸と言っていることを馬鹿にしている訳では無い。我が家の庭の庭園に着いても触れておきたいところだか今分時間がないので道を急がせてもらう。

ここら一帯はいわゆる高級住宅地というやつで故に我が家だけが周りの家々からして異質なのではない。ここの地域は街灯やコンビニなど設備こそ整っているが暮らしている人間の心は劣悪だ。やはり人間金を持つとろくな性格にならないらしい。たまにとても人としてできた方がいるがそれこそ真のお金持ちという人なのだろう。

ま、それはさておき俺はここから徒歩10分の駅に向かいそこから電車に乗る。家から駅までに何本かのルートがあるのだがその中でも最短距離のルートをいつも歩いている。かつてはそのルートの通過点に大きな犬がおり、行く手を阻んでいたのだか今となってはこちらの方が体格も頭脳も上であるが故になんの障害にもならない。隣を歩く史華も特に気にしてないようだ。

しばらく歩くうちに史華が心配するように


「あの、お兄さま。家に海風ちゃんを置いてきてしまって本当に良かったのでしょうか?」


「別に特に気にする事はないと思うぞ。どうせあいつの事だから家で悪魔の召喚でもやってるのだろうよ(笑)。」


「そ、そうでしょうか?...」

すると、背後から何やら声が聞こえてきた…

思わず振り返った俺達は仰天した。そこには全速力でこちらに走ってくる少女、それは、俺の親戚である国木田 海風くにきだ うみかだった。


「待ってぇーーーーーーーーーーー!!」

そう叫びながら走る彼女の表情は完全に殺気と怒りを纏っていた。その気迫に気圧され俺と史華はしばし海風を待っていた。が、表情と勢いの割にはあまりスピードはなく俺達が気持ちを持ち直すだけの時間は十分あった。自身の2本にまとめた黒髪をなびかせながらやっと俺たちの元に着いた。息も絶え絶えに綺麗な碧眼の瞳で俺を睨みつけながら海風は


「な...なん...で...おいて...た!」

息も絶え絶え過ぎて言葉になっていないが言いたいことをおおかた伝わった。


「いやいや、お前の儀式を邪魔しては悪いと思ってな。で、どうだ悪魔は召喚できたか?」


「ふ...ざける...な!」言葉が途切れ途切れで息継ぎに忙しいらしく先程からほとんどまともに話せてないようなので心優しい俺達は主に俺は海風の息が整うまで待つことにした。


「よし、海風の息も整ったようだから、そろそろ行くか。」


「おい人間、何も無かったかのように振舞っておるがどういうことか妾に説明してもらおうか。」と、いつものキャラを作れるくらいには回復した海風が見下したような目をし俺を指さして問う。そう、この美少女はただの美少女なんかでは無い。美少女、中二病の国木田 海風だ。


「貴様の様な輩に割くような時間はこれ以上ない、俺も何かと忙しい身であるからな。」

と言って先を急ぐ。


これは史華だけが今のところ知っていることだか今のように、つまりちょっと中二チックに兄が言うと海風の表情が若干照れているのか赤くなるのだ、少しの間だけだし基本人の事をよく見ない兄は気が付かないだろうが目ざとい史華は海風が一緒に住むようになってから最初の頃こら気がついていた。その海風の感情が恋心なのかどうか疑いをかけている。もし、間違っても兄に手を出すようなら...と、ここで史華は自分が今まで兄に対する気持ちとはなにか違った感情に気がついた。しかし、それが何なのかは本人にはまだ分からない。

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