第3話 月曜日の学校
駅のホームに着くとちょうどいつもの電車が来たので内心安心した。都会とは違い田舎は電車をひとつ逃すと次は数時間後というは当たり前である。
と、そこで一人の少女と目が合った。健康的な褐色肌に制服のスカートから覗くスラリと伸びた綺麗な足整った顔立ちに落ち着いた茶色の髪を後ろで1本に束ねている。お互い目が合うと二人とも気まずそうに目を逸らす。気まずい雰囲気を察した史華が
「電車危なかったですね、お兄さま。」
となんともなしに声をかけてきた。
「あぁ、そうだな。」
と努めて平静に俺は返答した。
海風はと言うと何も察していないらしく俺の視線に気づくと未だに朝起こさなかったことを引きずっているらしく口を尖らせてぷいっとそっぽを向いた。
電車に乗り込むといつも通りがら空きで空席が目立たないほど空席が多い。逆に言えば、座っている人が目立つくらいだ。そんな、見飽きた車内の景色には目もくれず俺は自分の特等席電車のドアから1番近い席に座り目を瞑る。電車の中では少しばかりの仮眠をとるのが俺の中で通例である。学校に着けば史華が起こしてくれるので何ら心配はいらない。
俺の隣に史華が座り海風は俺達から対角線上にある1番離れた席に座り車両の隅っこから俺達兄妹に睨みをきかせる。先程の少女も同じ車両に乗り込んだ。出来れば違う車両に乗って欲しいものだが、そもそもとして、選ぶ権利はあちら側にあるので致し方なかろう。
電車が走り出し心地よい揺れが体に伝わるとすぐさま眠気が襲ってきたが俺は身を任せされるがままに眠気に犯され眠りについた...
雪が降り積る中目の前には少女が立っていた。忘れもしないあの顔だ。
「「ごめんなさい。」」
涙で視界が歪む。目の前の少女が背を向けて歩き出す。遠くなる愛おしい人の背中を俺は地面に膝をつき見つめることしか出来ない。追いかけることも出来ただろう。
しかし、心を折られ再び立ち上がることが出来ない。心臓とは違った体の中心にある心の部分にグサリと鋭利なナイフが刺さり抉られ、ポッカリと穴が空いた感覚だった。凍える風が体内を吹き抜け、うちからも外からも体温を奪われる。そろそろ、霜焼けによる膝の痛みも消え、意識が遠くなる。無念だ悔しいなどの感情は無かった。ただただ呆然と無様に口を広げ口角から涎を垂らし虚無のままに見つめる。段々と彼女にすら焦点が合わなくなる。溢れる涙を拭おうとはしなかった。この感情が、あってはならないこの感情が、彼女を未だ諦めきれてないこの感情が洗われるならそれで良かった。洗われて払拭されるのなら良かった。そうなって欲しかった。
意識が途切れると共に目が覚めた。なんとも寝覚めの悪い。しばらくは、目を瞑ったままにしておこう。あとひと駅なのでそろそろ史華が起こしてくれるはずだ、妹の仕事を奪ってしまっては可哀想だからな。
「お兄さま、起きてください。駅に着きますよ。」
トントンと優しく俺の肩を叩く史華。この時に感じるなんとも言えぬ優越感たるや、是非とも全国の妹難民に高値で売付けたい。
「あぁ、分かってる。」
と、素直に史華に応じて目を開ける。海風の方を見ると未だにぐうすかと寝ていたので、史華は呆れ気味に溜息をつき海風を起こしに行った。
どこを見るわけでもなくぼんやりと窓の外を見ていたのだが何やら視線を感じる…先程の少女だ。本人は本を読んでいる風を装っているのだろうが本越しにチラチラと俺を見ているのはバレバレだ。
まったく、あいつは本を読むなんて柄じゃないのだがな。
電車が止まり、扉が開く。立ち上がり外に出る俺の後ろから史華と寝ぼけた目を擦りながら海風が着いてくる。
はぁ、今週もとうとう始まってしまった。また、めんどくさい学校生活が始まるのかと思うと何だか足取りが重くなる。
教室の中は春の陽気の如く新しい環境に対するウキウキした気持ちや新たな恋の予感に心踊らせた空気が所狭しと満ちている。
しかしながら、俺は早くも梅雨まったなだかであった。一週間前はさすがに色々と期待を込めて入学したものの、クラス内での自己紹介にて盛大にやらかし、浮いた存在となった。
...「「えー、初めまして、芥川龍介です。今このクラスに充満する浮かれた空気は正直いって好きではありません。もし、俺に話しかける時には十分に心の換気を行ってから話しかけてください。」」...
クラス中にどっと笑いの渦を起こすジョークの予定だったが何故か皆が本気でとらえたらしく未だ学校入学後に俺に話しかけてくるやつは一人としていない。
カンゼンニヤラカシタ。
だが、幸運なことにこの学校は中高一貫校で、俺は中学部から進学してきた身であるから中学部の友人がいるので新規の友人は出来なくとも旧知の友人と共に高校生活をenjoyできる。
はずだった。
それはもし俺が中学で友達がいればの話である。故に中学で友達がいなかった俺には高校生活enjoyなどは無縁の話である。ま、そもそもとして中学で友達をまともに作れない人間が高校に入っていきなり友達を作れるようになるなんてことはまずないだろうな。
うむ。悩ましい限りだが。一生に一度しかない青春をどのように謳歌しようか。いっその事 隣○部などを作ってみてもいいかもしれない。そうすれば、黒髪ツンデレ美人に金髪巨乳、ロリシスター...etc とはお近ずきになれそうだ。しかし、俺が好きなキャラはなんと言っても幼なじみキャラである。故に黒髪ツンデレ美人と金髪巨乳にしか、興味はないのだがな。しかし、どうだろう?金髪巨乳は幼なじみと言えるのだろうか?あれは...と、そろそろ辞めておこう。俺もさすがに大物作家の権利侵害などと言われては旗を畳むしかなくなる。
俺の理想の幼なじみキャラ像は隣に住んでおり毎朝 おっきろー!と上から飛び乗って起こしてくれて毎朝一緒に登校する。雪の日も雨の日も毎朝欠かさず来てくれる、そんな献身的な美少女が好きなのである。幼なじみとはなんと最高なポジションなのだろうな昔からお互いのことをよく知り何度も遊び苦楽を共にする。
素晴らしい...素晴らしすぎる!!!
「あ、あのー...なんだか盛り上がっているところ悪いんだけどちょっと話いいかな?」と、俺を妄想の中から引きずり出した、困ったような笑顔を向ける少女が1人。
誰だ?
中学が同じ奴なら人数も少なかったのでぼんやりと顔くらいは覚えているが今俺の目の前にいる少女は、まったくの初対面である。短く切りそろえた黒髪に黒縁メガネ周りにいる華やかな じぇーけぇー とは雲泥の差程の地味さである。
が、しかし、その四角く区切られたレンズの向こうにある綺麗な瞳を俺は見逃さなかった。...こいつ、一年後化けるな。と、一瞬で思った。恐らく学校に馴染み色気ずくとすぐに男子からは注目の華、同種からは嫉妬の種として扱われるだろう。まったく、同情するよ。などとし考えて悪い笑みを浮かべているうちにどんどんと目の前の少女の顔が困惑していく。いやいや、いつも口に出さず長々と一人で考えてしまうのは俺の悪い癖だ。早急に治さねばならまいよ。
「それで?どうした、何か用か?このクラスから完全に隔離されている俺に話しかける物好きはそうそういないだろうから、恐らく業務連絡か何かだと思うのだけれど。」
と、ついつい人に話しかけられたことを舞い上がりペラペラと一人で話してしまった。これも悪い癖だ。
「業務連絡って...そんなに卑屈に出ないでよ。でも、その通り。さっきのHRで書いたアンケート出してくれる?あと出てないのは芥川君だけなんだけど。」と、やれやれと言いそうに腰に手を当ててその少女は俺に言う。
「あぁ、そう言えばそんなもの書いたな。」
と、俺は机の中からクシャクシャになったアンケートを取り出し手渡す。そのプリントに顔を顰めた少女だったが、俺とこれ以上話すのが嫌なのか何も言わずに立ち去った。さぁ、今日も一人で生き抜くか。
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