第7話冴えない幼馴染《ヒロイン》の育てかた 前編


「うー、寒っ」

今日は約束の日、長い長い一週間に終止符を打つべくして家から勇んで出た訳だけど、寒っ寒すぎる。

なんだってこんな日に外に出ないといけないかっていうのは、あの傍若無人の幼馴染がこの日を指定したからで......

こりゃ、英梨々も後悔してそうだな、なんたって日頃は引きこもりだし

まあ、寒さや今日の段取りなんかを考えていると駅に着いた。

「おはよう、倫也」

「おう、おはよう英梨々。ってまさかお前のほうが先に来ているとはな」

「まさか楽しみで早く来ちゃった♪とかじゃ......」

「な訳ないでしょうが〜!」

痛い、恥ずかしい、くすぐったい、良い匂いがぁー

ツインテールビンタは精神的にきついな色々と......

「だいたい、そんなこと言える訳ないじゃない...」

「えっと、なんか言ったか?」

「もういいわよ、ホラっ電車来るから」

「おう」

「そういえば、その服って先週のやつ、なのか?

「うん、結局これが一番しっくり来たから」

「ま、まあ、似合ってるし良いと思うぞ」

「うん...」

なんていうか、加藤と六天場モールに行った時とは違う、良い意味の息苦しさって言うかもどかしさと言うのか、そんな雰囲気に当てられてこれがマジデートなのかなんて思ったり......

まあ加藤とのもの楽しかったんだけどさ



「で、どうしてここな訳」

「いや、丁度お話があったから、どうせなら来ようぜってことで」

俺達がやって来たのはアキバ!そして『icy tail』の初ライブ会場!

「いや、意味わからないから、大体デートって話だったのに他の女と会うってどういう根性してるのよ!」

「でも英梨々だって認めてたじゃん!」

「ええ、認めてたわよ音楽に関してはね。でもだからっておかしいでしょ」

「頼むからさ、聴いていこうぜ。美智留達凱旋ライブだぁーって張り切ってたし絶対、英梨々にも損はさせないって言ってたからさ」

「えっ、氷堂さんに言ったの?」

「もう始まるから、さあ入ろう!」

言わなくていいことまで言うところだった。



「なあ、やっぱり来て良かっただろー」

「はいはい、わかったって言ってるじゃない」

「いーや分かってないね」

「あんた分かって欲しいのか、分かって欲しくないのかどっちなのよ......」

ふと英梨々が立ち止まる。

「ん、どうしたんだ?」

泣いてる?なんでだ?

「英梨々、ごめん、何かマズイこと言ったか?」

「えっ、いや、大丈夫よ」

そう言った英梨々の笑顔は、泣くのを我慢した、作り笑いではあったけれども前に見たよそ行きのものとは違っていて、なんだかギャルゲーのワンシーンのようだった。







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