二歩は反則だけど三歩は反則じゃない。前半
9月21日
世間は文化祭の余韻を引きずっているが、我々将棋部部員二名はあいかわらず、部室で駒をペシペシしていた。
「斎藤七段はこのままストレートですかね」
ペシ。
「中村王座も強いからな。このままでは終わらんだろ」
ペシ。
先輩は中村王座応援なのかな。その割には受け将棋な気がする。
「イケメン対決とか言われてるが、将棋は顔じゃないっつーの」
「将棋だってめちゃくちゃ強いですから。俺ら将棋でも顔でも完敗ですから」
そして盤上も酷くなっていく。大駒を取り取られ、ペシペシ打ち付けては取られるという、木片ペシペシゲームと言う別のゲームでもやっているみたいだ。
「こんちゃーまた荷物置かせて―」
そしてそういう時に突然の来客が来るのだ。
大橋先輩と同じ学年の女子生徒で長野先輩だ。演劇部所属。可愛い。
とても明るく誰とでも別け隔てなく接するという、将棋部とはまるで反対にいるような人だった。
「はいよー」
大橋先輩は盤面から目をそらさず応える。自然な振る舞いである。
いや、自然な振る舞いに見せようとしている。
対局者として盤を挟んでいる自分だから分かる。
動揺がそこから読み取れた。
「じゃあこっちの方ちょっと借りるね」
対局者ではない長野先輩はもちろんそんな大橋先輩の動揺を察すること無くいつもどおり教科書や演劇で使うのであろう小物をおいていく。
普段は演劇部部室に置いているのだが、部の顧問の先生が厳しく、定期的に部室をチェックするのだという。
本来ならば他の部員のように家に持って帰らなければならないが、長野先輩は量が多くとてもじゃないが持ち帰れない。
困っていたところ、たまたま将棋部部室が目に入り、大橋先輩に頼んだというのが経緯らしい。ちなみにそれが初対面だったとのこと。
「今日は一段と多いですね」
「うん。ほら、文化祭のときに出し物したから、そうだ。観に来てくれてありがとうね」
ダンボール箱をどすんと下ろす。結構な重さのようだ。
何回か部室を出たり入ったりして、荷物を運び入れる。そんなに私物ってあるんだろうか?
「ってちょっと多すぎない?」
大橋先輩も疑問に思ったのか、口に出してしまう。
「いいじゃーん。君らこんな広い部屋で、二人だけだし、将棋はそこだけでできるでしょ」
非難と受け取ったのだろう、長野先輩は腰に手を当てそういう。演劇部だからか本人の性質か、動きが大仰である。
慌てるのは大橋先輩だ。単にちょっとした疑問を言っただけなのにこうなるとは思わなかったのだろう。
パシ。
だからミスをする。
「先輩、二歩ですよ」
「え?」
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