2019/08/24 09:21
「いかないで……」
凛空が私の袖口を掴む。立ち上がろうとした私は、仕方なくもう一度、布団の横に腰掛けた。
人肌恋しくなって誰かにそばにいてほしい時は誰にだってある。
まして、風邪を引いたときなんてなおさらだ。私だって風邪の時は寂しくなる。
「ごめん……風邪移しちゃうから、行っていいよ……」
「寂しいんでしょ?」
「うん……」
結局凛空は、掴んだ袖口はそのままで、少し辛そうな目をしてタオルケットに潜り込んだ。
ここで頷いてしまうあたり、凛空は甘ちゃんだ。まあ、そこが可愛いところでもあるんだけど。
こうも可愛いと、きっと学校では女の子に持て囃されているんだろう。
ちょっと心配だ。でもそれが健全な恋愛なら私は何も言えないだろう。心の痛みを隠して、いつもと同じように笑って、今日はどうだった、って聞くと思う。
「なに、考えてるの……?」
「え、ううん、なんでもないよ」
「……うそつき」
「もう、調子悪いんだから寝てなさい」
心の中でごめんね、と謝っておく。
多分思っていたことを凛空に聞かせたら風邪を引いていようと怪我をしていたとしても、また、怒って、泣いて、手を離してくれなくなるだろう。
それは凛空が辛いはずだから、私はもうしない。
凛空は意外と頑固なのだ。
「お腹空いた?」
「……ちょっと」
「じゃあお粥作ってくるから、一回寝てて」
「ん……」
凛空は渋々だったが手を離してくれた。
私は凛空の頭を撫でて、額にキスしてから立ち上がる。
「おやすみ」
「おやすみ……」
部屋を出て、ドアを閉める。
そして、ドアに背をつけて、溜まった澱を吐き出すように大きく息を吐いた。
凛空はいつまで私と一緒にいてくれるだろうか。
最初はそう長くは続かないと思って、凛空を受け入れた。でも心に壁があった。それは凛空を笑って見送れるようにするための距離だった。
しかし、その壁にヒビが入り始めていた。
凛空を離したくない、と心のどこかで思い始めていた。
私は凛空の彼女である前に凛空の身を預かっている保護者だ。凛空が真っ当な道へ進めるように手助けしなければならない。
でも、それも、もう無理そうだ。
凛空は私を掴んで離さない。そして、私の心は凛空から離れられない。
もう、どうにもできないところまで来てしまった。
凛空を幸せにするために、私はなにをできるだろう。
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