第4話 アンドロイドでも、恋をする
「ん、んん......」
ゆっくりと目をあけると、無機質な白い天井がとびこんでくる。
病院、か。
ということは僕は助かったんだ。
そうだ、アイは―
「おはようございます、マスター」
重い、本当に重い体をベッドにもたれかかるように上半身だけ起こし、声の方を向く。
そこにはアイがいた。
いや、置かれていた、といったほうがいいだろうか。
おへそよりしたがばっつり切られて、椅子の上にちんまり佇んでいるのだ。
「アイ!! どうしたんだ! 」
「マスター、足を見てみてください」
僕はとっさに毛布をはがして自分の足を見る。
僕の足じゃない。
女の子の足だ。
しかし触ってみると、シリコンの感触が手に伝わる。
これは、間違いない。
アイの足だ。
「マスター細いですから、その足もきっと似合いますよ」
「アイ......なんてことを」
「私はアンドロイドですから、また新しい足をつければいいんですよ」
「違う、違うんだよ」
「なにが違うんですか」
「痛かったろ、ごめんな」
「私は痛みを感じるようには設計されてませんよ」
「それは物理的な話だろう」
「どういうことですか」
「アイには心があるんだ、痛かっただろ」
アイは俯いて、顔を隠すように髪をいじる。
そして、小刻みに震えだす。
「マスター、ごめんなさい、私のせいで」
「なにいってるんだ、大丈夫、二人とも無事だったじゃんか」
「......はい」
「アイ、確か僕が事故にあったとき、私は記憶チップを移植すればいい、って言ったよな」
「はい」
「そういうこと、もう絶対に言うな」
「なぜですか」
「それをいってしまえば、俺だって脳を移植すればいい、ってことになるだろ、それに」
「それに」
「君はチップやパーツを交換するたびに、心に痛みが伴うはずなんだ」
「大丈夫ですよ」
「駄目だ、辛い思いしてほしくないんだ」
「マスター......」
「前に話してくれたよな、私は生きているのでしょうかって」
「はい」
「アイ、君は生きてる」
「......っ」
「流れているのが血か電気か、細胞の集まりか機械の集まりか」
「はい」
「そんなことはどうでもいいんだ、たまにカフェに行って、他愛もない話で盛り上がって眠りにつく」
「......」
「それが生きてるってことだよ、それがアイが生きてるってことなんだ」
「マスター、私はまだわかりません、生きているかのようにプログラミングされてるだけなのではと思うのです」
「確かにそうかもしれないな、だけど僕が事故にあったとき、悲しいとか申し訳ないって思ったろ」
「はい、思いました」
「最初はプログラミングされた通り動いてたとしても、そこから経験して、たくさんのことを感じて君は感情を形成したんだ」
「感情......」
「うん、だから君はちゃんと生きてるんだよ」
「ありがとう......ございます」
「だからな? アイには苦しい思いをしてほしくないんだ」
「マスター......」
「ちょっと暗い話になっちゃったな、この足でリハビリでもするか」
「そうですね、手伝いますよ」
「ありがとう、アイ」
アメリカでは、人工感情は恋ができないとされ、欠陥だと言われているらしい。
ただ、アイにはちゃんと血管があってそこを血の代わりに電気がめぐっているんだ。
最初はプログラミング通りでも、徐々に言葉を覚え、たくさん経験して、確固たる自分を形成していく。
それはまるで、赤ちゃんが大人になるように。
だから僕は思うんだ。
アイとも、いつか恋できるんだろうって、さ。
アンドロイドに恋をした。 しみしみ @shimishimi6666
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