第8話水道水は美味しい


「おい!購買でサンドイッチを買って来い!」


「おっ、それじゃあ俺は焼きそば!」


「...メロンパン」


はぁー、と大きなため息を心の中でつきトボトボと購買に向かって歩く。


「...どうしてこうなった」


そう思いながら来宮を犠牲にして逃げ出し、誰かにぶつかりミサイルで爆発させられた時のことを思い出す。





「アガッ!ぐぅぅぅぅ...自動回復、」


自分の細かな傷が徐々に消えていくのがわかる。


『よし、このまま...』


そう考えて必死に傷ついた体を抑えつつ匍匐前進していると


「どこに行こうとしてるんっすか?」


『んなっ!?』


いきなり背後から声をかけられてビックリして振り向く。


「おーい、剛さん!居ましたよぉ〜」


「ご、剛?って!さっきの...」


さっき来宮と一緒に戦った身体強化の奴を思い出すが...


ドサッ!と言う音同時に目の前に足が見える。


「えっ?」


そのまま上を見上げると、物凄い背の高い大男が立っていた。


サァ...


自分の血の気が引いて行くのがわかる。


この頃には大きめの傷は消えてはいないが一番目立つであろう顔の傷はもうない。


服だけがボロボロになって傷が付いているのに顔だけ傷が全くついていない状況を見て相手はどう思うか?


先ほど直撃したときについていた特徴的な顔の傷がなくなっていたらどう思うか?


それは簡単、


「おまえ...回復系の能力者か?珍しいな」


「なっ、」

『なぜバレた?って、完璧にさっき被弾したときに付いた顔の傷か!』


自己回復能力がある事が分かる。


「お前、俺の部下...いや、奴隷になれ、需要はほぼ無いだろうが出会った時に何かしら使えるかも知れないからな」


「..........」


どうするべきだ?


逃げる?


無理だ、まだ重たい傷は治り切ってない


だけどこのままいたら...



「回復系の能力者はたとえDランクだろうが、使えるときは使える」


『ど、どうやって逃げる?前と後ろに剛とか言う奴の部下で...左側には少し離れたところに誰かがいるっぽいな...と、なると右側...かな?』


なんとなくだ、特にこれと言って決まった分けじゃ無い...だけどなんかそんな気がした。


目の前にいる大男に毒を仕掛け、大男の股下を通り抜ける。


このときに全身の回復を左足に集め、標準的な回復系能力ぐらいの回復力にまでする。


そのおかげでほんの少しだけだが痛みが和らぐ、そしてその治りかけていた左足に力を込めて思いっきりジャンプをして校門を飛び出る。


「なんだ?奴はDクラスじゃ無いのか?」


もう1人の剛は回復力に驚いているようだ



勿論このスキは見逃さない


『このまま...ッ!』


しかし、剛の部下らしき人物が左腕をこちらに向けてくる


「【粘着質な罪ハート・ワイヤー】」


部下の一人が左手から黒色の縄を出し、僕に触れると消える。


『止まらなきゃ...』


ピタッ、


「う、動けない?」

『止まる止まる止まる...』


僕はピクリともしなく、まるで自分のじゃないかのように感じた両足を下を向きながら眺めている。


「なんで...」


「僕の縄は心を縛る...」


そんな風にかっこよく呟く。


「ま、不味いっ!!」


「おい、歯、食いしばれ」


そう前から言われるのを感じて前を向くと前を向いた瞬間、


「プッ!?」


「死ねっ!!」


ばちんっ!!


僕は思いっきり殴られて地面を少し転がった後に気絶した




「くそぉ...これ自腹なのかよ」


共通棟の一階にある購買から言われたサンドイッチと焼きそばとメロンパンを購入し、届けろと言われたところに持って行く。


ガラガラ...昇降口から出て、そのまま校舎を反時計回りに回り共通棟の裏側に来る。


「えーっと確かここら辺だったはずなんだけど...あっ、あのテーブルかな?」


目の前に白色のプラスチックでできたテーブルと椅子がある。


少し前、ここに置いておいてくれと頼まれたのだ


そこのテーブルにサンドイッチと焼きそばとメロンパンを置いて、自分の教室があるD棟へ向かう。


「はぁー、あのパンを買ったせいで今日の昼飯は水道水か...最悪、はぁー」


僕はいつも無駄遣いを避けるために最低限の金額しか持ってきていないのだ。


それにあまりお小遣いももらえるような感じではないし、


ため息を二度つく、すると...


「ふーん、ため息ねぇ...」


「っ!?」


いきなりどこかで聞いたことがある声が聞こえて振り返ると、僕にメロンパンを頼んだチャラそうな男がいる。


「ねぇ、ねぇ、ため息、したよね?」


ダルそうな顔を傾げて問いかけてくる


「......したけど何か?」


「剛さんの目の前では絶対にするなよ?あの人は自分の周りでため息と舌打ちをされるのが一番嫌いなんだからな?」


念を押してくるように言ってくる。


「そうなるとこっちが大変だ」


最後の方は小声で聞こえにくかった。


「...分かりました、ふふっ」

『プッ、一人では暴力を振るえない小物の鑑...ウケる』


流石に自重して笑ったところは物凄い音量を下げたので相手には聞こえていなかったのだが、物凄く気が晴れた。


完璧に陰キャの鏡である


「さーて、戻ろ」


そう言いながら手を頭の後ろで組み、怠そうにD棟に向かって歩いて行く。



ガタンッ!


ガラガラ...


D棟の扉を持ち上げるように開けると、目の前に霧先輩が居て話しかけてくる。


「ん、あぁ、お帰り、パンでも買ってきたの?」


あっているがあっていない質問だ


「いいえ、パシられてきたんですよ〜あぁーめんどくさい そのせいで今日の昼飯は水道水になりました」


「お、おぅ...」


霧先輩が少し引いている。


「ですが、水道水意外と美味しいんですよ!水を綺麗にするための薬を水道水には入れるんですがその味がまたいいんですよ!!」


「あ、あはは...」


「おい!霧雨何話してんの?」


悠人先輩が霧先輩に話しかける。


「いや、特に...そんな事より徳宮とくみやってどこにいる?」


聞いたことのない名前なので先輩なのだろうと予測する。


「ん?あぁ、江青こうせい?あいつは確か...あぁ、きたきた」


たったった、


「ん?俺のこと呼んだ?」


徳宮先輩が悠人先輩に話しかけている。


「うんにゃ、霧雨の方だ、それじゃあ俺はバイトのシフトが急に入っちゃったから行ってくるぜ?」


そう言いつつ悠人先輩は走ってD棟の昇降口の方に走って行く。


「あれ?あいつバイトしてたっけ?」


霧先輩が呟く。


「さぁ?始めたんじゃないの?...で、なんで俺を呼んでたのさ?」


徳宮先輩が霧先輩に話しかける。


「いや、この後輩がパシられたらしく今日の昼飯を水道水で済ませようとしてるからなんか奢ってやってくれと思ってだな?」


「.......」


コトン、コトン、コトン、


徳宮先輩は一瞬で後ろを向いて歩き出す。


「おいおいおい!逃げるな!」


ガシッ、


霧先輩が徳宮先輩の方を掴む。


「お前が奢れよ!俺もパシられて金ねーんだよ!」


徳宮先輩が後ろを向いて言い返す。


「はぁ!?俺もだしっ!」


それに霧先輩も反撃する。


「...あぁ、やっぱりDランクはパシられる運命なのか」


そう思いながら僕は先輩同士の喧嘩を聞いて居た。


「ばーーか!」

「あっ、今バカって言った!バカって言ったほうがバカなんだよこのバカ!!」

「今お前もバカって言ったよなぁ?」

「あぁん!?」

「やんのかテメェ!?」

「死ね!」

「死ね!」

「「バカバカバカバカバカバカバカバカバカ死ね死ね死ね死ね!!!!」」


『...可愛い』


「「ヒッ...」」


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