死生環-肉体と魂-

「魂ってのは一体どういうものなんだろうな」

『どうしたんだい、いきなり?』

「いや、ただなんとなく気になっただけなんだけど」

『そんなことを気にするのかい?』

「だってそうだろう。俺達が生きている以上は魂があるんだから……」

『ほんとにあるのかな?』

「あるんだよ。とにかく聞いてくれ」

『はいはい』

「いいか、俺達が生きている以上は魂があるんだ。つまり生まれた時から魂は俺達の中にある」

『そうだねえ』

「だというのに俺達は、自分を生かしている魂について何も知らなすぎる!どんな形をしているのか、どんな色なのか、重いのか軽いのか、どんな臭いや味なのか!」

『魂の味なんて知りたくないけどね』

「でもバカみたいに美味いかも知れないぞ?」

『それでも食べるには命を奪わなくっちゃいけないじゃないか』

「仕方ないだろ、食べるってのはそういう事だ」

『……』

「……」

『……』

「わかったよ、魂は食べない」

『え、本気で食べるつもりでいたのかい?』

「思ってもいないことを口に出来るほど器用じゃない」

『確かに、昔からそんな奴だったな』

「昔から、か」

『そうだね、昔からだよ。ずっと昔から知ってるからね』

「……ますますわからなくなる」

『良いじゃん、答えの出ない問題は一回保留だ』

「そうだな。……これも昔からか」

『昔からだね』

「成長が無いみたいで嫌だな」

『変わらない方がいい事もあるよ』

「そうかもしれない」

『そうだよ』

「……」

『……』

「……」

『……』

「……やっぱり、ダメな気がするんだ」

『何が?』

「なあ、お前はどう思う?」

『何が?』

「もし記憶も人格もそのままで、その人の魂だけが別物になっていたら。それは同一人物なのかな?」

『どういう事だかわからないよ』

「例えば、人が死んだ時に体や脳を復活させたとするだろ?でもそこにはもう魂はないんだ。だから生き返ったりはしない」

『それで?』

「だから、持ってくるんだよ」

『持ってくる?何を?』

「別の魂をだよ。どこから手に入れたのかは知らない。だけど確かに魂を持ってきて、そして体に入れたんだ」

『もう少し分かりやすく言ってくれないかな?』

「そうだな、例えばゲーム機だ。ゲームのデータは本体に保存されている。ディスクじゃない。ディスクが違うものになってもデータは同じだ。だがそれは果たして同じものか?」

『……余計にわからないんだけど?』

「……ごめん、例えが悪かったよ。とにかく、脳みそが一緒だから記憶も人格も同じなんだ。でも中に入っている魂は違う。それって、同一人なのかな?魂が違っても記憶も人格も一緒ならそれは同じ人間なのか?」

『……僕にはわからないよ』

「俺にもわからない。だからこんなに……こんなに……」

『……なにか辛いことがあったの?』

「ああ、辛いんだ。どうしようもなく辛い」

『何がそんなに辛いの?』

「それは……」

『それは?』

「……」

『……?』

「それは……お前が昔と変わらずにこうしてここにいることだ。お前が何も変わらずにあることが……嬉しいはずなのにこんなにも辛い!!」

『どういうこと?僕は……泣いてるの?ねえ、どうして?』

「俺が間違ってた……こんなことするんじゃなかった!」

『一体何をしたっていうんだよ!?』

「お前は……どうして……」

『ねえ、どうして……』

「どうして死んじゃったんだよ……」


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