始制観-言い出しっぺの法則-

「言い出しっぺの法則」って知ってる?

 色々意味があったりするらしいんだけどね。

 例えば、仕事とかで企画を提案した人がその企画を担当するべきだ、みたいな。

 でも私たちの間で言ってた「言い出しっぺの法則」は意味が違ってね。

 どんなのか気になる?

 え?そうかそうか!そんなに気になるなら教えてあげちゃおうかな!

 あのね、みんなやりたがらないんだけど、どうしても誰かやらなきゃいけない!みたいな役とか係ってあるでしょ?

 そういう役って誰もやりたがらないから誰がやるか中々決まらないじゃない?

 で、そのうち誰かが

「ジャンケンで決めよう!」

 とか言い出したりするでしょう?

 まあ、決める手段はジャンケンでもくじ引きでもなんでもいいんだけどね?そういうの、覚えない?

 そんな時のジャンケンってね、ほぼ必ず「ジャンケンしよう」って言い出した人が負けるのよ。

 それが私が言ってる言い出しっぺの法則で...あら?信じてない顔ね。

 そうね、確かに突飛な話かもしれないし、いきなり言われても困るわよね。それとも、こんな時に言い出したから戸惑ってるのかしら?まあどっちでも良いんだけど。

 もう少し話を聞いてくれる?良いじゃない、まだ時間はあるんだから。

 あのね、確かに信じられない話だと思うわ。馬鹿みたいな話だって。

 思い込みだって言うんでしょ?

 確かにね、それも有り得るわ。

 言い出した人が絶対負けると思ってたら、思った通りになった時は印象に残るし、そうならなかった時は「まあそういう時もあるだろう」って思っちゃうからあまり印象に残らないとか。だから言い出しっぺがいつも負けてるように思うって。そういうの、何かであった気がするけど。

 でもね、そんな事は私も考えたのよ。だから誰かがジャンケンで決めようって言い出した時は1回1回きちんと勝ち負けを覚えておくようにしようと思ったの。

 学生の時から大体7年くらい?

 あ、私が今何歳かなんて計算はしないでね。恥ずかしいもの。

 でね、どうなったと思う?

 きっと驚くわよ。

 なんとね、274回中238回言い出しっぺが負けたの。

 8割以上よ?しかもね、5人でやっても10人でやっても言い出しっぺが負けるの!どう?なんだか偶然じゃないって感じがしない?

 え?そもそもそんなに機会があったのかって?

 そりゃあ7年もあれば色々あるわよ。それにあなただって、自分が今までに何回ジャンケンしたかなんて覚えてないでしょ?

 それにもっと面白いのがね、負けた時の損が大きければ大きいほど負けやすいのよ!

 例えば、トイレ掃除だとか買い出しだとか、最後の1個のプリンとか、そんなちょっとした事なら勝つこともあるのよ。さっきも言った274回中の、言い出しっぺが勝った回数はたったの36回。

 そのうち33回はそんなしょうもない条件の時よ。まあ、それでも言い出しっぺが負けちゃうことの方が多いんだけど。

 そしてね、例えば...ううん、あまり言わない方がいいわね。とにかく、大きな物を賭けた人はみーんな負けちゃったわ。言い出しっぺの法則でね。

 え、例えば何かって?だから言わない方が良いって言ったじゃない。え?知りたい?ふふ...

 もう私の話に興味津々ね。まあ状況が状況だから仕方ないかもしれないけど。

 そうね、例えば...


 命


 とかかしらね?ふふ...冗談よ。

 でも、そうね。こんな時に言う冗談としては不謹慎だったかしら。

 そんなに怒らなくてもいいじゃない。

 なんだか急に意地悪したくなっちゃって。

 だって待ってるのが退屈だったんだもの。

 ねえ、今何時くらいかしら?

 そう、1時間って意外と早いのね。という事はもうそろそろ話し合いのタイムリミットかしら。

 あと数分答えが出ないだけでこの中の全員が死んじゃうなんて、信じられないわね。

 え?死ぬかもしれないのに呑気なって?死なないわよ、私は。そのために待ってたんだもの。

 大体、話し合いなんかで決まるわけがないのよ。この中で犠牲になる1人を、たった1時間で選ぶなんて。私達をここに連れて来た犯人はよっぽど底意地が悪いのね。

 ふふ、私もかな?

 みんな死にたくないし、だからって誰かを殺すのも嫌に決まってるわ。

 だからね、待ってるの。

 もう時間が無いもの。待っていれば絶対に誰か言い出すに違いないわ。


「この中で誰が犠牲になるか、ジャンケンで決めよう」って...

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