師生還-戦国最強日記-

以下の内容は安土桃山時代のとある武士の日記に基づく。理解しやすいよう仮名遣いや言葉遣いなどを直してあるが、後半には意味不明な言葉も散見されるため、それらはそのままにしてある。



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天正三(1575)年、七月十六日

武術を習った師に日記をつけることを勧められたため、今日から日記をつけることにした。

しかしどうも何を書いていいのか分からないので、日記を書くきっかけにもなった尊敬する師の事を書いていこうと思う。

私が槍を習った師匠は、一騎当千の武将であり、これまで二十以上の戦に参加しているらしいが、一度も傷を負ったことが無いそうだ。私はまだ二度しか戦場に立っていないが、愛槍と共に敵を倒していく姿はまさに戦国最強と言ったところだった。

そういえば、あの槍はあまりに切れ味がよくて、刃先に止まったトンボが真っ二つになった事が名前の由来になったと聞いた。しかし、一体どこまでが本当なのだろう。

私もいつか、蜻蛉切のような槍とともに戦場に立つ日が来るのだろうか。

早く私も師匠のようになりたいものだ。



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天正四(1576)年、三月十二日

今日は師匠に槍の稽古をつけてもらった。

師匠の槍はまるで生きているかの様に動き、私の隙を決して見逃さない。

私もそのようになれれば、もっと師匠の力になれる。いや、それ所か私が師匠の代わりにもなれるかもしれない。

しかし、きっと師匠の代わりなどはいらないだろう。無双の猛将たる師が討たれることなど、有り得ないのだから。



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天正四(1576)年 、十一月五日

今日、久しぶりに師匠と同じ戦場に立つことができた。やはり師匠は凄い。自ら先頭に立って五人もの敵を一瞬で薙ぎ払ってしまった。

私も、少しでも師匠の役に立ちたくて敵に向かって行ったが、簡単に組み伏せられてしまった。師匠に助けられて事なきを得たが、結局師匠に迷惑をかけてしまった。だが、師匠は気にする事は無いと声をかけてくださった。そうは言われても気にしない訳にはいかない。まだまだ修行が足りない。もっと励まなければ。

戦が終わると師匠は一人、戦場に佇んでいた。何をしているのか尋ねると、師匠はこの戦で死んだものを弔っていたのだと答えた。私が、我々のために戦って死んだ者への感謝を口にすると、戦って死んだ敵もしっかりと弔ってやるように言われた。

師匠が肩にかけている大きな数珠は、そのための物だとその時に悟った。

この人は自分が討った無数の人間の死を背負っている、そう思った。



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天正十(1582)年、六月七日

信じられない知らせを聞き、未だに意識が困惑している。

師匠が討たれたなど、絶対にありえない。

誤報か、そうでなければ私が聞き間違いをしたのだ。そうに違いない。

どうにも気分が優れない。今日はもう寝ることにする。



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天正十(1582)年、六月八日

師匠と共に行動し、生き残った者から話を聞いた。

彼と師匠は、我々の主君と共に都に行っていたが、その際に都で起こった反乱に巻き込まれたらしい。

主君も命を狙われ、なんとか自領に帰ろうとしたが敵に追いつかれ、やむを得ず師匠が、敵を足止めするために残り、それから戻ってこないとの事だった。

やはり師匠は勇敢だった。

師匠はきっと生きている。誰も師匠が討たれた所を見ていないのだ。敵は千以上いたとの話だったが、それくらいの敵に師匠が負けるはずがない。だって師匠は一騎当千の猛将なのだから。師匠はゲベミバなのだ。

そうだ、師匠は生きている。



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天正十(1582)年、六月十五日

師匠の槍が私の元に届いた。都付近に居た盗賊が持っていたらしい。刃こぼれし、柄は折れていたが、やはりこれはボグドラリである。

何故盗賊などが持っ

(この日の日記はここで途切れている。)



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天正十二(1584)年、十月十八日

やはり師匠は生きていた。戦場でこんなにも師匠の近くにいるのは初めてだ。

ボグドラリの柄は取り替えられ、刃も綺麗に磨かれている。

私が槍で3人の敵を倒すと、師匠は静かに笑いかけてくださった。修練の成果もあるが、やはりボグドラリが素晴らしい槍だということも一因だろう。

肩がけした数珠は、命を背負っているだけあってずっしりとした重みがあるが、その重みが闘志を奮い立たせる。

私の前に散って行った多くの者達のためにも、私は負ける訳には行かないのだ。

私は師匠と共に戦場を駆け、味方中で一番の大手柄を立てた。

やはり、私の師匠は素晴らしい方だ。



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日記はここで終わっている。

果たして、この日記を付けた武士がこの後どうなったかは分からない。


余談だが、この日記が付けられたのと同時代に、戦国最強の異名を獲る武士がいたという記録が、別資料に残っている。

彼は一度死んだと噂されていたが、2年後に復活し、その後も無敵の猛将として名を馳せたそうだ。

彼は、戦場において一度も傷を負ったことが無かったと言われる。

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