第五話「ウィー・ライブ・エフ」
俺は一人暮らしを良い事に次々と金を見せびらかし、数える方が難しい位オンナを招き入れてはヤってハイさよならと其の時は実にファッカーであったが、あのリッパーに首を切られて警察沙汰になり、今もなお彼女は行方をくらまして居る。しかし警察にどうしてと訊かれても俺も俺で彼女の住所や電話番号、そしてメールアドレスさえ知らず良い気にやって、やられてしまったのだから詳しく知らない女だと言ってしまって疑われに疑われ二度と会う事は無いと思っていた何から何までお世話になったポリス・ダニエルと再会し
『君は悪運が強過ぎるな……。君たち、もう良いから彼を刺した女性を探しなさい』と、
もう頭が上がらないポリス・ダニエル様々だが杖ついて白髪頭を撫でながらこう言った。
『見て分かる通り私は退職しようと思っていた。しかしあれから変わってない君を見て、私はこう上機嫌なんだ。何故かって息子が私と同じ役職に就くまで変わってくれたという年金よりも嬉しいプレゼントを貰ったからさ。息子は優秀だ、私の様には行くまい!』
何処までも格好良く何処までも親バカなポリス・ダニエルはまた背中を見せて去ると、しつこい警察官や物好きなローカルメディアの一人たりともが病室に来なくなったのだ。
それからは猛省し働いてやっと揃った給料を実家にドレだけ入れようか算段している時ピンポンピンポン突然チャイムが鳴り止まぬ音に久々に頭が痛くなって、誰かと怒鳴れば
「ファッカー? 憶えてるかな、レインだよ!」化粧の下に幼さ残す彼女がやって来た!
「ええっ? レイン、どうして俺がココに居るって分かったんだ?」
「私もココらのカフェで仕事しててさ、噂はかねがねって所だね。うわー酷いキズ!」
「……暗い話はさておいて、着替えてくるからソコで話そうぜ」
「はーい」
まさかレインの方から来るとは思わなくて気持ちの整理もついて居ない状態だが彼女の事は俺が一番に良く理解している、暗い話なんて面白くないとホヘラホヘラ笑い話にしてまたあの頃みたいな時間を過ごしたいに決まっているんだから。彼女はそういうヤツだと大人になってもそんな、自分と同じ様に他人も変わらないものだと甘い考えをしていた。
「私ね、やっぱり不妊症みたい。デキないんだわーホント」
「……おいおい、どうした冗談が過ぎるぜ。なにをいきなり――」
「やっぱこんな身体じゃムリみたいで、何人もガッカリさせちゃって……ああーごめん、ごめんね……久しぶりに会ったってのに私ったら……」
あのレインが、涙を流して真実を告白するなんて誰が予想できるものか。笑顔が似合う彼女の顔は車中くもりっ放しで受け答えもアヤフヤだったが、まさかとも思わなかった。
「男の俺が言うのも何だが……ちゃんと治療法はあるんだろ? それなら――」
「治療すれば治るって!? 言われたよ、『あなたの様な人が産めるワケないよ!』って
軽くあしらわれて、信用度が落ちるから他をあたってくれって、他でも言われた! 何が
自由の国アメリカと思ったよ! 自由って何、信用度って何って何度も何度もねえ!」
「エクスキューズ・ミー。レイー、店内でその話はやめてね?」
「チッ……すみません……」
いつも何の事は無いと愛嬌を振りまいて何事も円滑に巧くやってゆく彼女に俺が妬んだ時はあっても、今までに彼女がヒステリックに泣き事を言うのは一度たりとも、見聴きもしなかったのはずうっと彼女自身、自分を欺く為に謂わば現実逃避をしていたのだろう。
「……私のこの声、この身長、そして私の初めてをあんなヤツに許した私……。自分で、自分を呪ったよ……でもね、どうあがいたってイツも頭の中にはアイツが居るの……」
学生時代ふたりでポカした後のカウンセラーの言葉を僅かながら思い出した。まず俺は男だから同情は出来ないがレインは、共依存でも何でもイツだって俺を救ってくれる唯一信じられる神様、否、天井のシミだった。それが事もあろうに人間と成ってやって来て、その衝撃の当時と殆ど変らない姿で今もココに存在している理由なんて、一つしかない。
「あのな。言っちゃ悪いが俺は何人なんてもんじゃない、数えきれないほど女を抱いては捨てて来た男、ファッカーと呼ばれる男だ」
「……そうだね、私の付けた酷い仇名……」
「名付け親、ファッカーなんて汚い仇名を良く付けたもんだ。リッパーやサッカー何かと比べ物に成らん位きたねえ仇名だがしかし、ちょうど俺はバカだ。でもバカだってこんな仇名を許し続けているヤツは普通じゃない、他に一人として居ないだろう。分かるか?」
「……分かんないよ……なんでそんな仇名を付けたかなんて!」
「こんなバカげた『ファッカー』なんて名付けられるヤツよりも……えーと……ほらな?
場を和ます気の利いたジョークの一つも言えない、クソ面白くもない事ばっかり考える、つまんねえクソ野郎だからなんだよ。だからさ……ほら、お前が必要なんだよ」
「……どういうこと? こんな私に何が出来るっていうのさ。ファッカーどころじゃない頭クルクルパーでしかも、ホンットに詰まんないファッキン・ファッカーについて行って何か私にメリットの一つでもあんの? ねえ言ってみてよファッカー!」
『エクスキューズ――』俺は親孝行に充てる為のドル札をばら撒き雄叫びを上げてやる。
「やってみないと分かんねえだろ! だがな、今だって俺たちは最高のタッグだぜ!」
言ってやった、あの時いえなかったプロポーズの言葉を店内に轟かせてやった。全員が唖然とするのも当然、汚いスラング連発の暴言ばかりでケンカしている様に思われている四面楚歌の状態だが俺たちだけに通じる愛の言葉だと俺は信じると共にレインも信じる!
「もー聞いてらんないくらいバカでカッコ悪いファッカーだよホント! すいませんね、この大馬鹿野郎は今この私レインがこっ酷く叱ってやりますから!」レインは立ち上がり背伸びしてバチンっと痛いビンタかまして直ぐ俺と唇を重ねた。今度は静かな病室でなく喚くオーディエンスの中で顔を見合わせ笑い合って手を繋ぎスキップしながら店を出た。
「あーあ、やっちゃったねファッカー。もう私はあの店で働けないよ」
「ああ、俺はファッカーだからな。家賃を払っていけるかも分からん」
「これからどうしよっか」
「俺は公務を続けながらバイトをする。しばらくお互い会える時間は少なくなるだろうが勿論、バリスタであるお前も仕事をするんだ。なに、直ぐに元通りになるさ」そういって彼女に渡すスペアキーで同棲を託し、家に他の女ひとり入れない愛を誓うと彼女は笑う。
「私はバリスタの仕事より先に、家の掃除をする家政婦にさせてくれないかなー? ドア越しからガール・ザ・リッパー事件以来ためたティッシュの臭いがプンプンしてたよ」
「ああ、やっぱり分かったか……俺はあの時やっと女の恐ろしさを実に痛感したんだ」
「次が私で良かったね、もうアンタの事はイヤになるくらい分かってるんだから! あ、灰皿いい?」俄かに彼女はポケットを漁ってタバコとライターを取り出し、火を点ける。
「そう簡単に言うが本当もう女を振るのはコリゴリだ、間一髪だったんだか……あ」
「痛い目みないと分からないってのも実にファッカーらしいよ。……ふう……何?」
「……ラーク……」
「もしかしてファッカーも?」
「俺はラッキー・ストライクなんだが……ラークはやめてくれないか?」
「ペアルックにしたいって?」
「いや、嫌な思い出があるんだ……アイツも、アイツらもラークだった」
「そんなの偶然だってー! 偶然だよ? だから落ち着いてファッカー」
「ああ……すまん……フラッシュバックしていた」
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