第六話「ジン・ジン・ジンギスカン」
終わりにはジンギスカンがお似合いだ。
――――――
「焼くぞチェリー! そして歌い叫べチェリー!」
「おうよ! 焼いて食って飲んでイェーハーッ!」
バーベキューにも関わらず彼らは肉が焼き上がる前に酒を飲んですっかり御陽気の中、冷静に足を組みシャンパン片手に焼けるのを待つ彼女。先手をうったファッカーも誰一人呼ぶことなく彼女とガチンコで勝負だと目は笑っていない。グリルを開ければ彼は況して調子良く一気に飲まれ叫び出す程なので両者見合い、彼も肴も出来上がったと睨み合う。
「ポール、ほら! 珍しく魚介も焼いたんだ、美味いよー?」
「ほうほう、魚とは粋じゃねえか! 美味い! ファッカーも食ってみろよ!」
「ああ美味いな。けどよ、バーベキュー一食目に魚ってなんだよなあ!」
「意外にアリだよなあ! うわ、貝って……こりゃあ良いモンだ!」
「こういうのも良いかと思ってねー、買って来た甲斐があったってもんだよ!」
彼氏に余裕のウインクを見せつけ彼女は買い出しという後手を巧く使って機先を制した魚介は火の通りが早く、周りの肉はまだブルーレア状態で流石の彼でも食べようとはせず彼女の思惑通り焼き魚にハマって結構な量を食べ早々に腹を膨ます所、彼氏は急いで先に食べ尽くしバタンと蓋を閉め焼き直すとニカッと爽やかに彼女へ企みのウインクを返す。
「おいおいファッカー、焼けたのにドコへ行くんだ? 全部くっちまうぞ」
「満腹になったら後悔するものが冷蔵庫で眠っているんだが、どうする?」
「おう、サプライズさせてくれよ。野菜をつまむだけにしておく」
「それなら肉は皿に移して、魚は食われたけど貝はまだまだあるよーっ!」
「イェーイ! レイン、乾杯だ!」
彼は誕生日でも記念日でもないのに尻目に懸けられ盛り上げてくれる攻防中の二人などさらさら考えもせず、御機嫌に焼き貝でまた一杯やらせた彼女に軍配が上がったようだが
「主役は後からやってくるんだよ」と小さく呟いたファッカーは冷蔵庫で十分に眠らせたプラスチック・バッグに漬かるジンギスカンを持って来ると彼は皿を置いて拍手し出す。
「ネットでしか知らなかったものが……まさかソレなんだよな?」
「もちろんソレだ。同僚の日本人がタレを作ってくれてよ、本場には負けるがな!」
「あいたたた、レイン、貝をよけてくれ! メインディッシュは肉に限るなあ!」
「バーベキューったら肉だぜチェリー、魚介なんて前菜で腹を満たされちゃ困るんだ」
買い出し担当だった彼女がマトンを買って来たのだが料理の出来ない筈のファッカーがここまでする本気度合いを窺ってさえ彼女は余裕で居る。三人で残った肉や貝を食べつつぎこちない会話を弾ませ其のジンギスカンとやらが焼き上がるのを待ち焦がれている中、
「もしもし? ヘイ!……まただ、さっきからいたずら電話がうるせえ」
「休日だから酔っ払い電話じゃないのか? 仕事の同僚とか、そういえば呼ばなくて」
「これはプライベート用のだし非通知なん、だ……もしもし、もしもし!……ファック!
ああん? いい度胸じゃねえか俺に対して最高の褒め言葉だ、何とか言ってみろクソが」
酔いも相まってかファッカーはありとあらゆる汚い言葉を使って怒鳴りつけながら走って場を汚してはマズイと家に入るのを見て勝利を確信しケラケラ笑うレインの仕業である。
「このご時世、便利なものほど恐いよねーっと。もう良いんじゃないかなポール!」
「なにがなんだか……ウオ―ッ! もう匂いからして美味い!」
「結構タレが効いてるけれど、ちょっと……私にはクサイかな。私は残りもので」
「こんな美味いもんを、良いのかよ? じゃあファッカーを呼んでくる!」といってから彼女を一人置いて家の中には行ったが、なにやら揉めている様で少し静寂の時間が出来、
「そ。私は残りもので良いんだから。お母さん、ひどいもんでしょ私。でもこうして私は生かされていたら、色んな人や事に出くわして、もっと勉強していればと思わされるよ。死ぬまで勉強の日々だったお母さんが居ないなりに今日も私なりの生き方をしています」
膝をついて手を合わせ天を見つめて母にそう小さく言うと、彼女の頬の一筋の涙が輝いて脇で隠れていた男二人は自分の事ばかり考えていた事に気付かされ、泣いて彼女を抱く。
「ごめんよレイン、心の何処かで疑って妬いていた、でも解った……俺らは家族だよ」
「そうだよな、俺と違って親が大好きだったから……。飲み直そう、笑顔が一番だ」
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