第3話
「ほう、立派な神社じゃないか。想像と違うな。」
「
白い大蛇を連れた
月輪神社を留守にした妖は今や、何処にいるのか。
「有名なのか。」
「月輪神社に住み憑くことは困難さ。つまり、ここに憑く妖は相当な妖力を持ってるということさ。」
白蛇は我が主の陰陽師に舌を滑らせる。
美しい
この白蛇は立派な妖である。
シュルシュルと、舌が興味深そうに風景を舐めた。
その目は何を捉えたか。
「この神社に人の手は?」
「綺麗な状態を保っているのは、憑いた妖の
「綺麗好きか?」
「
白蛇は鋭くそれを読み取る。
ただ一点から見るだけでもそれらがわかる。
白蛇を撫でる陰陽師は舌打ちをする。
やはり、面倒な相手に代わりはない。
白蛇は陰陽師の手からスルリと離れて月輪神社に近付く。
そしてその長い身を捻り、陰陽師へと振り返った。
「どうやら、妖は留守じゃないならしいさ。」
笑うように蛇を舌舐めずりをした。
陰陽師は眉間にシワを寄せる。
「なんだと?」
「情報は
「優秀なお前がいて助かった。」
溜め息をついて、白蛇の頭の方へと一歩近付いた。
するとどうだろう?
視界が一瞬だけ歪んだ。
「もっと、褒めてくれてもいいさ?
白蛇は這って陰陽師の方へ戻り、その頭で陰陽師を一歩押し戻す。
近付けば、目を覚ましてしまう可能性がある、と言いたげに。
さて、どうしたものか。
「何処で眠っている?」
「流石にさっきのが限界さ。わからないのさ。ただ、
シュルリ、と舌は言う。
白蛇はその身を巻いて、頭を置いた。
陰陽師の考えでは札で結界を張ってやろう、と思ってはいたのだがどうやらそれは無理らしい。
唸っていれば、グンッと陰が強くなった。
白蛇はそれをいち早く察知して、陰陽師の身に軽く巻き付く。
「どうやら、お目覚めらしいさ。」
「戻るか…。」
「それはまだ早いさ。寝起き姿の妖を、見るだけなら出来るさ。」
白蛇は陰陽師の顔の横でシュルリと舌を出す。
見るだけ、ならば。
月輪神社を前に、ただ、待った。
数分後、月が丁度月輪神社の真上に来た時、その妖は姿を現した。
「ほれ、目に焼き付けて帰ろうさ。」
白蛇が目を細めて言う。
その妖は、
それにしては珍しい真っ黒な毛並み。
月の光に照らされて、美しい九尾は揺れる。
その目は鋭く、紅が飾るように揺らいで、口の端にも紅はあった。
「お前が、この月輪神社に住み憑く妖か。」
そう声を飛ばせば目を細めてその口を開いた。
しかし、それは控えた笑い声ばかりを響かせる。
「噂程度、さ。この妖は月輪神社に住み憑いたわけではないさ。ようやくわかったさ。」
「じゃぁ、目的とは外れたモノか?」
「否さ。
白蛇はその身を黒い狐に伸ばす。
黒い狐は白蛇に鼻先を持っていった。
匂いを嗅がせ、白蛇は代わりに
「
「
「神社の
妖同士の挨拶といったところか。
陰陽師はそれを初めて見る。
親しそうに接しながらも、初対面であるのだが、相手の妖がどんな妖かお互いにわかっているらしい。
百毒白蛇、そう、この白蛇は百の毒を持つ妖。
陰陽師はその名を久しく聞いた。
「月輪黒狐、我が
「わっちは誰の妖にもならないよ。この月輪神社の主とし、人の負を喰らう。それで満足している。」
「人自体を喰らったことはあるのさ?」
「否。わっちは人肉を好みはしない。」
会話は確かに陰陽師に聞こえている。
ならば、ならば何故消えてゆく人が?
この妖でなければ、どういうことだ?
情報が全て違う。
「ならば、消えた人は何処さ?」
「わっちはただ、その
その身を起こすと、用はもう済んだだろう?というように黒狐は月輪神社の中へと収まろうとする。
白蛇は陰陽師の元へ戻る。
どうやら、月輪黒狐の所為ではなかったらしい。
陰陽師は石階段を振り返る。
新たな問題を、どうしたものか。
白蛇はシュルシュルと舌を滑らせ、目を見開く。
「どうやら、
「あぁ。」
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