第2話

 月輪神社げつりんじんじゃという名の神社がある。

 ここにはあやかしが住み憑き、月輪神社の名に相応ふさわしい様な妖とうわさされた。

 月輪神社はいんの気配が強いが為、負の感情を抱えた人間が引き寄せられてしまうらしい。

 しかし、月輪神社へ負の感情を吐き出せば楽になれるのだと人々は言い、その足は絶えることを知らないのだった。

 ここまで聞けば、良いとされる。

 本題はここから。

 負の感情が何故失われるのか。

 それは月輪神社に住み憑く妖が吸い取っていると推測された。

 陰の気配が強いのも、妖の所為せいとされる。

 良い妖なのだと思えばそうと収まらないようだった。

 行けば帰ってくると、人間は当たり前に思うのだろう。

 帰ってこぬ者もいるそうだ。

 その者らは決まって、自殺志願者、生きる意欲というものが皆無、または極端に薄らいだ所謂いわゆる[死にたがり]ばかり。

 本意ほいであるならば良い、と言えない。

 妖が好んで獲物を、喰ろうてやろうか、と陰を強め引き寄せてはり分け喰らっているのならば絶やしに行かねばならない。

 もしくは、おのれの力、つまり味方にするか。

 その妖が、どのようなモノなのかも未だ不明である。

 月輪神社は陰陽師おんみょうじを受け入れない、とされているのもまた可笑しくもある。

 というのも、陰陽師がその足を踏み入れたならば陰は更に増し、そこにいる一般人は狂い始めるのだ。

 それだけに留まらない。

 陰陽師が先に、先に、進もうとすればするほどに、恐ろしい幻聴、幻覚を覚えることとなる。

 多くの陰陽師がそれにくっした。

 そのくらい、強いというわけだ。

 人の黒歴史やトラウマ、負になる全ての心の眠るそれを抉り出し、陰陽師を襲う。

 妖どころか、月輪神社の姿さえ見ることもなく陰陽師は引き返す他ないのだった。

 強い拒絶を示したそれはまさに、強敵。

 陰陽師はその妖を味方に望むが、辿り着けた試しがないのであれば、それもまた夢のまた夢となる。

 この妖が月輪神社への歩を許す日が一時ある。

 陰陽師はそのチャンスを見逃すことはないはずだ。

 だが、踏み入ることを許されたということそれ則ち、妖が月輪神社を留守にしているということを表す。


 さて、ここに陰陽師が歩を向ける。

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