第3話 古代オリエント編(3)メソポタミア:古バビロニア
はじめに
シュメール人の覇権が終わり、次の主人公となるのはバビロン等を作ったアムル人です。
イシン、ラルサ、エシュヌンナ、そしてバビロニアといったバビロニア地方の国々に加えてマリ、古アッシリアといったアッシリア地方の国々も登場。
いよいよ全メソポタミアが統一されるときが来ました。
(1)イシン・ラルサ時代
ウル第三王朝の滅亡後の混乱期を『イシン・ラルサ時代』といいます。ウルの後継国家であるアムル人の『イシン』(守護神グラ)が一時期力を誇りましたが、イシンから独立した『ラルサ』と争い、敗れました。
イシンは、ウル第三王朝に仕えていたアムル人イシュビ・エッラが反旗を翻し、イシンで独立した勢力です。彼は、メソポタミアに侵入していたエラム人をシュメール地方から排除することに成功し、マラドやウルクなど混乱の中で独立していた周辺国を次々と制圧しました。
5代王『リピト・イシュタル』は学識豊かな王で『リピト・イシュタル法典』を作成しましたが、後述する『ラルサ』に独立を許し、『ウル』を奪われると王位を簒奪され死去しました。
『ラルサ』もまたアムル人によって作られた都市で、実在が確認されている王は4代ザバイア(前1941―前1932)からです。その兄弟、5代グングヌム(前1932―前1905)は弱小勢力であったラルサを大いに発展させました。
まずエラム地方に遠征し、エラムのかつての首都であり重要拠点であった『アンシャン』を破壊しました。次にイシンと『ウル』の支配をめぐって対立し、勝利しました。イシンは『ウル』の後継者を自認していたので、この勝利は大きな意味を持つのです。
次にイシンとラルサは『ニップル』を巡って対立します。『ニップル』は主神エンリルを守護神とする都市でメソポタミア神話の聖地でした。この争奪戦でもラルサは勝利しイシンから覇権を奪ったのです。
前1802年頃にはウルクが、前1794年にはイシンが、ラルサに併合されて滅亡しました。
その頃、アッシリア地方(メソポタミア北部)では、『マリ』のヤギト・リムと『テルカ』(守護神ダゴン)のイラ・カブカブが争っていました。イラ・カブカブは破れると、バビロニアのエシュヌンナ方面へ逃れました。
イシン、ラルサはシュメールの後継者たることを主張したために行政文書や法律文書にはシュメール語が多く使用されました。この時期がシュメール語が一般に使われた最後の時代となります。後の古バビロニア王国時代では、アッカド語が行政においてもその他文学においても一般化していました。バビロニア王国の支配層はアムル人でしたが、アムル語が筆記に使用されることはほとんどなく、シュメール・アッカドの文化を受け入れ次第に同化していきました。
(2)バビロンの歴史
アッカド王国崩壊後、メソポタミアに侵入したアムル人はメソポタミア全域に都市を建設しました。彼らは、同じくメソポタミアに侵入したグディ人やエラム人と戦うための傭兵としてシュメール人に雇われたようです。アムル人はシュメール人の文化と同化しようとしたので、他の異民族よりもマシと考えられたのかもしれません。
アムル人はメソポタミアにいくつかの都市を築きますが、その一つが都市国家『バビロン』(守護神マルドゥク)です。バビロニア地方の北西に位置します。
アッカド王国崩壊から400年程が過ぎ、ウル第三王朝が滅亡、イシン・ラルサ時代と呼ばれる混乱期に突入します。バビロンが都市国家として独立したのが紀元前1894年スムアブムの即位からです。これを古バビロニア王国と呼びます。
バビロニアは、キシュ、カザル、マラド、シッパルなど周辺のアムル系の王朝との戦いに勝利、中部メソポタミアを支配しました。しかし、バビロニア南部は『ラルサ』(アムル系。守護神は太陽神シャマシュ)、バビロニア東部は『エシュヌンナ』(守護神ティシュパク。ウルク朝の支流国家でウルク王ルガルザゲシを祀っていた神殿を有していたと言われます)の支配下にありました。
バビロニアは既に弱小国となっていたイシンやウルクと同盟を結びましたが、ラルサによって両国は滅ぼされます。
窮地に立たされたバビロニアですが、前1801年にはアッシリア地方に強力な王シャムシ・アダド1世が現れると、その庇護下に入ります。そしてアッシリアの後ろ盾の下、前1785年にはウル、ウルク、イシンをラルサから奪い取ることに成功しました。
(3)古アッシリア王国
ウル第三王朝滅亡後の混乱期(イシン・ラルサ時代)、アムル人であるシャムシ・アダド1世(在位:紀元前1813年―前1781年)が前1813年に都市エカラトゥムを拠点として、アッシュールを占領。古アッシリア王国を建国しました(高校世界史で出てくるアッシリアはもっと後の時代も話なので混同しないようにしましょう)。
シャムシ・アダド1世は前述の『テルカ』のイラ・カブカブの息子です。
イラ・カブカブもそのライバルであるヤギト・リムもアムル人ハナ族の人間です(また、バビロニア王ハンムラビもまたハナ族の人間です)。
イラ・カブカブはマリとの争いに敗れバビロニア地方の『エシュヌンナ』へと逃れていたのです。
シャムシ・アダド1世の代になると、アッシリア地方東部のエカラトゥムを拠点とします。
前1801年には要衝『マリ』を征服し、メソポタミア北部全域を征服しました。
当時マリの支配者はヤギト・リムの息子ヤフドゥン・リムでしたが、シャムシ・アダド1世との戦いの中、部下のクーデターにより暗殺され、その混乱に乗じたシャムシ・アダド1世によってマリは占領されてしまいました。リベンジなるということです。
シャムシ・アダド1世はバビロニア風の王権概念をメソポタミア北部に持ち込んで自らを『世界の王』と称しました。
彼は新首都シュバト・エンリルを建設しました。面積はおよそ90ヘクタール、最盛期の人口は2万人程度といわれています。
彼の死は、オリエント世界の大事件であり、バビロンをはじめ多くの国でこの年に「シャムシ・アダド1世が死んだ年」との名称がつけられるほどでした。彼の死後、古アッシリア王国は急速に瓦解してしまいます
(4)ハンムラビ王
古バビロニア王国で最も偉大な王がハンムラビ王(在位:前1792年―前1750年)です。バビロニアは、この時代シャムシ・アダド1世の庇護下にありましたが、その死亡を契機に勢力を拡大し、長年にわたる戦いの果てにメソポタミアをほぼ統一しました(前1763年にはラルサを占領、前1759年にはマリを破壊、前1757年頃にはエシュヌンナを滅ぼしました)。
シャムシ・アダド1世の死後、メソポタミアで勢力を誇っていたのが、『マリ』、『エシュヌンナ』、『ラルサ』です。
このうち『マリ』とは同盟関係にありました。前述の様に『マリ』はかつてハナ族の属の一人ヤギト・リムが支配していましたが、その息子のヤフドゥン・リムの代、シャムシ・アダド1世に占領されてしまいます。ヤフドゥン・リムの息子ジムリ・リムは脱出し、西の大国ヤムハドへと亡命します。そこでヤムハド王の娘と結婚し後ろ盾を得ると、シャムシ・アダド1世の死後、ハンムラビ王と同盟を結び、シャムシ・アダド1世の息子ヤスマフ・アダドが支配する『マリ』を攻撃、王位を取り戻したのです。『マリ』と『エシュヌンナ』は敵対関係にあったので、『マリ』はエシュヌンナ』を攻撃するようハンムラビ王に働きかけ援護していました。しかし、強国の一角『ラルサ』を滅ぼしたことで同盟の必要性を感じなくなったのか、前1761年、ハンムラビ王は突然同盟を破棄し『マリ』を占領してしまいます。そして、前1759年には反乱を起こした『マリ』を完全に破壊します。これによりシュメール時代からアッシリア地方の有力都市だったマリは歴史から姿を消してしまうのでした。
(5)バビロニアの滅亡
ハンムラビ王の死後、イシンとラルサはたびたび独立を企てます。その背後にはエラム王国がありました。
ハンムラビの子サムス・イルナの治世、前1748年にはラルサのリム・シン2世が独立を宣言します。ただ独立は失敗に終わりリム・シン2世は前1746年に処刑されます。
続いてイシン王朝の末裔を名乗るイルマ・イルがニップルを占領し、独立します(「海の国」と呼ばれる王朝です)。
さらに彼の治世に東方山岳民族カッシート人が侵入してきます。
その次の代にはマリなどが支配を逃れ、古バビロニアは徐々に縮小していきました。
そして、遂にはアナトリア半島から南下遠征を開始した『ヒッタイト』に滅ぼされます(前1595年)。ただし、ヒッタイトのバビロン占領は一時的に終わり、代わりにカッシート人の支配が始まります。
(6)バビロンのその後
『バビロン』は古バビロニアの滅亡後も、オリエントの中心地のひとつとして機能し、カッシート王国(バビロン第三王朝)、新バビロニア王国(カルデア王国)の首都となります。
アレキサンドロス大王は東方遠征の途上、バビロンに入城し、バビロンで死去しました。ディアドコイ(大王の後継者の意)の一人、セレウコスがセレウキアを建設するとバビロンの重要性は次第に失われて行き、パルティア王国時代にはセレウキアとその対岸の都市クテシフォンが完全にバビロニアの中心となってバビロン市は放棄されました。
雑談
ハンムラビ王、めちゃ悪い奴じゃんと思いました。
亡国の王子ジムリ・リムとかめっちゃ主役っぽいですよね。
誰か書きませんか?
マリ陥落後、彼がどうなったかは不明なので、色々妄想ふくらみそう。
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