第17話指輪
※16話「レンゲの指輪」と繋がっていますが、単体でも読めます。
優しい嘘なら許されますか。もしそう問われても、多分君はにべもなく首を振るだろう。優しかろうが厳しかろうが、嘘は駄目だと。嘘は吐くとき、必ず責任を持たないといけないと。
君は笑ってしまうくらい厳しくて、どんな小さな悪事も見逃さない人間だった。煩わしいと揶揄されることはしょっちゅうで、そのせいでよく孤立していた。君は、君なりの正義に誇りを持って、それを貫いていただけ。なのにそのせいで、逆によく敵を作ってしまっていた。
それでも凄いのは、君が自分の信念を曲げなかったことだ。君はとても真面目で、光のように真っ直ぐな人間だ。そして光のように、眩しい存在なんだ。
君は自分にも他人にも厳しいように見えて、実は他人にはとても優しいのだと、僕だけが知っている。そのことに、ほんのちょっとだけ優越感を覚える。
厳しさは愛情の裏返し。この言葉を本当の意味で地を行く人間は、恐らくこの地球上に、君以外いないだろう。他の人間がかざしている厳しさは、大概は偽の厳しさだから。厳しいだけじゃ無く、どうすればいいかしっかり考えてくれる。相手のために何が最善かを、これでもかというほど突き詰めて考える。君は、そういう人間だ。
いつもぼんやりして流されてしまう僕に、君はいつも隣にいてくれた。ちゃんとしなさいと活を入れられるけど、見切りをつけたり見捨てたりなんてことは絶対にしなかった。現に今、君はまだ僕の傍にいる。
他人にはとても優しいけど、その分、自分に厳しい君。だから僕が、君のことを優しくしようって、決めたんだ。僕は君みたいに、あえて厳しく接するなんてできないから。
君はとても厳しい。でも、一緒にいたら、心がやわらぐ。
だから子どもの頃、君に指輪をあげた。レンゲ草で作った指輪を。そして言った。いつか本物をあげると。その時指輪が欲しいって僕に頼んだ君は、今まで見せたことないくらいの笑みを浮かべた。待ってる、って少し泣き出しそうな目をしながら。
そして今、僕は君の元に向かっている。ポケットの中身を何度も確かめながら。
あの時以上の笑顔を見せてくれるんだと思ったら、この今にも四方八方に暴発しそうなくらい暴れている心臓だって、抑えられる。それでもかなりギリギリだけども。
あの時の約束を、やっと果たすときがきた。嘘が何よりも嫌いな君にとって、あの時交わした約束が嘘では無いと証明する。今日がその日だ。
遅いと怒られてしまうだろうか。平手打ちくらいは覚悟しておかねば。もしかしたらげんこつかもしれないけど、でも我慢しよう。
待たせてごめんって、ちゃんと謝ろう。謝って、しっかり向き合って、このポケットの中の物を渡すんだ。
今、僕にある心残りは一つだけ。もう少し君を知りたかったな、と。
でもそれは、この先でいいんだ。時間をかけて。ゆっくりとで。
「優しい嘘なら許されますか」で始まって、「もう少し君を知りたかった」で終わる物語
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/828102
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