第16話レンゲの指輪

 「たったひとつ欲しいものがあるの」

 花畑で。そう言ったら聞こえはいいが、実際は野草が生える空き地で、私は君の目を真っ直ぐ見つめた。なあにと、君は小首を傾げる。

「指輪が欲しいの」

 それが何を意味するか、私はちゃんと知っていた。心臓が爆発しそうな勢いで音を立てていた。

 君は何回か大きく瞬きすると、突然屈み込み、足下に生えていた野草を摘んだ。私に背を向け何やらごそごそとしていたかと思うと、すっと何かを差し出した。

 それは、茎を丸めて結んだレンゲ草だった。私の薬指に嵌めて、君ははにかんだ。

「いつか、本物の指輪をあげるからね」

 君の笑顔とレンゲ草の指輪はどこまでも眩しく、輝いて見えた。

 もう、君は覚えてないのだろうか。あの時交わした約束を。馬鹿馬鹿しいかもしれない。でも、私はまだ、忘れてないよ。



「たったひとつ欲しいものがあるの」で始まって、「まだ忘れてないよ」で終わる物語

#書き出しと終わり

https://shindanmaker.com/828102


レンゲ草の花言葉「あなたと一緒なら苦痛がやわらぐ」

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