第8話赤の空

 西の空が、赤い。血のような、という表現は似合わない。けれど、それと同じかもしくはそれ以上のおどろおどろしい表情を見せるときが、時々ある。今の色が、まさしくそうだった。

 この世とあの世の境界が曖昧になると言われる時間。

確かにそう言われるのもわかるような気がする。

 明るいのは間違いない。でも、暗い。

光はある。本当の意味での暗さは無い。なのに、確かに暗いのだ。

 そんな矛盾を抱えた空をずっと見ていると、自分が今生きているのか、それとも死んでいるのか、わからなくなってくる。

やがて、陽光が西の山の峰へと姿を隠し始めた。ぽつりぽつりと民家に明かりが灯り出す。どこからか、子どもの声が聞こえてくる。ほのかに漂う、食事の匂い。靴底越しに、大地の感覚が伝わってきた。

自分は今、確かに生きている。

なぜか、少し安心した。

 先程まで私の心をざわつかせていた空の赤色は、もう別の色に塗り替えられ始めていた。

夜の訪れを知らせる空には、小さな光がひとり煌めいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る