第7話それがある限り

 月の見えない夜だった。月が見守っているみたいな言葉があるけど、そんなわけない。

 誰も……月も、自分の事を見てくれない。そんな思いが、頭をもたげる。やめようとしても、悪い方、悪い方へと思考が傾く。

 真っ黒い波が押し寄せてきて、足を止めた。目から何かが零れそうになる。力を込めても溢れ出てきそうだ。

溢れたら最後、自分が何であったかわからなくなるくらい、とめどなく流れ続けることだろう。

 だから抑える為に、上を向いた。


 その時。真っ暗な空を、すうっと光の筋が横切っていった。

 途端に押し寄せていた波が、跡形も無く引いていくのを感じた。溢れそうになっていたものを収めていた目には、その何かはすっかり無くなって軽くなっていた。

最後の名残とばかりに、一筋だけが頬に垂れた。

全く、何て単純なのだろうか。苦く笑いながら、足を進めた。

 目には見えなくても、自分を見てくれている存在は確かにある。

それがある限り、もう少し生きていようと思う。





「月の見えない夜だった」で始まり、「もう少し生きていようと思う」で終わる物語

書き出しと終わり

https://shindanmaker.com/801664

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る