第2話追憶の本

 気がつくと、自室の本棚の前でしゃがんでいた。どうしてここにいて、今まで何をしていたのか、なぜか全く思い出せなかった。

 ふと目の前の本棚を見ると、見覚えのある懐かしい背が目にとまった。

 それは、もう読まないと判断して、ずっと前に手放した本にそのものだった。手にとって眺めた表紙は、記憶にあるものと全く同じだった。

 捨てたことは、実は思い違いだったのかもしれない。そう思いながらページを捲ってみる。記憶通りの内容だったけれど、久々で新鮮な気持ちを覚えた。


 しばらく読みふけっていた時だった。何かに呼ばれたような気がして、顔を上げた。

 そこに、他の捨てたはずの本達が、本棚に並んでいた。久しぶりに、読み返すのも良いかもしれない。私は、密かに心を弾ませていた。


 次に気がついた時、私は自室にいた。本棚の前に、横たわっていたのだ。体を起こしたとき、全て夢だったということが、即座にわかった。

 なぜならさっきまで読んでいたはずの本が、どこにも無かった。本棚を見ても、先程まであった本達は、どこにも無かった。

 ある訳が無い。私が自分で手放したのだから。にも関わらずこうして思い出したのは、どこか惜しむ気持ちが、私の中にあったからなのだろうか。

 あの時に買った、あんな表紙だった、ああいう場面があった……。

長らく忘れていた、彼らとの思い出が蘇っていく。

 私はしばしの間、彼らがいた本棚の空間を眺めていた。

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