大空へ

「君は父親の言葉に縛られていた。早く言えば洗脳されていたんだよ。君に罪はないよ。しばらく知事室の仮眠室で寝泊まりすればいい。みんなには僕の助手という事にしておこう。モニタールームは地下にある。メインモニターと四台のサブモニターで戦況を見る事ができる」


 都庁に戻ってきた。四台分の駐車面積をとる、トレーラーヘッドを端に付け、地下駐車場の地面に降り立った。モニタールームは真っ暗で中のモニターだけ青く輝いている。今はそれぞれ重要な廊下の部分と思われる箇所が写し出されているだけだ。


 川城が腕時計型の携帯をかけている。

「それでは突撃してください統合幕僚長殿」

 そういうとモニターを全て切り替え道路を写しだした。


 中央のモニターには先頭をいく戦車から撮られていると思われる映像が写っていて、左右から自衛官が勢い良く飛び出していく。


 一時間がたった。滋賀県庁が自衛官によって押さえられたとの連絡が入った。


 川城は次に滋賀県警察に電話をかけている。

「そうです。これから西日本全域の庁舎を押さえていきますので手を出さないようにお願いいたします。そしてそのむねを全西日本警察に連絡してください」


「気分がすぐれないわ」

 キャルはその場を離れた。そしてエレベーターで一直線に知事室に向かった。川城ははっと気付き後を追う。


 知事室のドアを開けるとやはり机の中に入っていた拳銃をこめかみに当てているキャルの姿があった。


「拳銃をこちらに寄越すんだ。キャル!」


 しかしキャルは朦朧もうろうとしている。


「愛してるんだ。どうか死なないでくれ」


「私はもうダメなの。生きていく気力がない……」


 パーン!


 キャルは崩れ落ちた。川城は一匹の蝶を取って来るように部下たちに命じた。


 部下の一人が紋白蝶を取って来た。躊躇なくキャルの衣服を剥がすと、応接室に置いてあったポッドにキャルとその蝶を入れた。


 部下の一人が運転を開始する。ゴボゴボと時折泡が上がる。そして……


 キャルは生まれたままの姿でポッドから這い出てきた。川城はキャルに優しく白衣を被せる。


「ここはどこなの?」


「いいんだよ。もうそういう事は気にしなくても」


「あ、お姉ちゃん」

 そこにリヒトが入ってきた。躊躇なくキャルの耳の後ろのスイッチを押した。キャルの変身が始まった。ドロリと落ちていく人間の組織。そして広がっていく真っ白な羽根。


「こんなとこにいないで外に出ようよ」


 リヒトは窓を開ける。舞い込んでくるビル風。リヒトは飛び出しキャルを呼ぶ。川城はキャルの手を掴む。


「行っちゃ駄目だ。行くと戻ってこれなくなる」

「なぜかあの子を見捨てられないのよ」


 キャルは川城の手から離れ、窓を通るとリヒトが待つ大空へ飛び出していった。


 川城は窓にしがみつく。


 そこには幸せそうに空を飛ぶ、リヒトとキャルの姿があった。



 完



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

改造少年リヒトとキャルの世界征服物語 村岡真介 @gacelous

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ