突破!

 朝方少しだけ寒くなってきた。キャルはリヒトと一緒にマイクロバスに乗っている。リヒトはフライドチキンを3kg分食べている。


 六百人の蟻軍団を車に乗せてまずは日本征服に打って出たのだ。目指すは三重県庁。警察の激しい抵抗が予測されるが、こちらには無敵の兵士がいる。


 徐々に市街地に入っていく。バスはナビ通りに県庁前に到着した。キャルはためしに三人で攻撃させてみることにした。


 兵士を適当に三人選んで県庁に突入させる。県庁の中にいた人たちが転げるように出てきた。何百人の人間が外にでたことだろう。人の出入りがピタッと止まった。


 こうして三重県庁奪取に成功した。千人ほどの警察が来たが時にはすでに遅し。外で銃撃戦になるが、確実に仕留められていく。


 一人の蟻人間が、千人と対決して負けない。まさに無敵だ。キャルは車を取って返し、名古屋を目指す事にした。




 名古屋にはすでに武装警察による規制線が張られていた。作戦では最終合流地を東京都庁前にしておいたので、各々様々な下道を通って東を目指す。


 キャルのマイクロバスは県庁目指して一直線だ。パトカー横を突破すると銃弾が飛び交いフロントガラスを突き破る。


 バスの中にいた二十人ほどの兵士が飛び降りて、一人、また一人と倒していく。


 驚いたことに相手も機関銃を撃ってきた。自衛隊である。ここにきてさすがにこの征服行為を見過ごすことはできなかったのであろう。しかし、悲しいかなそこはしょせん人間である。盾の裏側に回れば一発の銃弾で倒れていく。


 バイパスに散乱した死体を尻目に、規制線を突破した。


 愛知県庁には一応五人を残し、次に向かうは静岡だ。バスのガラスはなくなったが、かえって涼しくて快適になった。


 静岡県庁の前に表れたのはなんと消防車である。昆虫は洗剤をかけると呼吸困難になって死んでしまう。


 二十人ほどが出ばって機関銃を乱射する。消防は界面活性剤を放って、次々に兵士を弱らせていく。


 キャルは三十人を戦闘に参加させる。これが功をそうし消防隊は次々に命を落としていく。


 兵士の弱点がいろいろあらわになっていく。情報が拡散しているのが手に取るように分かる。


 静岡県庁に入ると誰もいない。キャルはよもやの事を考えて十人を残してバスに乗り込んだ。


 国道246号線から神奈川県に入る。ここも規制線が張られていたが、ターゲットを変えてきたらしく、キャルを目掛けて一斉に撃ってきた。


 応戦する精鋭十人。なんとか敵を殲滅した。


 自動運転から手動に切り替えパトカーの列をこじ開けながら進む。


 やっと神奈川県に入った。それでもバスは五十台を超えている。安全のためキャルは先頭車両を放棄し二台目に乗り込む。


 もうすぐ東京だ。しかしここでも抵抗にあう。自衛隊のヘリから機銃掃射だ。やはり一つまえのバスを狙い撃ちしている。


 今度は二台目、キャルのいる車両に狙いを定めたようだ。


 ガンガンガン!


 リヒトがキャルに覆い被さる。おかげで事なきを得た。




 ついに東京に到達した。最後の砦と道路はパトカーで埋め尽くされ、何千人いるか分からない機動隊で埋め尽くされている。


 兵士達は一斉にバスから降りると戦いに加わる。


「かかれー!」

 銃撃戦では負けない。先頭はもみくちゃになっているが勝利は確定している。


 キャルがそう思った矢先、自衛隊が前に出てなんと火炎放射機で攻めてくるではないか。


 一体、また一体と焼き尽くされ死んでいく兵士達。

 その自衛官を十人がかりで攻撃するとあっという間に倒れてしまった。


 マイクロバスで機動隊を踏みつけていく。機動隊はなすすべもなく跳ねられていく。


 規制線を突破すると東京に入った。もう夕方である。都庁を目指して一直線に進む。キャルはなぜか嫌な予感がする。


 バカ高い二つの塔。ついに都庁へ到着した。


 キャルは五人の兵士を先頭に正面玄関口から入ろうとすると、中から二人の怪人が表れた。一人はかぶと虫男、もう一人は大くわがた男である。


 ――やっぱり東日本に逃げてたのね。


 あのマイクロHDDをすぐに設計図どうりにできる権力を持った人間に取り入りこの怪人を生み出したに違いない。


 二匹に機関銃を浴びせるも全く効かない。


 二匹はキャルを見つけると、どっかどっかと走ってきた。


 余裕で逃げるキャル。スピードを一切感じない。致命的な弱点である。キャルは一回りして玄関につくと、兵士が群れになって二匹に組み付き足の関節をピンポイントで狙って足をぶち切った。これで戦闘能力はほぼゼロになっただろう。


 キャルはリヒトと五人ほどを連れて都庁に入る。人の気配が全くしない。連絡がありあらかじめ全員早退にしたに違いない。


 そこへまた消防隊のお出ましだ。キャルに着いていた兵士に洗剤をかけてくる。リヒトが飛んでいきパンチをかますと一発でのびてしまった。幸いリヒトは洗剤がかからなくて済んだ。


 最上階に到達した。窓から薄暗い光が入ってくるだけで廊下の電灯などついてはいない。


 知事室と思われる一室の前に来た。そっとドアノブに手をかける。ドアを押したその時!


 巨大なスズメバチがキャルの下っ腹に針を指す。ずるずると床に倒れ混むキャル。朦朧もうろうとする意識のなかで、キャルは一人の男の存在を感じ取った――




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