経済的征服

 世界のセレブ達は続々と西日本に避難をしてきていた。そのため地価が高騰し、土地もバブルに突入した。


 二日目、○同製鉄をまたもやストップ高まで買った。これで持ち株比率は46%と51%まであと一歩だ。


 川城は個人投資家の細かい株も買いながら、後は、大口投資家がどちらに売るかの勝負に持ち込んでいた。


 次は神○製鋼所、これも何とかストップ高に持ち込み前場は終了した。明らかに昨日とは違い値動きが重い。抵抗が始まっている。TOBをするというのは公開してある。それだけに難しい。


 川城がデスクに肘をかけ、物思いにふけっていると、リヒトがそーっと近より爆竹に火をつける。


 パパパパパパパパパパンパン!


「うわー?!」

 川城はあまりにも突然の出来事になすすべもなく叫んだ。

「このチビ!」


 川城が振り向くと驚いた。なんと空を飛んでいるではないか!


「カオスだ……」

 もうなにをされても驚くまいと強く誓った。


 神○製鋼所は多少の抵抗はあったものの筆頭株主が手放すと、他の個人投資家たちもつられて一斉に手放した。こちらは簡単にTOBを成功させた。まずは第一銘柄だ。


 その他、二十銘柄中十銘柄ほどはまたもやストップ高となり日本中を驚ろかせた。このトレードは誰が仕掛けているんだという話題で持ちきりになっている。テレビを見ていると、これは悪の組織クリーンライトが仕掛けているの (まあ、当たりだが) いやいやブラックライトが更なる高値で売るために採算部門を売って現金化しようとしているだの様々な憶測が飛び交っていた。




「さあ、行くわよ!」

 その頃、キャルとリヒトは百人規模に膨れ上がった軍隊蟻の改造人間達を連れて、別の食料庫に襲いかかろうとしていた。


 今度狙うのは缶詰め工場である。米だけを兵士に与えても直ぐにたんぱく質不足になって死んでしまう。缶詰めの奪取は急務だった。


 いつものようにリヒトが門を飛び抜けて鍵を内側から外すと兵士が二列になって入ってくる。まずは五十人投入したところでキャルからストップがかかる。


「何か嫌な予感がするわ!まずは探って来て頂戴」

「わかったー!」


 五十人が一斉に食料庫に襲いかかろうとすると裏側から武装した集団が!


 キャルの予感が当たった。警察の警備課の面々が隠れていたのだ。その数およそ百人。


「行けー!」

 という合図のもと警察の機動隊とこちらの兵士がぶつかる。機関銃を放つも相手は強力な盾を持っている。リヒトも十人ほどの機動隊に囲まれてしまったが、余裕である。玉を弾き返し一人に体当たりを食らわせ、捕縛しようとした警察官には頭に1t超えの回し蹴りをお見舞いする。


 こちらの兵士も負けてはいない。もともと普通の人間の十倍程の戦闘能力がある。外骨格に覆われたその体は天然の盾だ。機動隊の銃などものともせずに機関銃を撃ちまくる。


 次々に倒されていく機動隊たち。戦闘開始から二十分もすると、「引け引けー!」と言う合図と共に死体や負傷者をかつぎ裏門から消えて行った。


 こちらは、ほぼ全員が無傷であった。


「これで正式に警察を敵に回したわね」

 キャルの表情がいくぶん曇る。

「まあ、考えたって仕方はないわね。いつかこの日がくるのは覚悟してたから」


 正門前にトラックが待機している。

「リフトを使える者だけ残して帰るわよ!」

「「イー!」」

 缶詰めで一杯の食料庫を後にした。




「どう、上手くいってる?」

「まあ、予想通りというか。上値が重くなってきたよ。抵抗が激しくなってきた。ちなみにTOBに成功したのはそのリストにかいてある」


 キャルがリストに目を通すと妥当な銘柄がそこにあった。


「他の関係ない銘柄まで乱高下してるよ。人びとをパニックに落とし入れている万能感。まるで神になったような気分さ。酔ってくるんだよ酒を飲んでる訳でもないのに。トレードをしているとたまにそんなゾーンに入る」

「ふーん、少し分かるかも」

 キャルが緑茶のペットボトルに口をつける。


 川城が思い出したように言う。

「この仕事が終わったら……」

「終わったら……?」

 少しドギマギするキャル。(つきあわないか)って言われたらどうしよう?


「今米袋をトラックで運んでいるよね。その中に俺のトラックも混ぜてくれないかな。運送業を始めたものの開店休業状態なんだよ。そのくらいの権限は君が持っているんだろう?」


 ――このとうへんぼく!


 キャルは恋の予感がしていただけにがっくしきた。しかし、トラックの仕事を与えると毎日のように顔を会わせることができる。


「いいわよ、その代わり」

「その代わり?」

「一回トラックに乗せて頂戴」

「いいよ。大歓迎だよ。一緒にトラックデートと洒落こもう!」


 このトラックバカ。しかしそのバカに恋をしている自分を発見する。


 そこへリヒトの腕が後ろからキャルの脇に突っ込まれおっぱいを激しく揉みしだく。


 スパーン!スパーン!


 キャルは容赦なくリヒトの頭を張り飛ばす。


「なんだよ。ミッションが終わればおっぱい揉ませてくれるっていったじゃないか」

 キャルは顔を真っ赤にして言い返す。

「タイミング!時と場合を考えなさい!」

「そんなことわかんないよ。まぁいいや、キャルのおっぱいも揉んだし」


 ぷいーん

 リヒトは嬉々として階下の自分の部屋に帰って行った。


「何ですかあれは!」

「あの子の名前はリヒト、改造人間よ。交通事故に会って一度は死んだ身なの。それでこの基地のラボでてんとう虫と遺伝子レベルで融合し、生まれ変わらせたの。本来は可哀想な子なのよ」

「あれが可哀想ねぇ。俺にはただの変態少年にしか見えませんけどね」


 川城は少し苛立ち気味に声を荒げる。


「それより今日はこれを見ません?『ほーほー鳥の海』アニメですけど泣けますよ」

「見るわ!見る見る。それ見ようと思っていたやつよ。忙しさにかまけて見そびれたの」


 上映が始まった。ほーほー鳥のナギが、「こんな何もないとこもういやだ!」とふるさとを捨て大都会に出るという物語。しかし大した仕事もなく、派遣社員として単調な作業を繰り返し、最後は大暴れする。警察から追われふるさとに帰ると、そこには大自然と豊穣な海が広がっていた……


 最後は二人とも声を上げて泣いていた。爽快な終わりだったのになぜ涙が止まらないんだろう?


 ティッシュを取る手が止まらない。ちーん!鼻水をふくふたり。思い切り泣くと気分が爽やかになった。


「もっと一緒にいたいわ」

 モニターをテレビに切り替えた川城にキャルは迫る。キャリー・佳香・ボーガンが彼女の本名だ。日本人とアメリカ人のハーフである。ハーフ独特の綺麗な顔をしている。


 また、メイドにシャンパンとつまみを持ってこさせる。乾杯をして川城はぐびりと、キャルは一気に一杯飲み干す。


「今の映画を見てどう思う?」

「そうねぇ。やっぱりふるさとはいいってとこかしら、次第に故郷の島が見えて来たところから涙が溢れ出たもの」

「俺の感想は少し違うな。これは日本の資本主義社会を痛烈に皮肉っている作品なんだよ。西日本を牛耳っている、超マネー資本主義から主人公が逃げ切った時に感じる解放感で涙腺がやられるんだよ」

 キャルが反撃する。

「でもなんで資本主義を皮肉るの?私達は生まれた時から資本主義の中で生活し何不自由なく生活してきたわ。学校でも資本主義が社会構造の最終形態だって……」


川城の表情が寂しげになる。

「それは君がめぐまれた環境で育ってきたからだろう。自分が不幸と感じた事なんか一度もない。図星だろう」


 川城からこんなに批判されるとは思ってもみなかったキャルの頬をまた涙がつつーと伝わった。


「今日はこの辺でやめとくわね。ご免なさい。また明日ね」


 キャルは逃げるようにその場を後にした。

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