さも当然のように

 わたしたちは北極大陸にて、大魔封陣のセッティグを完了した。

 賢姫さまが無線で合図をする。

「開始してください」

 五つの魔方陣に配置した、それぞれの破邪の戦士が力を解放する。

 それは大魔宮殿を中心として、巨大な魔方陣を形成。

 魔方陣内部の魔が払われ、大魔宮殿の結界が消失した。

 兵士たちが一斉に快哉の声を上げる。

「「「やったぞ!!!」」」



 みんなはいったん集まる。

「さあ、みなさん。大魔宮殿にもう一度乗り込みましょう。今度こそ、大魔王を倒せます」

 みんなは力強く頷いた。



「あのー、ちょっと 良いですか」

 オッサンが手を上げた。

「実は 聖女さまに、お伝えしなければならないことがありますです」

 わたしは考えていたセリフを先に言った。

「ごめんなさい。貴方の気持ちは全身全霊 拒否させていただきます」

 オッサンは心底 怪訝に首を傾げた。

「なんの話ですか?」

「私のことが好きだって言う話でしょう。実は裏庭で大魔道士さまと話しているのを偶然聞いてしまって。残念でも何でもありませんが、貴方の気持ちには全力で応えません」

「僕が聖女さまのこと好きだなんて、そんなわけないじゃないですか」

 さも当然のように言うオッサン。

「え? 違うんですか?」

「聖女さまって何気に腹黒くて、ちょっと怖いというか。それに けっこう暴力的ですし、性格悪いですし、僕も嫌です」

「なんかボロクソに言ってくれてますけど、じゃあ何の話なんです?」

 あの話で恋バナではないとしたら なに?



 オッサンは申し訳なさそうに、

「すいませんです。僕、ここで旅から外れさせていただきますです」

 わたしは理解できなかった。

「え? なに言ってるんですか? 今から決戦ですよ」

「わかってますです。これで本当に最後の戦いです。そして大魔王を倒せば英雄になれるんです。英雄になれば世界中の女の人が僕の童貞を欲しがりますです。童貞卒業した後も、何人もの女の人をとっかえひっかえできますです。

 でも、でも……」

 オッサンはボロボロと泣き出した。

「怖くて足が動いてくれないんです。ずっと怖かったのを我慢していましたです。だから根性を出してるのに、気合いを入れてるのに、とうとう足が進んでくれなくなっちゃったんです。

 情けないですよね。あともう少しなのに。童貞卒業まであと少しなのに。でもダメなんです。

 こんな僕は一生 童貞です。でも しかたないです。こんな臆病者なんですから。

 みなさん、頑張ってくださいです」




 わたしはオッサンの手を握った。

「貴方が臆病なのは知っています。

 でも、貴方はいつも勇気を出して、わたしたちと一緒に戦ってくれた。

 あなたは、勇気ある臆病者です。

 でも、もう十分です。

 いままで ありがとうございました」

「……聖女さま……」



 こうしてオッサンは、最後の戦いを目前として、パーティーから離脱した。

 でも、オッサンを責める人は誰もいなかった。



 わたしはみんなに伝える。

「さあ、今まで勇気を振り絞って戦ってくれた臆病者のためにも、必ず勝利しましょう」



 こうしてオッサンの勇気を受けて、私たちは大魔宮殿へ乗り込んだ。



 悪友は心底疑いの目で聞いてきた。

「で、ホントはどう思ってたの?」

「一生 童貞で当然だろうなって思ってた。やばかったわー。あの オッサン、盛り上がってるところに水を差すこと言い出すんだもの。ごまかしてなかったら士気がだだ下がりだったわ」

「そんなことだろうと思ったわ」

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