感度三千倍

 わたしは みんなの戦いを観戦していたわけなのだけど、ふと気付いた。

 近くの崖になっているところが、なんか不自然というか、人の手が加えられているような感じを受けたのだ。

「オッサン、あそこの部分、なんだか おかしくありませんか」

「え? どこです?」

「ほら、あそこ」

「言われてみれば 不自然ですね」

「ちょっと 行ってみましょう」

 わたしとオッサンが そこへ行ってみると、いくつかの岩に隠れて、大砲のような機械が隠されていた。

「これって、大魔王軍が用意した秘密兵器っぽいですね」

「ちょっと調べてみますです」

 オッサンが一通り調べると、

「この大砲みたいな物から発射される、無数の魔法弾で大ダメージってやつです」

「でも、そんなことしたら、魔物も巻き添えになってしまいますけど」

「そこがこの兵器の特徴で、事前にマーキングした者は狙わないんです」

「じゃあ、魔物は無傷」

「そうです」

「考えてみれば、窪地にいる大魔王軍だけで、わたしたちを倒せると考えているわけありませんよね。こんな物を用意していたわけですか」

「聖女さま、どうしますですか?」

「これ、使えないようにできますか?」

「配線をいくつか切ってしまえば、それだけで使えなくなりますです」

「じゃあ、やってください」

「わかりましたです」



 勇者軍と大魔王軍の戦いは、やはり勇者側が有利だった。

 隠密将軍は妖術将軍に命令を下す。

「妖術将軍! アレを使え!」

「わかったじゃ!」

 妖術将軍は崖に向かって爆裂の魔法を放った。

 すると大きな岩が破壊され、そこから見えるのは大魔王軍の秘密兵器。

 兄貴が叫ぶ。

「あれは なんでござるか!?」

 妖術将軍が得意気に説明する。

「あれはわしが開発した秘密兵器じゃ! アレを起動させれば無数の魔法弾が この窪地に放たれ 貴様らを一掃する!

 そんなことをしたら わしらも巻き添えになるじゃと?

 心配するな! わしらは狙わないようマーキングがしてある! つまり! 貴様らだけを狙うのじゃ!

 恐れ入ったか?! アヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 と いう 妖術将軍を、その兵器の隣で眺めていた わたしに、隠密将軍が気付く。

「せ! 聖女!? なぜそこに!?」

「なんか 兵器が隠されているのに気付いて 来ました。あと、この兵器は使えないようにしました」

 妖術将軍は驚愕の声。

「なんじゃとぉおおお!?」



 大魔王軍は完全に劣勢となった。

 しかし、ふと 気付くと、隠密将軍の隣に執事がいた。

 相変わらず神出鬼没だ。

「隠密将軍、大魔王さまからの命令です。貴方は撤退してください」

「わかった」

 承諾する隠密将軍だが、妖術将軍が異を唱える。

「ま! 待て! わしはどうなるんじゃ!?」

「貴方は残って大魔王軍の指揮を執ってください」

「なんじゃと!? もう負けは決まっとる! 全軍撤退させるべきじゃ!」

「貴方たちは大魔王さまに愛を捧げた身。大魔王さまのために最後まで戦ってください」

 無情に微笑む執事は、隠密将軍を連れて、影に消えた。



 取り残された妖術将軍。

 残っている魔物たちも戦意喪失寸前。

 わたしは妖術将軍に、

「あの、降伏されてはどうですか? 潔く降伏すれば、命は取りません」

 身体を震えさせている妖術将軍。

 でも 恐怖からじゃなかった。

「フフフ……フヒャヒャヒャヒャヒャ!

 しかたない! こうなれば奥の手じゃ!」

 妖術将軍の周りに魔方陣が出現した。

「出でよ! 究極造魔法兵!」

 そこから巨大な炉歩徒のような物が出現した。

 ような と 曖昧な表現をしたのは、機械だけで構築されていなかったからだ。

 それは生物と機械の融合。

 搭乗している妖術将軍がいつものように一方的に説明する。

「これは究極造魔法兵! 造魔に魔法兵の技術を加えた物じゃ! 秘密裏に集めた将軍たちの細胞を元に創った造魔! さらに魔法兵の技術で機械的に強化したのじゃ!」

 究極造魔法兵が無数の爆裂魔法を放った。

 爆発が連続し、兵士たちが吹き飛ばされる。

 しかも魔物まで。

「ちょっと! 味方まで巻き込んでますよ!」

「知ったことか! わしが助かれば それでいいんじゃ!」

 なんか わたしと凄く気が合うんだけど。

「さあ! 貴様らを皆殺しにしてくれる!

 じゃが……」

 ねっとりした眼をわたしに向けて、

「聖女よ。貴様は殺さないでおこう。生かしてわしの性奴隷にしてやる。

 グヘヘヘヘヘ。

 徹底的に調教してやるぞえ。二十四時間アクメさせ、精液を主食にし、感度三千倍にして精液風呂に入れてイキっぱなしにしてアヘ顔を世界中にさらしてくれるわ!

 アヒャヒャヒャヒャヒャ!」



 わたしは妖術将軍の秘密に気付いた。



「貴方、童貞なんですね」

「ぎっくう!」

「やっぱり」

「い、いや! 違うわい! 何十人もの女を精液便所にした実績が!」

「発想が童貞なんですよ。感度三千倍って、そんなことしたら ショック死しちゃいますよ」

「い、いや、それは例え話で、精液で興奮させると言う意味の感じで」

「精液に発情するというのも嘘です。あなた自分の精液で興奮しますか?」

「いや、わしは男じゃから」

「女も男も同じですよ。精液に発情するということ自体 作り話なんです」

「そ、そうなの?」

「ちなみに おにんぽを愛しく思うとかってのも作り話ですから」

「マジ?」

「マジです」

 妖術将軍は 降参しようか どうか、ちょっと考えたみたいだけど、

「い、いや! ここで 手柄を上げれば大魔王様に筆下ろししてもらえるんじゃ! 絶世の美女に筆下ろししてもらうためじゃ!」

「あのー、薄々そうじゃないかなって思ってたんですけど、貴方、大魔王を女だと思ってませんか?」

「なにを言う。女に決まっとるじゃろう」

「大魔王は男なんです」

「え?」

 妖術将軍はキョトンとして、

「じゃが、魔王様は大魔王様に筆下ろししてもらったとか言っておったが」

「ええ。男同士で です」

「……男同士で?」

「男同士で」

「あ、そうなんじゃ……」



 妖術将軍はしばらくの沈黙の後、究極造魔法兵の右手を挙げた。

 その手首がポキンと折れると、中から白旗がシュポンと出てきたのだった。

「降伏しますじゃ」



 こうして、わたしたちは勝利し、魔兵将軍と精霊将軍を救出したのだった。

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