ねっ、素敵でしょー

「相談に乗って欲しいのよ」

 悪友が館にやってきて、開口一番に そんなことを言い出した。

「相談って、なんの?」

「恋の悩み相談」

「……」

 ……

「え!?」

 恋の悩み?!

 こいつに そんな高尚な悩みができるなんて、いったいなんの前触れ?

「相手は誰? 先ず金持ちよね。次にイケメンよね。性格なんてどうでも良いわよね」

「あんた私をなんだと思ってるの? 性格も重要よ」

「だってあんた、前世で金持ちと結婚したとかって言ってたじゃん」

「だからって金が全てだと思ってないわよ。前世の旦那は性格もよかったわよ」

 信じられない。

「なによ? その疑わしげな目は」

「いや、別に。

 っていうか、つまり 今 あんたが好きなその人は、性格も良いってこと。性格を知ることができたってことは、話をしたことがあるの?」

「まあ、向こうから話しかけられてさ。ほら、あたし冒険者ギルドで受け付けやってるでしょ。それで話をしたんだけど。でも、仕事の延長みたいな感じで、プライベートなことまではよくわからないんだけど」

 どうもよくわからない。

「相手は誰なの? それがわからないと相談にならないじゃない」

「わかった、付いてきて。直接 彼を見てもらうわ。今の時間ならあそこにいるだろうから」



 そして悪友について行って到着したのは、学校だった。

 十歳頃から十二歳頃までの子供を教育する、民衆向けの学校。

 前世で言えば小学校の高学年に当たる学校だ。

 へえ、悪友が好きな人って、学校の先生なんだ。

「しばらくしたら学校から出てくるわ」

 ちょっと影に隠れて私たちは待機する。

 もうすぐ下校時間だけど、教師ならまだ仕事があるんじゃ。

「あ、来た来た」

 悪友が歓喜の声。

 悪友の視線の先には、十二歳くらいの利発そうな美少年がいた。

「……」

 ……

「え!?」

「ねっ、素敵でしょー」

「いや、ちょっと待て。素敵とかそういう以前に相手 何歳よ?」

「十二歳」

「あんた何歳」

「二十六歳」

「犯罪じゃん!」

「何言ってるのよ! 愛に年齢なんて関係ないわ!」

「オーケー。落ち着け。ここは わたしが百歩譲って、愛に年齢は関係ないとしよう。

 だけど、エッチには関係あるのよ。子供にエッチなことしたら女でもアウトなの。

 つまりあんたはあの子とエッチなしのプラトニックラブしたいわけね」

「何言ってるの! 純朴な美少年にイケナイ事をすると思うだけで私はもう、もうっ! ぐへへへへへ……」

「こいつダメ人間だ!」

 そう言えば前世でもショタだった。

「でも、あんた前世で結婚したんじゃなかったの?」

「金目当てでもう立たなくなったジジイと結婚したから処女のまんまよ」

「あんたが欲望まみれだってことが良く分かったわ」

 なにが前世の旦那は性格もよかっただ。

「だけど舞踏会の時、中隊長さんを狙ってなかった?」

「十歳くらいの弟がいれば絶対美少年だろうなと思って」

 美少年なら誰でも良いんじゃない。



 そんなことを言い合っていると、美少年君が わたしたちに気付いた。

「あ、お姉さん」

 嬉しそうな笑顔で駆け寄ってくる美少年君。

「お姉さん、僕に会いに来てくれたんですか」

「そうなのぉ、君がどうしているかなって気になってぇ」

 慈しみの笑顔で答える悪友のその表情の裏に、ゲスな欲望がありありと見える。

「そちらの貴族様は、お姉さんのお友達ですか?」

「そうよぉ、私の親友なのぉ。貴方に紹介したくて連れてきたのよぉ」

 悪友が わたしを紹介すると、美少年君は わたしに礼儀正しく挨拶する。

「初めまして。公爵令嬢様なんですね。失礼なことをしてしまったらごめんなさい。僕、貴族様への礼儀とかあまり知らなくて」

 わたしは美少年君を安心させる笑顔で、

「そんなこと気にしないで大丈夫よ。私はただ生まれた家が貴族だっただけ。貴方と同じ人間であることには変わりないわ」

 まあ人生勝ち組だけどねー。

 オーホッホッホッ。

「それより、貴方に聞きたいのだけど」

「はい、なんでしょう?」

「貴方、このお姉さんとどういう関係なの?」

 美少年君は瞳をキラキラさせながら話し始める。

「実は僕、冒険者になりたいんです。

 伝説の勇者に憧れていて、それで剣や魔法の勉強をしているんです。

 だけど、それだけじゃだめだと思ったんです。実際に冒険者をしている方たちからお仕事の話を聞きたいと思って、思い切って冒険者ギルドに見学に行ったんです。

 その時、受付をしていたこのお姉さんに、冒険者の方に話を聞いても良いか許可を取ったんです。

 お姉さんはとても親切にしてくれて、冒険者の方たちから色んなお話が聞けました」

 わたしは美少年君の話を微笑ましく思いながら聞いていた。

「まあ、そうなの。貴方は冒険者になりたいの」

 美少年でも、そういうところは男の子ねー。

 伝説の勇者に憧れるなんて、無邪気というか可愛いというか。

 わたしはショタじゃないけど、思わず顔がニマニマしてしまう。

 ふと隣から、

「はあ……はあ……はあ……」

 変な呼吸音が聞こえてきて、見ると、悪友が欲望まみれの笑みを浮かべてよだれを垂らしていた。

「ちょっと、よだれ、よだれ!」

「……え? ハッ!」

 悪友は袖でゴシゴシとよだれを拭く。

 あっぶねーな、おい。

 悪友の奴、美少年君の可愛さの余り襲いかかる寸前だった。

 早いところ撤退した方が良さそうだ。

「会ったばかりだけど、私たち今日はもうおいとまするわね」

「あ、待ってください受付のお姉さん。実は今度、会って欲しい人がいるんです」

「私に会って欲しい人ぉ? 誰かしらぁ?」

「実は僕、彼女ができたんです」

「……え?!」

 悪友からガラスにひびが入るような音が聞こえたような気がした。

「お姉さんに一番に報告しようと思っていたけど、お姉さんが会いに来てくれてちょうどよかったです。

 今度紹介しますから、会ってもらえますか?」

「う、うん……わかった……」

 悪友の返事は心がこもってなかった。



 館に戻った わたしたち。

「うぇえーん!」

 悪友はテーブルに突っ伏してマジ泣きしている。

「彼女だなんて……美少年君に彼女ができちゃっただなんて……」 

「諦めなって。あんたと美少年君じゃ年齢的に無理があるし」

「諦められない。諦めたくない。諦めない。

 そうよ、まず美少年君の彼女ってのを調べるわ。相手が子供なら大人の魅力を持った私が有利。エッチなお姉さん系で攻めて美少年君を落とすわ!」

「あんたはエッチなお姉さんじゃなくてただの痴女だと思う」



 悪友の恋の行方はどうなる?

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