手応え良さそう
俺は彼女をデートに誘った。
彼女に普通のデートというものを知って欲しいからだった。
場所は遊園地。
こういう時は奇をてらってはいけない。
定番を押さえるのが重要だ。
そして俺はこのデートで彼女にキスをするつもりだ。
あのゲス王子のした下劣なファーストキスなど忘れさせるような、思い出に残る素敵なキスを。
そうとも、俺が本当の愛を教え、そして彼女を幸せにするんだ。
「と、いうわけで、彼女たちも一緒でよろしいでしょうか?」
デート当日、彼女は一人だと不安だと言うので、護衛の他に、もう一人女性を連れてきた。
「もちろん良いとも」
以前、王子に騙されかけ、そして彼女の勇気ある告発で救われ、今は彼女の友人となった女性。
「こうして合うのは初めてだね」
俺は彼女の友人に軽く挨拶する。
「初めまして。今日はよろしくお願いします」
挨拶を返す彼女の友人は、俺の耳元で小さな声で、
「全力でサポートさせていただきます」
俺は彼女の友人の意を酌み取った。
俺と彼女との仲が上手く行くことを望み、応援するつもりなのだ。
正直、今回のデートは自分一人の力で上手く彼女をエスコート出来るかどうか不安があったので、応援はありがたい。
「よろしく頼むよ」
そして俺は愛しい彼女に笑顔で、
「では、行こうか」
「はい! がんばるぞー!」
彼女は張り切っていた。
普通のデートをするのがそんなに嬉しいとは。
彼女は子供のように楽しんでいた。
コーヒーカップでは思いっきりハンドルを回し、ジェットコースターでは一番スリルのある最前列に座った。
メリーゴーランドでははしゃぎすぎて従業員に怒られてしまい、レストランでは食事を本当に美味しそうに食べた。
ホラーハウスでは陳腐なお化けに笑い、バンジージャンプでは下着が見えるのも気にしない。
「うふふふ、公爵令嬢さまは 本当はこんなに無邪気な方だったんですね」
彼女の友人がそう言った。
俺も本当にそう思う。
全てから解放された彼女はこんなにも明るくて活発的なのか。
彼女の意外な一面を見て、俺はますます彼女が好きになった。
愛おしさがあふれてたまらない。
「中隊長さん、最後はなにが良いですか?」
「最後は観覧車にしよう」
「最後は観覧車にしよう」
中隊長さんがなんか わたしに愛おしそうな目を向けている。
なんで?
恋愛的な盛り上がりからはほど遠い感じにしてたはずなのに、なんか良い雰囲気になってるんだけど。
このまま観覧車に乗ったらまずいんじゃ。
ど、どうしよう?
でも、考えてみれば今世でも前世でも、男の人と恋愛関係になったことなくて、キスもしたことないんだった。
これ、チャンスなんじゃ。
そうよ、一線を守ればいいのよ。
キスくらいなら。
あ、でも ヒロインちゃんたちいるし。
しかし そのヒロインちゃんが、
「じゃあ私、少し席を外しますね」
え?!
「あの、どちらへ?」
「お花を摘みに」
ちょー!
お花を摘みにじゃないでしょ!
「え、いや、あの」
わたしはツインメスゴリラに助けを求めるように目を向けた。
「「では、お嬢様、私たちもお花を摘みに」」
あんたたちがお花を摘みになんて言葉使うな!
「お待ちなさい!」
突然、わたしを女同士の関係に誘う公爵令嬢さんが現れた。
「中隊長さん! そうはいきませんわよ!」
腰に手を当てて中隊長さんに怒りの眼を向けている公爵令嬢さんに、わたしは質問する。
「あの、お待ちなさいじゃなくてですね、どうして貴女がここに?」
わたしは心底 疑問だった。
怒り心頭といった感じの公爵令嬢さんは、
「中隊長さんと貴女がデートするという情報を入手して、今日一日ずっと尾行していましたのよ」
ストーカーか。
公爵令嬢さんは中隊長さんに指を突きつけて、
「中隊長さん! いったいなにを企んでいるのかしら!?」
中隊長さんは公爵令嬢さんの非難の声に困惑して、
「俺は企みなど……」
「嘘おっしゃい! 他の人と一緒だと見せかけて、良い雰囲気になった途端、彼女と二人っきりになっていったいなにをするつもりなのか、わたくしには全てお見通しですわ!
これだから男は汚らわしいのよ! すぐに下品で下劣な欲望に走って!
わたくしの彼女に手は出させませんわ!」
わたしは貴女の彼女じゃないです。
そんな先走ったことを言っている公爵令嬢さんに、ヒロインちゃんが甘い声で、
「あのぉ、ちょっといいですかぁ」
と、公爵令嬢さんの首に腕を回して顔を近づけた。
「な! なにをなさいますの!? わたくしは彼女一筋と心に決めておりますのよ!」
顔を赤らめる公爵令嬢さんに、ヒロインちゃんは甘く囁く。
「貴女のお腹、柔らかくて手応え良さそう」
ドム! ドム! ドム!
ボディーブロー 入れた! 三発も!
公爵令嬢さーん!
気絶したって言うか口から魂が出てるー!。
ヒロインちゃんは平然とした顔で、
「あら、大変。興奮しすぎて失神したみたい。私 涼しい所に運んできますね」
そして公爵令嬢さんを引き摺って行く。
正統派ヒロインじゃなかったの?
そして、わたしは中隊長さんと一緒に観覧車に乗った。
正直 キスとかそういう雰囲気じゃなくなったので、大丈夫だと思って。
ああ、夕日が綺麗。
まあ、最後は なんだかなあという感じだったけど、今日一日なんだかんだで楽しかった。
中隊長さんが わたしに、
「今日は楽しかったよ。また、デートしてくれるかい」
「いいですよ」
わたしは心からそう答えた。
観覧車を降りた わたしに、ヒロインちゃんが聞いてきた。
「どうでした? なにか進展はありましたか?」
期待に満ちた目のヒロインちゃんに、観覧車での事を聞かれたけど、
「わたしのイメージと違うってことがわかったわ」
ヒロインちゃんの腹の中が。
「そうです、男の人にも優しい人はいっぱいいるんですよ。貴方もわかるようになります」
わかってないのはヒロインちゃんの方だと思った。
次の日、わたしは館の庭園でお茶をしながら、悪友にデートの報告をした。
「中隊長さんの好意は素直にうれしいけどさー」
「けど、なによ?」
「嘘だってばれた時のことが怖い」
身体を許せば、わたしが純潔だという事が分かってしまう。
その時、中隊長さんは わたしを本気で怒るだろう。
好きでいてくれている人に怒られるのが、怖い。
「はあ」
悪友が嘆息して、
「まったく。破滅を免れるためとはいえ、そんな大嘘ついたりするから。
知ってる? 処女膜って時間が経つと再生するらしいわよ」
「え? マジで?」
「時間が経ってからそう言って身体を許せば、誤魔化せるんじゃない」
わたしは立ち上がり拳を握りしめ振り上げる。
「よし! その方向で行くわよ!」
行けるのか?
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