アカイロの世界
__昔の事を思い出した。
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副題 死とは何か
ノリで書きました。
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昔、昔。とても昔。
あるところに、英雄と謳われた男がおりました。彼は真っ赤な鎧を着ていたので、赤鎧の騎士と呼ばれておりました。
ある日、男は戦場で化け物の魔女に会いました。
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道を急ぐ。
こんなに暗い夜には魔女が出るらしい。魔女は子どもが一人でいると、一口で食べてしまうそうだ。それをぼくは『子どもが悪いことをしないようにする為に大人がつく嘘』ってやつだって知ってるけど、それでも、こんな夜道に一人は怖かった。
早く帰りたい。そう思いながら走っていると、後ろから悲鳴が聞こえた。ビックリして振り返ると、おっきい化け物がいた。こんなの、見たことないし聞いたこともない。
グルグル唸ってる。おっきい口は、すぐにぼくを食べちゃいそうだ。
あんまりよくない臭いがする。
「ど、け、ろっ!」
ぼくの後ろからやって来た声。ジャンプして、おっきい化け物をおっきい剣で切ってしまった。
剣を持ってる人は、ぼくを見て舌を鳴らした。
「……馬鹿か? なぜ止まっていた。なぜ逃げない。なぜ抵抗しない! その年にして死にたがりか? あ? 殺すぞ」
「まぁまぁ、そんなに怒らなくっても良いんじゃあないかしら」
おっとりした声。いつの間にか、剣の人の隣に女の人が立ってた。白い髪で、青い目だ。
「あなたにはなかったかもしれないけれど、普通の人は恐怖で足がすくむのよ」
「……非効率的だ」
「やっぱり、あなたって機械ってやつじゃないかしら」
「違う。毎晩確かめてるだろう」
「そう言われてもねぇ……あら、そういえば、村、燃えてたわよ?」
「それは先に言え!」
剣を持って走ってく。
女の人はぼくに近寄ると、しゃがんで、笑った。
「あなた、どうするの? 多分、おうち燃えちゃったけど」
「……なら、いいや」
「悲しまないの?」
「別に。母さんも、父さんも、この前の流行病で死んじゃったもん」
「そう。なら、着いて来なさい」
いいえ、って言えない雰囲気だったけど、女の人は優しそうに笑って、ぼくを立ち上がらせた。
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男は魔女に呪いをかけられました。それは、永遠に魔女に従う呪いでありました。
魔女は男に言いました。「あなたの親友が、あなたの命を狙っています」と。男はそれを信じ、無二の親友をその手で殺してしまいました。
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久しぶりに夢を見た。
起き上がると、まだ太陽も登っていないのにウィルは起きていた。僕に気づくと、薄っすらと笑う。
「なんだ、顔色が悪いぞ。昨日のキノコがあたったか」
言われた途端、お腹が痛くなる。
「……多分」
「そうか。やはりあれは毒だったか」
「やはりって……知ってたのかよ」
「ああ。だが、お前ならいけると思った」
不老不死になると強制的に頭がおかしくなるのか?
言いたい言葉を飲み込んで、ウィルに今日見た夢を話す。
初めて彼らに会った日の事だ。どこかの施設から逃げ出した化け物に殺されかけていたところを、僕は彼ら、ウィルとロストに助けられた。そして、その化け物のせいで村は壊滅していて、生き残ったのは僕だけだった。その事に関して悲しいとは思わない。
それから僕は、彼と共に旅をしている。
「……そうか。もう、そんなに経ったんだな」
目を細めて、ウィルは笑う。
「十年、か。そりゃあ、お前もこんなに大きくなるな」
「やっぱり、どっかに定住した方が良いよな?」
「ああ。お前は俺達と違って年を取る。誰か好きな人を見つけて、その人と一緒に死ぬべきだ」
「……ウィル達みたいに、不老不死になるってのは、駄目か?」
「やめておけ。俺はロストが好きだから、あいつと生きたいから不老不死になっただけだ。好きになった奴と同じ時間を生きろ」
好きな人、好きな人、って。いつも思うけど、この人はかなりのロマンチストだ。こんな荒れた世界、好きになれる人なんてそうそう出てこないだろう。それに、いたとしても天寿をまっとうできるとは思えない。
「そういえば、ウィルはどうしてロストと一緒に旅しないんだ?」
「あいつに着いてくのは流石に辛い……あと、俺とあいつじゃあ、価値観が違う。そのズレのせいで、あいつを苦しめたくない」
それは、とても酷い我儘だ。苦しめたくない、と言っているが、その行動自体が相手を苦しめている。
「まぁ、とりあえず飯にしよう」
ウィルのその言葉で、ハッと我にかえる。いけない、また考え事をしてしまった。
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魔女は男に言いました。「あなたの部下達が、あなたの命を狙っています」と。男はそれを信じ、信頼していた部下を皆、その手で殺してしまいました。
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辿り着いたのは、王都と呼ばれる都市だった。何でも、王様がいるらしい。その証拠と言うべきか、街の中心には空に届きそうな程大きい城があった。
「すごいな、あれ」
「当時、最先端の技術を用いて作られたものだ。容易に攻められん」
ウィルは街を囲う壁を指差して、
「あの壁だって、そうだ。最先端の技術を使って、堅牢にしてある。あの様子から考えるに、今も強化していってるな。流石、龍皇の孫というか」
龍皇、ってのは、確かこの国を作った王様だ。
「……ウィルって、いつから生きてるんだ?」
「いつだと思う」
知るかよ。
ともかく、二人で道を歩く。人が多くて逸れそうだが、幸いにも赤毛は目立つ。ロストはウィルの赤毛と赤い目が好きだって言ってたけど、それは目立つからじゃないだろうか。分からないけども。
「ちょいと、そこのお兄さん」
声をかけられ、振り返る。
いかにも怪しい人物がそこにいた。そこまで寒くないのにマフラーをつけているし、肌の露出が異様に少ない男だ。
「君、そこの赤毛の君」
「茶髪って言ってくれ。なに?」
「悩み事があるのだろう? 解決してあげようじゃあないか」
怪しい。だが、それは気になってしまう。
自分の事を冷静に見れば、かなり捻くれている、というのが感想だ。親がいない事に劣等感を抱いた事もあるし、才能がない事を恨んだ事もある。ふとした時に何の理由もないのに死にたくなる事もある。ウィルを呪った事は一度や二度じゃない、大した理由でもないのに。
だから、僕は
だから、その誘いに簡単に乗ってしまうんだ。
「それは、どういう風に?」
僕がそう問うと、怪しい彼はニィと笑った。
「実際に見てもらった方が良い。こっちに来てくれるかい?」
「ああ」
言われるがままに路地裏に行く。
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魔女は男に言いました。「この国の王様が、あなたの命を狙っています」と。男はそれを信じ、遂には国王を、その手で殺してしまいました。
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進み、進み、曲がって進み、元来た道なんて覚えてないくらい奥深くに行くと、これまた怪しい扉があった。西の方の暑い国で似たようなのを見た気がするけど、ちょっと違う感じだ。不思議に思ってると、怪しい彼が説明をくれる。
「これは、ある有名な魔族の人がつくったものだよ」
ああ、それなら見た事なくて当然かもしれない。
そんな扉をくぐると、またまた怪しい空間があった。変な匂いがするが、怪しい彼が言うにはこれも魔族のものらしい。
「じゃあ、あんたは魔族なのか?」
「いいや、違うよ」
「じゃあ、人間なのか?」
「いいや、違う」
その時、怪しい彼がマフラーを解いた。
「私は、吸血鬼だ」
その口の端には、長い牙があった。
逃げようとした時にはもう遅い。腕を掴まれ、壁に体を押し付けられる。
流石鬼、と言うべきか。見た目は書生か修道士のように細っこいのに、一応鍛えてる僕より力がある。
それと、フードが外れたせいで、黒い髪が流れ落ちている。
「女みてぇな面してんな、てめぇ」
「なら私が男である事を証明する為に、君を女にしてしまおうか?」
「それはお断りだな」
「そうか。じゃあ、食べてしまおうか」
身をよじるが逃げられない。首筋を噛まれた、と理解した時には、脳みそがおかしくなっていた。
気持ちが良い、というか、死にそう、というか。言葉に表現できないけど、とにかくヤバい。喘ぐ声は酷い金切り声で、抵抗する気もなくなってしまうくらい快楽が襲ってくる。
バラバラになりそうな、というかなってる頭で、吸血鬼は血を吸う時に相手に快楽を与える、だとかっていう情報を思い出す。蚊が血を吸う時に痛みを感じさせないよう麻酔するように。そんな事に今更気づいたところで、意味なんてないのに。
ようやく解放された時には、足には力が入らないし、頭はロクに働かないし、そのくせ、理性よりも本能が勝っていた。
逃げないといけない事は分かってた。だが、体が動かない。
食事が終わった吸血鬼の一部は、食べ残りを殺すらしい。どうやら、こいつもその類いらしい。そりゃあこんな状況、悩みの一つや二つどころか百くらい平気でぶっ飛ぶだろうけど、いや、死にたくねぇよ。
その時、壁を何かがぶち破った音がした。
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男は魔女と共に国を追われました。
ですが、男は満足でした。愛する人と過ごせる時間が、彼には何ものにも勝るものでしたから。
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「惨めな顔だな。やはり馬鹿は馬鹿か。あの時殺しておくべきだった」
聞き慣れた声だった。
ウィルだ。そう思ったと同時、吸血鬼野郎も思い当たったらしい。僕を掴んでた手を離して、動揺した声を吐き出す。
「なぜ、なぜ生きている!? 滝から落ちて死んだんじゃ!?」
「あ? 俺は溶岩に呑まれても生きてる男だぞ? 滝くらいどうって事ねぇよ」
なんだその肩書きは。お願いだから人間でいてくれ。
「で、馬鹿。なんだ、鬼になりたかったのか? 言ってくれりゃあ殺してたのに」
ため息の音。
「情が移った。殺した後、目覚めが悪りぃ」
続いて、舌打ちの音。ヒュン、と大剣が空を舞う音。
「赤鎧の騎士め! 今日が貴様の命に、」
一瞬先に剣が動き、吸血鬼が二つに分けられる。
首が飛んだ死体に剣を突き立てて、ウィルは大声で笑った。
「なる訳ねぇだろ、阿呆。一千万年早いわ」
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それから、男と魔女は長い長い旅をしました。
ある時は、幼い王様を助けました。
ある時には、老夫婦の頼みを聞きました。
またある時には、独りぼっちの少年を拾いました。
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目を開けると昼だった。死にたい。冗談だけど。
ひどく昔の事を思い出した。僕がまだ人間で、まだ人の温もりが大好きだった頃の事だ。
吸血鬼である事にはもう慣れた。血を吸いたい衝動はあるけど、できれば可愛い女の子が良いなぁ、というセクハラ紛いの事を考えられるくらいには心に余裕が生まれた。いや、セクハラっていうか、処女の女の子の血が一番美味いのは事実なんだけどね? でも、可愛い女の子って、大体やってる事やってんだよなぁ。ちっちゃい子に手を出すのは色々とアウトだし。
そんな事を考えてると、いつもの疑問にたどり着いた。
「……あー、なんで僕って吸血鬼になったんだろうねぇ」
普通、吸血鬼になるにはそれなりに手段を踏まないといけないらしい。魔法陣を描いて、誓約をして、紙になんか書いて、とか。
だが、僕は血を吸われただけで吸血鬼になれた。どんな本を漁っても、こんな事象はあまりないようだ。というか、まず吸血鬼に関するちゃんとした本が少ない。物語が多過ぎる!
「あー、怒んないようにしないと。無駄に体力使うのは駄目だ。うん」
息を吸って、吐く。
そういえば、ウィルもロストも呼吸をする。不老不死になろうが細胞は生きているのだろうか。なら、二人は息を止めたらどんな風になるんだろう。
考える事は楽しい。昔は馬鹿らしい悩みで溢れてたけど、馬鹿みたいに生きた今はそんな事を気にする事は少なくなった。なくなった訳ではないけど。
身を横たえる。考え事をしているといつの間にか寝てしまうのは、人間の頃も今も変わらない。だから今日も、僕はいつの間にか夢の中に行っていた。
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「ある日魔女は言いました。『ワタシがかけた呪いはそろそろ解けている筈です。あなたはどうしてワタシと共にいるのですか?』と。
それに男はこう答えました。『俺はあなたに未だ惚れている。だから一緒にいたいんだ』と。
こうして、赤鎧の騎士と化け物の魔女は、幸せに暮らしていますとさ。
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