四十の嘘と一つの真実

__それは、嘘だな

4PV

副題 四月馬鹿(エイプリルフール)


正直言うと、いくら嘘とはいえ四十個考えるの疲れました。




え? エイプリルフールは午前中だけじゃあないか、って? 細かい事は気にしちゃ負けですよ。


@@@@@@


「エイプリルフールって、実は嘘をついて良い日ではないんだよ」

「嘘だろう、それは」

 彼女は苦い笑み作る。やはり嘘だったか。四月馬鹿だな、彼女は。

 実際、俺はそれが真実か分からなかった。ただ、それなら雑学好きの俺がどこかで見てないのはおかしい、と思い、言ってみただけだ。

 しかし、彼女は諦めずに続ける。


「林檎と梨は同じ果物」

「違う。林檎はバラ科リンゴ属、梨はバラ科ナシ属だ」


「ロシア最後の皇帝の娘、アナスタシアは生き延びて、天寿を全うした」

「いや。死んだ事が証明されている」


「パイナップルは野菜」

「嘘つけ。果物だ」


「キュウリは果物」

「またか。野菜」


「トマトは果物」

「野菜」


「ダイアモンドは絶対に削れない」

「違う。削れなかったら、どうやって加工するんだ?」


「お酒は簡単に作れて、儲けれる」

「おい。嘘かどうか以前に、犯罪だぞ、それは」


「シャーロック・ホームズは死んでいる」

「いや、読者の要望で復活したぞ」


「ナルシストの語源はインド神話」

「違う。ギリシア神話のナルキッソス。あと、ナルシシストな」


「松茸は栽培できる」

「馬鹿か。できたらあんなに高くない」


「ガラスは液体」

「違う。最近は固体と言われている」


「スライムは液体」

「違う。液体と固体、両方の性質を持つ粘弾性物質」


「童話作家のアンデルセンは短命」

「七十まで生きれば十分長生きだろ」


「ティッシュは食べれる」

「やめろ。食べれない」


「ゴッホは金持ち」

「違う。全然売れなかった貧乏人」


「地球は来年滅亡する」

「分かりやすい嘘だな」


「川端康成は自殺ではない」

「それは俺も信じたいが……自殺、という事になっている以上、否定する」


「太宰治は事故死」

「それも信じたいが、心中という事になっているからな。事故死じゃあない」


「著作権は死後すぐに切れる」

「違う。普通は五十年だが、例外で伸びる事はある」


「モナ・リザは盗まれた事がない」

「ある。残念ながらな」


「犬と猫の先祖は別」

「同じ。ミアキスというイタチのような物だ」


「人間に一番近いのはチンパンジー」

「いや、ボノボに変わった」


「赤色はどんな人でも認識できる」

「違う。色弱の人がいるだろう」


「色弱で一番多いのは青と黄色」

「違う。赤と緑だ」


「ブラック企業は別に忙しくない」

「全国の社畜に謝れ」


「林檎飴の林檎は梨」

「林檎は林檎だ。梨じゃあない」


「蛇は宗教でよく嫌われている」

「死ぬ程好かれてるぞ。死と再生を司る云々で」


「昔のヨーロッパでは、性別問わず子どもに男の格好をさせていた」

「逆だ。女の格好をさせていた」


「ドストエフスキーの罪と罰は、かなりのバッドエンド」

「主人公が幸せになるからハッピーエンドだろうが」


「何々田、という名字で、田をタと読むのは、ナカタとムラタだけ」

「馬鹿みたいにあるぞ」


「カタツムリは一生交尾ができない」

「訳が分からない事を言うな。それならどうやって繁殖しているんだ、あいつらは」


「アーサー王物語のトリスタンの死は、物語にかなり影響した」

「全くしてないぞ。元が別の話だからだろうな」


「蛸を食べるのは日本だけ」

「パエリア」


「蜂蜜が甘いのは砂糖を入れているから」

「成分表示を見てみろ。安い物には混ぜ物が入っているが、高いのは純粋に蜂蜜だけだぞ」


「二組の武田と竹田は先月別れた」

「まだラブラブカップルだぞ、あいつらは」


「えっと、あんたの隣の席の枝野さんは、あんたの事が好き」

「この前ボロクソ言われたぞ。あれで好きなら、とんだ役者だな」


「柏木はあんたの事が好き」

「男に好かれても良い気はしない……嘘だろ?」


「一組の担任は、上田カミダじゃなくて上田ウエダ

「あの人はカミダであってるぞ。あと、ネタ切れなのか?」


「羽川は一方的に赤葉が好き」

「今度は女同士か……あの二人はどう見ても対立してるじゃないか。そのせいでクラスが二分されてるし」


 ため息が漏れた。それが、俺の物か彼女の物かは分からない。しかし、多分、二人の物だったのだろう。少量の呆れと、多量の楽しさ。それが空気中に解き放たれた。

 そして、最後の問答。


「あたしは、あんたの事が好き」

「…………そうかい。ありがとよ」


 俺は否定できなかった。

 なぜか、勝負に負けた感覚がして、気づけば俺は笑っている。心の底から、久しぶりに笑う事ができた。


「……四月馬鹿は、俺かお前か、どっちだろうな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る