枝垂れ桜の木の下には

__桜の木の下に死体が埋まっているのなら。

4PV ハート2つ

副題 誤魔化しの効かぬ優美さ


元ネタは、レモンエロウの絵の具をそのまま塗ったような檸檬でお馴染みの「檸檬」を書いた梶井基次郎の「桜の木の下には」の一文、「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」です。そう、この一文です。真面目に内容を読んだ事はありませんが、この一文が好きなのです。どうしても使いたかったのです。

と言う訳で書きました。書きました。書きました。書きました。書きました。書きました。書きました。書きました。書きました。書きしまた。書ましきた。書まきした。書きました。書さました。書きもした。書さました。書きまJた。書きまシタ。書キました。書きmaした。書きました。write.書きました。書KimasTa.Kakimasita.kakImAsiTa.


では、本編へどうぞ。


@@@@@@


「桜の木の下に死体が埋まっているのなら。この木の下には、何が埋まっているんだろうね」

 そう言って、病弱そうな青白い顔の男は枝垂れ桜を指差した。夜闇の中で、その薄桃色が月の光を反射するように光っている。もし本当に反射しているのなら、それは月が反射した太陽の光を反射しているのだろう。しかし、私はそう言った分野の話は苦手であるから、無論、どうして桜の花がはっきりと見えるのかは分からないのである。

 男は枝垂れ桜の下に行くと、その隙間から私を見つめた。それは、長い前髪の隙間を通って見える瞳が、桜の枝の隙間を通って見えている物で、彼は私と同じ日本人だから、その目も髪も黒色である訳で、本当にそれが瞳なのかは、遠くにいる私には分からなかった。

「君は、何が埋まっていると思う」

 男はそう言って、人間らしからぬ笑みを浮かべた。ゾゥと背に張り付くような笑みだ。それが枝垂れ桜の下に見えるのだから、季節外れの幽霊のようであった。

 私は少し考えた後、顔を上げ、相手を見る。

「あの作家は、桜が綺麗なのは死体が埋まっているからだ、と言いましたよね。なら、普通の桜の木と同じように、死体が埋まっているのだと思いますよ」

 男はつまらなそうに肩を落とすと、枝をかき分けて私の下へ戻って来る。すると、有無を言わせぬ勢いで、私の腕を掴み、ズカズカと先程歩いた所を進んで行った。枝垂れ桜の中は、その枝が長く、地面に着きそうな程なのもあってか、同じ場所である筈なのに、別世界のような雰囲気があった。右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても、勿論上を見ても、全て薄桃色で、全て甘い香りを漂わせていた。

 男は私の腕を話すと、綺麗だろうと言わんばかりの笑みを浮かべた。どうやらこの男、ただの笑顔でも様々な意味として使い分ける事ができるようだ。

「本当に、死体が埋まっていると考えているのかい? ただの、死体が埋まっている、と」

「その言い様、何か考えがあるのですか」

 男は私の目を見て、ニヤリと不気味に笑った。童話に出てくる魔女よりも、悪魔よりも不気味であった。これ程不気味な物は、今まで二、三度しか見た事がない。それらも、この笑顔と同じように、特異で、平凡な人生を生きるのなら見る事がない物である。兎に角、男の笑顔は恐ろしく不気味であった。

「きっと、ここには異形の死体が埋まっているのだよ。君は、サーカスを見た事があるかい」

「いいえ、一度も」

「そうかい。サーカスにはね、異形がいるのだよ。一つの身体に二つ頭がある娘や、鱗の生えた男、鵺、鬼、人魚……あげればきりがない。指が六本ある奴よりも、変わった奴が大勢いるのさ。きっと、ここにはそれらが埋まっているのだよ。普通ではないそれらが、埋まっているのだよ」

 地面をトントンと足で叩き、男は言葉を締めた。

 そうして私達は、薄明るい桜の部屋の中で黙って心臓の鼓動に耳を傾けていた。


 しばらくして、男は私の肩を叩いて後ろを振り向かせる。ガサリと、誰かがこちらへやって来る音がした。

「ほら。異形を埋めに来たのかもしれないね」

 男は私の口を己の手で塞ぐ。骸骨のようなそれが、男をさらに幽霊らしくさせていた。

 すぐさま誰か__中年の、民族衣装のような変わった服を着た人が、その姿を現し、担いでいた麻袋を地面に下ろす。麻袋は、大人が一人入りそうな程大きく、そして、黒ずんだ血のりで汚れていた。中年は麻袋の中からシャベルを取り出すと、木の根元にそれを突き刺し、土を掘る。突き刺し、土を掘る。突き刺し、土を掘る。突き刺し、土を掘る。突き刺し、土を掘る。突き刺し、土を掘る。____それを、何度続けただろうか。ある程度の穴が出来ると、中年は麻袋の中身を、穴へ流し込んだ。赤黒いそれは、何かの死体のように見えた。

「言っただろう。枝垂れ桜の木の下には、死体が埋まっているのだよ」

 中年は何事もなかったように穴を埋め、帰って行く。

「まるで、あなたは幽霊のようですね」

 どこか諦めに近い感情を含めながらそう言い、振り向くと、男は一欠片も残さずに消えていた。

 後には、私と、薄明るい枝垂れ桜だけが残っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る