バレンタイン爆発

__バレンタイン、爆発しないかなぁ

3PV ハート1つ

副題 ホワイトデーも爆発しますか?


バレンタインは必要ではないだろう。菓子なぞ適当な日に送れば良かろう。そう言うと、彼は深いため息を吐いた。

「いやいや。決まってた方が送りやすいじゃあないですか」

「知らん。なぜわざわざ私が君なんかにあげないといけないんだ!」

「そりゃあ、僕が彼氏ですからね。ほら、その黒炭下さいよ」

後ろ手で隠したそれを奪われる。なんだ。君はその黒炭で絵でも描くのか? ハハッ、それは面白い。

「いただきまーす」

「あああああ、食べるな! 絶対不味い!」

しかし、私の抵抗も虚しく、それは彼の口の中に入ってしまう。

数秒も経たぬ内、彼はむせ出す。そして、ペットボトルを乱暴に掴み、水を一気に流し込んだ。

「まっず! なんですかこれ、食い物じゃないですよ!?」

「……だから止めたのに」

ああ、バレンタインなんて____こいつの笑顔が見れた今日という日は、爆発してしまえ。恥ずかしいじゃあないか。


二人で笑い出すまで、あと十秒。

そのまま一緒に帰るまで、あと五分。

付き合い出して一年を祝うまで、あと一ヶ月。


二人が結婚して幸せな家庭を作るまで、あと何年?


@@@@@@


 甘い甘い匂いがした。

 目を開けると、チョコがあった。好きではないし、積極的に関わりたくもない、あの忌々しい黒い塊だ。

 起き上がってそれを手に取ると、ハラリと紙切れが落ちる。どうやら手紙らしい。

「…………はぁ」

 最悪だ。伝えた筈なのに。バレンタインにチョコはいらない、と。

 大好きな彼女からだった。料理下手な彼女が唯一得意なお菓子を、頑張って頑張って作ってくれた、愛情しか篭っていないチョコだった。

 他の菓子は食べた事があるから、その美味さは知っている。クッキーなんかは、もう比べ物にならないくらい美味かった。だから、このチョコも美味いのだろう。とてもとても美味いのだろう。しかし、それでも俺はチョコが嫌いだ。大嫌いだ。この世でなくなっても良い物は? と問われたならば、即答でチョコと答える程嫌いだ。

 ああ、なぜ嫌いなんだったろうか。そうだ。あの甘ったるさが嫌いなのだ。ドロリと口の中に残る、あの感覚が嫌いなのだ。

「……どうする? 食べるか?」

 きっと彼女の物だから美味しいに決まっている! と叫ぶ俺と、絶対不味いだろう! と叫ぶ俺がいる。だが、彼女の悲しい顔は見たくない。だが、食べたくない。


 ああ、俺はなぜこんなに悩んでいるんだ。そうだ、バレンタインが悪いのだ。バレンタインという、このイベントが悪いのだ。そも、バレンタインとは、キリスト教だかのなんだかよく分からない殉教者が、戦場で愛を伝えたから始まったのだろう? チョコを送らなくても良いじゃあないか。しかも、外国では男が一方的に女性に物を送りつける日なのだろう? なぜ、日本はそうじゃないんだ。なぜ逆なんだ。おのれ、日本でバレンタインはチョコを送る日、と最初の言った奴め。

 そんな思いを込めて、俺は深いため息を吐いた。

「バレンタイン、爆発しないかなぁ」



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