第2話
Central genetic and cloning institution(中央遺伝学クローン機関)、通称CGC。ここ数ヶ月、私はここに通い詰めている。CGCは研究所に併設されており、唯一私が直接アクセスできる外部機関だ。数年前、私はクローンの実用化の建設書を統治政府に提出した。建設書は受理され、数ヶ月の審査を経て予算が下り、私はここのトップに任じられた。ちなみに、スタッフは私だけである。実は、クローン合法化以前からCGCは秘密裏に稼動しており、当時は機密保護のためスタッフを雇わず私一人と何体かのAIだけでシステムを回していたのだ。クローンが合法化された後もその体制は引き継がれているが、特に問題はない。今も、私と統治政府の上層部のごく一部を除く人間がCGCに立ち入ることは禁止されている。それに加え、稼動を開始してからしばらくして、私に一人住み込みの助手がつくことになった。補助要員という名の早い話が監督役で、今の助手は三代目だ。 しかし、助手にすら情報を漏らしたくないのか、政府からは助手をCGCに立ち入らせないよう命令が出ている。よって前任者同様、彼もCGCを訪れたことはない。かくいう統治政府の上層部がCGCを訪ねてきたこともなく、ここ最近は半ば私の治外法権下にある。
床に散乱した書籍や道具は皆、非合法に調達したものばかりだ。外出禁止からインターネットアクセス制限まで、私の外部への接触は全て統治政府の監視・統制下にある。しかし、助手が派遣されて以来状況は一変した。助手の情報端末にはそのような制限が一切掛かっていないので、ハッキングを仕掛ければ監視下では手に入らないような物品が助手名義で取り寄せられる。注文後すぐに履歴は消去している上、外部からの物資を最初に受け取るのも私なので、今のところ発覚はしていない。助手との公私がきっちり分けられているのを悪用している例にあたる。
うず高く積み上がった幾つもの本の山。そのうちの一つの中腹に挟まっている読みかけの大衆小説をだるま落としの要領で抜き出そうとして失敗し、山はあえなく崩落した。落ちてきた本の角が足の甲に直撃する。痛みを堪えつつ、崩れた本の隙間を縫って床の空いているスペースに座り、いそいそと続きを開く。丁度読み終えた頃、AIが作業の完了を告げにきた。
AIの先導のもと廊下を進む。逸る気持ちが足を急がせる。
ソフィア、今日は君に何を語ろう?
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