力任せの還元魔法師~魔法は全て魔力に還元して吸収できます。打てませんが~

@ariyoshiakira

第1話 還元魔法


 俺は小さい頃から少し変わってる子供だと言われてきた。

 勇者と魔王の話を聞いても、勇者がどう活躍したかではなく、何故魔王が生まれたのかが気になった。

 食べ物の好き嫌いはしなかったが、何故野菜を食べなくてはいけないのかを母親にしつこく聞いて回ったこともあった。

 おそらく、色々とひねくれていたのだろう。


 そんなひねくれ者の俺だったので、七歳の時に教会で魔法を教わった時も、教師役の神父に色々と尋ねて盛大に困らせたのを覚えている。

 魔法はどこから生まれるのか、何故魔力を消費するのか、そもそも魔力とは何なのか等々。その結果その日から俺は神父に相手をされなくなってしまったが。


 魔法というのは不思議な物で、身体にある魔力を使って、現象を召喚することを指す。

 火の魔法なら火を、水の魔法なら水を召喚する。

 そして召喚した後に使役することで、敵を攻撃したり攻撃から身を守ったりすることが出来る。


 使い終わった魔法は、そのまま空気に消えてしまう。

 だから水魔法で出した水は飲めないし、土魔法で作った土で畑も作れない。

 火魔法で作った火で他の物を燃やせば、火は残りはするのだが。


 さてそんな魔法なのだが、俺は子供ながらにとても不思議に感じていた。

 何故魔法は勝手に消えてしまうのだろうと。

 そして魔力を消費することで魔法を召喚しているのなら、逆に魔法を自分の力で消してやれば、魔力を得ることが出来るのではないだろうかと。


 その話をした時の神父の素っ頓狂な顔は今でも忘れられない。

 そして「そんなことは出来ません」と一蹴されてしまったのも忘れない。

 俺も負けじと「試したことがあるのか?」と聞き返したのだが、「試さなくても分かります」とお決まりの答えが返ってきた。

 だがその答えを聞いて俺は思ったのだ。試していないのなら、もしかしたら出来るかもしれないと。


 そんな思い付きにも似た衝動に突き動かされ、その日から俺は魔法を消す方法を探しまくった。

 だが村のどの大人に聞いても「そんな方法は無い」とバッサリ切られるだけで、まともな情報は手に入らなかった。

 なので情報収集は諦めて、実践で訓練することにした。

 幸い俺の事を目の敵にしていた村の奴が、毎日の様に俺に魔法をぶつけていじめて来ていたからな。


 おそらく、色々とおかしなことを言う俺の事が気に食わなかったのだろう。

 話し方が気に食わないなどと言われたこともあったか。

 兎に角俺は皆が魔法を教わったその日から、水魔法や土魔法の的にされ続けた。

 そして俺はそれに耐えつつも、なんとか魔法を消せないかと色々と試行錯誤を続けていった。

 

 魔法に必要なのは、魔力と詠唱と想像力だ。

 詠唱は無くても良いのだが、想像力を補うためにあった方が良いらしい。

 俺の予想では魔法を消すのに魔力はいらないはずなので、取り敢えず「魔法よ消えろ、魔法よ消えろ」とブツブツ言いながら魔法を受けまくった。

 だが結局成果は出ず、ただただ時間だけが過ぎていった。


 変化があったのは丁度八歳になった頃。

 スライムと言う、丸い魔物を見た時の事。

 魔物と言うのは魔力を持った人類以外の生き物の事で、スライムの様に大人しい物から、オーガの様な恐ろしくて狂暴な奴まで色々と存在している。


 それでそのスライムなのだが、こいつがまた滅茶苦茶弱い。

 小さな子供でも、踏みつければ簡単に死んでしまうくらいには。

 ただこのスライム、何故か魔法だけは全く効かないのだ。

 何故なのか不思議に思い色々と観察を続けた結果、どうやら魔法を吸収していることに気が付いた。


 それを見て俺も閃いた。

 今まで俺は魔法を消そうとしていたが、そうではなく吸収しなくてはいけなかったのではないのだろうかと。

 よくよく考えたらその通りで、魔力を使って魔法を発生させる逆は、魔法を消すことでは無く、魔法を魔力に変換して吸収することなのだ。


 それから俺は魔法を魔力に変換することだけに集中して特訓を始めた。

 かなりの時間は掛かってしまったが、方向性は間違っていなかったようで、一度コツを掴めばどんどんと上達するようになっていった。

 ただそれの反動かどうかは分からないが、普通の魔法を発動出来なくなってしまったのは誤算だったが。


 まぁ折角習得した技だし、俺はこれを【還元魔法】と名付けてそのまま極めてみることにした。

 名付けに魔法の文字を付け加えたのは、これを使用すると微量ではあるが魔力を消費するからだ。まぁ注意しなければ気付かない程度ではあったが。

 そして一〇歳になる頃には、この還元魔法もある程度自在に使いこなせることが出来るようになっていた。

 還元した魔力は何故か自然と俺に吸収されるみたいで、魔力の量も日に日に増えていくのが実感できるようにもなった。


 通常人が持てる魔力量というのはそんな簡単に増えるものでは無いのだが、この還元魔法を使うと無理やり魔力が身体に押し込められ、魔力の入れ物がどんどん押し広げられていくようなのだ。

 その結果、俺の魔力量は人とは比べ物にならないくらいの容量へと成長してしまった。

 

 その頃になるといじめっ子たちの魔法の威力も徐々に上がっていて、ぶつけてくる魔法に容赦がなくなってきていた。

 俺が魔法を吸収することでへこたれなくなっていたから、恐らくむきになっていたのだろう。

 流石に火の玉をぶつけられた時は相手の神経を疑ったが、今思えば良い練習相手にはなっていたな。


 さて、そんな還元魔法を極めつつあった俺だが、小さな頃から一つだけどうしても叶えたい夢があった。

 それは冒険者になってお金をたくさん稼いで、贅沢な暮らしをすること。

 大きな屋敷を買って、メイドや執事を雇って、可愛いお嫁さんをもらって、夢のような生活を送ることだ。

 俺の家は農家だったが、俺たち平民がそんな贅沢な暮らしを実現させるには、商人になって成功するか、冒険者になるしか無い。


 冒険者と言うのは、魔物を討伐してお金を稼いでいる人々の事を指す。

 他にも色々と活動をしているみたいだが、とにかく冒険者になるためには魔物に対抗する力が必要となる。

 俺が得た還元魔法も確かに力の一つなのだが、これだけでは魔物を倒すことは出来ない。

 そこで次に俺は、得た魔力で何か出来ないかと考えたのだ。


 俺は還元魔法を習得した代償として、魔力を通常の魔法に変換するという当たり前のことが出来なくなった。

 ただ魔力の量だけはかなりの物へと成長していた。

 そこで、魔力を魔力のまま利用できないかと考えたのだ。

 そして再び村の人に聞いて回った結果学んだのが、身体強化魔法。

 

 魔法と名前は付いているが、実はこれ、魔力をそのままの形で利用した技術の一つだ。

 魔力というのは体の至る所にあるのだが、普段はそこから動かず停滞している。

 が、それを意図的に体中に巡らせることで、身体が活性化していく。

 その結果身体能力が向上し、疲労の回復や傷の治癒速度なども促進されるのだ。


 それを知ってからというもの、俺はひたすら有り余る魔力を体中に巡らせ続けた。

 始めは反動が大き過ぎて色々大変なことになってしまったが、一年もすると身体強化にもかなり慣れてきていた。

 常に身体強化魔法を使っていたせいか身体の構造も徐々に変化し、成長期だったこともあってか、筋肉や骨もどんどんと強化されていった。


 近くに魔物が出たと聞けば、大人たちに混じって討伐に加えさせてもらったりもした。

 始めは恐怖で震えたりもしたが、今では弱い魔物程度なら一発殴れば大体倒せるまでに成長した。

 そしてそんな生活を続ける事早四年、俺はとうとう成人である十五歳になり、街を出ることになったのだ。


「アルト、本当に行っちまうのか?」

「ああ、冒険者になって贅沢な暮らしをするのが俺の夢だからな」

「そ、そうか。相変わらず欲望に忠実な夢だな…… でもまぁお前がいなくなると、この村も少し寂しくなっちまうなぁ」


 そんな良き友の様に声を掛けてくる彼は、俺をずっとイジメて来ていた首謀者ジャンボ。

 彼はこの村の村長の息子で、同年代の子供は彼に頭が上がらない。

 ただ俺が身体強化を会得した辺りから、何故か彼は俺を仲間として認めるようになったのだ。

 もしかしたら一度力加減を間違えてぶっ飛ばしてしまった時に、頭のぶつけ所が悪かったのかもしれない。


「まぁでもお前なら、きっと冒険者になっても成功すると思うぜ」

「そう思うか? だったらいいんだが…… きっと街には俺なんかよりももっと強い奴が大勢いるだろうから、少し不安だ」

「オーガを素手で殴り殺す奴がそうそういて堪るかよ……」


 うんざりした顔でそういうジャンボ。

 そうだろうか? 身体強化は割と一般的な技法だから、俺以外にもそれくらいできる人が居てもおかしくはないと思う。

 この数年間で体はかなり成長したと思うが、技術は素人に毛が生えた程度だ。

 いや、毛すら生えていないかもしれない。ツルツルなのだ。


「アルト君、そろそろ出発しますよ!」

「わかった! じゃあ、俺はもう行く。ジャンボも村の事頑張れよ」

「おう。お前も偶には帰って来いよな! お前んちはちゃんと残しておくからよ」


 そう嬉しいことを言ってくれる彼。

 五年前に唯一の肉親であった母親が消息を絶っているので、この村にはもう俺の家族は存在しない。

 だがこうして帰りを望んでくれる人が居る場所があると言うのは、素直に有難い事だと思う。


「ああ、ありがとう。では……行ってきます」

「おう、行ってこい」


 そう言って、俺は十五年間暮らしてきた村を後にする。

 見上げた空は真っ青で、どこまでも広がっているように感じられた。

 今から目指すのは冒険者の聖地、ダンジョン都市ダルトン。

 そこで沢山お金を稼いで、夢の贅沢な暮らしを手に入れるのだ!




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