コーラン


この世には大切なものがたくさんある。

家族だったり、金だったり、いろいろある。

俺にはとって一番大事なものはコーランだ。


コーラン。

それは手のひらに収まるサイズ。

金属製の箱にぴったり収まっている。

たまに出して遊ぶと楽しい。

ふにゃふにゃした触感がたまらない。

親父が事故死した時、相続した。


俺はコーランを肌身離さず持ち歩いている。


これは先祖から貰った大切なものなのだ。


誰かに怒られたり、悲しみにくれたらコーランをいじる。

コーランは俺を癒してくれる。


また、いやなことがあったのね。


ああ、そうだよ、馬券を外したんだ。


次が、あるわよ。


そうだね。


コーランは俺にいろいろ教えてくれる。

天気や、料理の作り方。

たまに、道まで指定するが、コーランに従って行動すれば間違いない。


こっちよ。


なにか、あるんだろう。


もちろん。


なにが、あるんだい。


ひみつ。


ドンと何かにぶつかってしまった。


「あら、すいません!」


「いや、こちらこそ!」


書類が散らばってしまった。


「急いで拾います!」


彼女は拾うのを手伝ってくれた。


「じゃあ、さよなら」


「さよなら」


いい、女の子だったでしょ。


まあね。


あの子がいいのよ。


平凡すぎないかな。


幸せになれるわよ。


コーランが言うなら大歓迎だ。

その後、俺はコーランの指示の元、その女性に数回あった。

そして、コーランの指示の元、交際が始まった。


「次、どこいきましょっか」


家にさそうのよ。


「俺の家、こない?」


二人は愛し合い、そして間も無く結婚した。

それもコーランの指示だった。

子供ができた。


なまえは、なにがいいかな。


すきにきめたら。


子供はすくすく育った。

頭は特別いいわけじゃないが、いい子だった。


やがて、俺は老いた。

子供は成人していた。


子供に、私をこんどあげるといってね。


俺はもちろん従った。


ミルクをかいにいきましょう。


そうだね、ちょうど切らしたところだ。


俺は、横から信号無視してきたトラックに、気がつくはずもなかった。

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