死刑
だん
まな板の上で人参が切られた音がした。
俺の檻の前で、男が人参を切っている。
リズムもそこには無く、無機質な表情。
輪切りにされた人参が、床に落ちた。
それを男が拾うと、鍋にぶちまけた。
「おまえも、残酷な運命だな、今日処刑の日だ」
「…」
「おまえに罪などない。ただ、この国の歪みが悪いのだ」
「…」
俺は、返す言葉が無かった。
そんな勝手な都合で殺されるのか。
「ごめんな、俺にはどうにもできない」
「…」
俺は、奴に噛み付いて掛かることはしない。
いままで、食い物の世話になっていた。
「せめて、ガレットを食わせてやる」
「…」
「なあ、何か言えよ。助けてとかさ。俺にはそうでもないとできない」
「…」
「さあ、最後の晩餐だ、食え」
鍋から檻に、雑に人参が降り注ぐ。
「食えよ」
俺は、それを口にした。
甘かった。
「うまいか」
「…」
「だよな」
一口で、俺は食うのをやめた。
口に入る気分じゃない。
「なあ、どんな一生だった?俺は兵役に出るんだ、おまえのように、自由なら…いや、そうでもないよな」
俺は何故か男を締めてやりたくなった。
だが、無意味だ。
「なんで、こんなことしなくちゃならないんだろうな。ほら、食えよ」
もう一つ口にした。
甘さが広がっていく。
俺はこれが何か知っていた。
知っていて食べた。
口いっぱい頬張った。
「眠れ」
ゾウが殺された話は、翌日の新聞の、12面の端に載った。
その新聞の一角は、誰に見られるでもなく、戦闘機の轟音とともに、炭になった。
そして、そらに舞い上がった。
タロウ 国ノ為、生命ヲ全ウス
それが見出しだった。
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