第11話 大会
大会――
「へっくしょん!!」
一昨日の夜からずっと、くしゃみが止まらないんだけど、誰か噂してるのか?それともただ体調を少し壊してるだけか?
どっちにしろ今日のレースは、絶対にカッコいい所を見せなければならない。
その為にこの1週間で調子をMAXにまで上げて来たんだ。
思えば辛い日々だった(たった5日ぐらいだけど)。
毎日腹筋して、腕立て伏せをして、背筋をして、筋肉に刺激を与えて行った。
これをするのは、簡単なのだが実行に移すのがめんどくさいんだよな・・・・・・
「大丈夫か眞?今回の大会ベストでそうか?」
中林さんが聞いてきた。
よくあるキャプテンの声掛けてやつだ。
「大丈夫ですよ。今回は、ベストが出そうです」
本当は、プレッシャーになるからあんまり聞きに来ないで欲しいんだけどな・・・・・・
そんな事を言えることもなく先輩との会話は終わった。
「皆集合して!ミーティング始めるよ!」
はぁー、やれやれ、顧問に呼ばれてしぶしぶ足を動かして向かう。大会前ぐらい集中力を高めたいからそんな事したくないんだけどな・・・・・・
天気は、晴れで水温は28℃、体調は悪くない。コンディション的には最高と言っていいかもな。
自分のレースは、えーと、3組目の3コースで意外と真ん中らへんにいることに驚いた。
真ん中に行けば行くほどその組の中で早い事になる。なので4コース、5コースが1番速い事になる。
という事は、俺の隣が1番速い事になるのか。ペースを作るのにはちょうどいいかもな・・・・・・
「えー、以上で終わります。解散!」
そんな事を考えていたらあっという間にミーティングは終わっていた。
まぁ、あんまし聞いてなかったけどそんな大事な話はしてないだろうし、まあいっか。
「まもなく開門になります!準備してください。入る時は、押さないようにしてくださいね」
補助員の人が優しく誘導してくれる。
そろそろ行くか。
俺は、荷物を持って入口へと向かった。
これから今日の戦いが始まると思うと、少し緊張するがそれと同時に楽しんでやろうと意気込みも強くなっていく。
何とも言えない不思議な気分だ。
俺は、静かにそっと心の帯を締めた。
会場内――
アップを済ませて軽く脈と体温を上げて今はストレッチをしている。
好きな音楽を聞きながら闘争心と集中力を上げていく。いつものスタイルだ。
「ピロリーん🎶」
携帯の着信音がなった。俺はすぐに見てみたら案の定リリシアさんからだった。
「プールに着きました!眞さんどこに居ますか?」
すかさず返信と!
「今入口にいるんならそこに俺今から行くから!」
すぐに既読が付いた。
「オケです!」
相変わらず可愛いなっ!!
俺は早足で入口へと向かった。
えーと、リリシアさんはどこかな?辺りを見渡してみた。
お?
あの清楚なワンピースは、間違いないリリシアさんだ。
その姿は天使見たいに汚れを知らないようなどこか神秘的な感じだった。
「おーい!リリシア!こっちだよ!!」
何も意識はしてないのに大きな声が自然と出てしまうな。浮かれてるな。うん・・・・・・。浮かれてる。
「あ!眞さんー!今はジャージ姿なんですね!」
一応スポーツの大会だから当たり前なんだけどね。
「リリシア今日も可愛いね」
「そうですかー?お世辞でも嬉しいです!」
いや、まじなんだけど。リリシアさんはもっと自分が可愛いことを自覚した方がいいな。自覚し過ぎるのはダメだけど・・・・・・
「ここで試合が有るんですか?」
「そうだよ。ちょっと蒸し暑いでしょ」
「そうですね。少し塩素の匂いもしますし、なんか変な感じですね」
「うん。初めてここに来る人は、そう思うかもね。俺はもう慣れたけど」
そう言えば俺が初めて大会に出た時もそんな感じだったな・・・・・・
なんだか懐かしい気分になった。
「眞さんはいつ泳ぐんですか?」
「えーと、確か1時間後ぐらいかな・・・・・・この調子でレースが進んでいったらだけど・・・・・・」
「なら、もうそろそろ準備に行った方がいいんじゃないんですか?」
「そうだけどー、大丈夫1人で?」
なんか、少しおっちょこちょいみたいな感じがするしなー。心配だ。
「私なら1人で大丈夫です!!安心してください!!」
大会の会場内は、そんなに混んでないし、ちゃんと案内板もあるから大丈夫かな。
「じゃあ、一般観覧席て言う所があるからそこで待っててね。あとこれを・・・・・・」
俺は、プログラムとスタートリストをリリシアに渡した。
「ありがとうございます!!じゃあ眞さん頑張ってくださいね
!!」
「おうよ!!頑張るよ!!」
そうして俺はリリシアと別れて、更衣室に向かおうとした。
更衣室は、今俺のいる場所から階段を降りてすぐの所にある。
俺は階段を降りようとして足を出した。
その時だった。
階段が濡れていたらしくて、俺は足を滑らした。
そして、すってんころりんと階段から転げ落ちてしまった。
「ゴロゴロゴロドテンジャン!!!!!」
「眞さん!!!!!」
彼女の悲痛な声を聞いた直後に辺りが真っ暗になった。
確か彼女と出会った時も同じような感じだった。
俺はまたやってしまったのか・・・・・・
だんだんと意識が薄れていく中で彼女への申し訳なさが積もっていく。
「ごめんね。リリシ・・・・・・」
頭を強く打ったらしく完全に意識が消えた。
う・・・・・・ん?ここはどこだ?
確か俺は、アップに行こうとして階段を降りようとしたら転んでしまってそのまま頭を打って倒れたんだよな?
時間はそんなに経ってないみたいだな。10分ぐらいしか経ってない。
それなのに何でこんなにすぐに目が覚めたんだ?
「あ!やっと起きました!!」
「リリシア・・・・・・?どうして?」
よく辺りを見てみるとさっきとは少し移動した場所にいた。
ここは・・・・・・ベンチの上で横たわっているんだろうな。
「リリシア俺はどうしたの?」
「えーと階段から落ちましたね」
そんな事は、分かっている。問題は何でリリシアは、右手を俺の頭に置いて、左手を足に置いているんだ?
そして何故だか心地の良い気分になってとてもいい感じだ。
思いっきって聞いてみよう。
「リリシア何で頭と足に手を置いているの?」
「置いているんじゃありません。添えているんです!」
「じゃあ何で手を添えているの?」
「それは・・・・・・」
次の瞬間彼女は、訳の分からない事を言った。
「私は、人を治せる力があるんです・・・・・・」
「・・・・・・」
「え?どぉ言うこと!!!???」
一瞬頭の思考回路が止まった。
「だから言った通りですよ。私は人を治せる力があ・る・ん・で・す!!」
「あーそうなんだ。てなるかい!」
思わずノリツッコミをしてしまった。
正直情報が多すぎて頭の情報処理スピードが間に合っていない状態だ。
「まぁ、だいたい予想はしていました。絶対驚かれると思ってました。えーと、詳しく説明しますね」
そして彼女は教えてくれた。
自分の秘密を・・・・・・
「単刀直入に言いますと私はエルフです」
「え────!!!!!」
電撃に撃たれたような衝撃が俺の心に走った。
「し、静かにしてください。回りの人にジロジロ見られますよ」
「すいません」
怒られちゃった。だけど今はそんな事気にしてる暇はない。
「エルフて言うけど耳とか全然普通じゃん!髪は金髪だけど・・・・・・それ以外は全部普通だよ」
「まぁそうですね。私に流れている血はかなり薄くなっているからですね。まぁ、それでも力は、まだありますよ」
「血が薄くなった?」
「えーとですね。私たちエルフは、血統なんですよ。血の繋がりで力が遺伝していくんです」
なんかだんだん凄い話になって来たな・・・・・・
「じゃあリリシアさんのお母さんかお父さんがその力を持っていたて事?」
「ですです!」
「どっちの方なの?」
「父の方ですね。ガッチガチの男エルフでした」
「それで、そのお父さんはどうしたの?」
「それは・・・・・・」
彼女は、少し俯(うつむ)いた。
しまった。彼女にとって触れてはいけないパンドラの箱を開けてしまったようだな。とりあえず謝らないと。
「父は今旅に出ています・・・・・・自由人の父はほんとに勝手すぎるんですよ」
あ、良かった。
「おかしくないですか!妻と子供を置いて世界中回っているなんて!」
「う、うんそうだね」
あまりに情報が多いのでリリシアがお父さんの文句を言っている間にちょっと情報を整理しておこう。
まずリリシアは、魔法みたいな力を使える。
血は薄まっているけどエルフ。
尖った耳とかそう言う「エルフ」て感じのはない。
リリシアのお父さんもエルフである。
エルフは血統で繋がっている。
リリシアは、お父さんの事をそんなに良いとは思っていない。
だいたいこんな感じだな。
「それで眞さんにお願いしたいことがひとつあります」
リリシアは、さっきとは打って変わって真剣な顔をしてこっちを見ていた。
こんな顔をするリリシアは初めてだ。
こっちも顔を引き締めないとな。
「何?お願いて?」
「この事は誰にも言わないでください。言ったら私はここを離れないといけないかもしれないからです」
「分かった。誰にも言わないよ」
「ありがとうございます。眞さんに知られた事も結構やばいんですけどね・・・・・・」
「そうなの?」
「はい、でも・・・・・・眞さんなら知られても大丈夫かなて思ったんですよね。なんででしょうね?」
そう言いながらリリシアは、少し笑った。
その時俺は思った。俺は、リリシアに信頼出来る人だと思われているのだと。
なんだか嬉しいな。
そんな会話をしている間もリリシアは、俺の打った箇所をずっと手で覆っていてくれた。
これは、治してくれているんだろうな。身体を。
彼女は意図していないだろうが俺の心も癒さしてくれた。
「はは、そうなのか、なんか照れるな」
和んでいるいる時に俺はふと思い出した。
「もしかして、出会った時も同じように治してくれたの?」
「はい、あの時は私がいないと多分死んでいました」
「そうなの!?そんなにピンチだったの俺!!」
「軽く、脳から出血してましたね」
「それは、軽くて言うのかな!?」
「あっ、もう大丈夫ですよ。私があの時治しましたので!」
「ほんとにすごいな!」
「はい、もう大丈夫ですよ!」
そう言ってリリシアは、覆っていた手を離した。
「これで泳げますよ!」
今度こそほんとに行こうと思った時俺は一つ疑問に思った。
「リリシア、何で君は、ここまでしてくれるの?君にとってその力をほかの人に見せるのはやばいんだろ?俺なんかに見せてよかったの?」
そう聞くと彼女は・・・・・・
「もーう、愚問(ぐもん)ですよ」
ぐ、愚問?
「そんなの決まっているじゃないですか。私が貴方と一緒いたいと思っているからですよっ!こんな恥ずかしい事は、あんまり言わせないでくださいよ・・・・・・」
そう言ってリリシアは、赤面していた。
なるほど、俺がただ疎(うと)かっただけか。
「眞さん時間は大丈夫ですか?あと20分ぐらいだと思いますけど・・・・・・」
「あっ!」
確かにあと20分ぐらいしかない。やばい!!
「はい、これさっき持っていた荷物です。あとこれを・・・・・・」
そう言ってリリシアは、彼女の鞄から何かを取り出して俺に渡した。
「これは?」
「えーと、私にはよく分からないけど『アミノ酸サプリ』て言うのです!」
「おおー!!ありがとう!!」
こんなものを用意してくれる彼女に感謝カンゲキ雨嵐だ。
「ありがとうね。ほんとにありがとう。リリシアが居なかったら俺は今頃桶の中だったて事が分かったしリリシアがいる事で頑張れる事が分かったよ」
今の俺は何故だか分からないけど根拠のない自信で溢れている。
つまり何が言いたいかというと、この試合絶対にベストタイムを出ると思ってる。
逆に出なかったらリリシアに申し訳なくて仕方がなくなるだろうな。
「えへへー、なんだか照れますね」
「じゃあ行ってくるよ」
「頑張ってくださいね」
「おうよ!!」
そして満を持して堂々と更衣室に俺は入った。
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