第4話 転校生

月曜日――



まだ身体中の筋肉が悲鳴をあげている中、俺は教室の戸を開けた。ちなみに昨日は、筋肉痛で何も出来なかった。無駄な日曜日を過ごしてしまった。だけど、彼女との短い思い出の余韻(よいん)に浸れたので別にいいんだけどね。

今でも思い出す度に、口元が緩んでしまう。俺は、すぐ顔に出るタイプだと知った。

教室に入ると、いつものように皆、がやがやしている。自分達の3、4人のグールプに分かれて、たわいもない話をしている。大概が部活の時の話や、週末に起きた自分の面白かった話(実際は、そんなにおもしろくないが・・・)をしている。


そんな中を通って、教室の後の方にある自分の席の方に歩いていった。

「おはよう!眞!」

いつも通りの菊池だ。俺もいつものように挨拶を返す。

「おはよう。菊池」

「聞いたぞー眞ー、土曜日は災難だったな!ははは!」

「まったくだよ、先生のせいで全身筋肉痛で、日曜日は、何もできなかったよ。もう最悪だよ」

実際そうでもない事は、黙っておこう。

「そうかそうか、でも、3時間も外でお前何やってたんだ?」

ギグっ!


「転んでガードレールにぶつかって気絶しました」と言ったら菊池は、絶対に一週間馬鹿にしてくるだろう。そうなったらめんどくさいので、必死に筋の通った嘘を考え始めた。

案その1

「誘拐されてました!」

俺今ここにいるけど!!なので却下。

案その2

「ずっと走ってました!」

菊池は、俺が走るの苦手なの知ってるので却下。

案その3

正直に全部話す。

一番手っ取り早いがめんどくさくなる。却下。

菊池に聞かれた刹那(せつな)に三つも案を考えたがどれもイマイチだ。しかしこの中から選ばないといけない。

どれだ!どれを選んだらいい!!教えてくれ!!!

よし決めた。

俺は、案その3を選ぶことにした。

「いやー、実話ね、俺さぁ外周の途中の坂で転んで・・・」

唐突に教室の戸があいて金本先生が入ってきた。

「あっ先生入ってきた。また後でな眞」

俺の考えは、全て無駄となってしまった。

今ので、この小説の貴重な22行を失ってしまったではないか!



俺が、軽くショックを受けていることも知らずに金本先生は、ホームルームを始めた。

金本先生は、野球部の監督でグラウンドと教室では、全く雰囲気が違うと菊池が前言っていた。

教室では、真面目でスマートな対応で生徒と接する頭のいい先生だと俺は思っている。だけど、グラウンドに立つと違うらしく、ターミネーターのように笑わなくなる。多分スイッチのオンオフが激しいのだろうな…

菊池は、そんな先生のことを、「二重人格だよあいつ」と影で茶化しているが俺は、普通だと思うな。

俺に言わせれば菊池の野球に対する熱と普段のお前では、天と地の差があるぞ。その点ではお前と先生は、似ているのかもな・・・・・・


そうこうしている内に、ホームルームは、終盤だ。

日直が「気おつけ礼!」と言いお辞儀をして終了・・・どこにでもある普通のホームルームは、今日も何事もなく終わった。それからも、普通に授業は、進んでいった。



昼休み――

俺は、菊池と席を向かい合わせて、弁当食べている。菊池は、朝練があるので、早く起きて学校に行く、そのため弁当は、コンビニ弁当を食べている。やけに今日のは、美味そうに見えた。

「その弁当なんて名前?」

気になったので聞いてみた。

「これか?これはなぁ・・・新発売の「豚のしょうが焼き&唐揚げ弁当」だ!!ちなみにマヨネーズも付いている最高な弁当だよ!!」

「へぇー、美味そうやね!!」

「おうよ!体育会系には、たまらなく嬉しい弁当だぜ!」

そんな感じで菊池との会話を楽しんでいると後から、女子の世間話が聞こえてきた。

「ねぇ!聞いた?」

「え?何が?」

「今日1―A組に転校生が来たんだってね!」

俺は、その瞬間耳を大きくしてその話を聞き始めた。

「えー!!そうなの全然知らなかった!男の子、女の子どっち?」

そこが重要だ。

「えーとねー、確か女の子だったはず!」

まさか・・・・・・

「それで、日本人と白人のハーフだったはずだよ!」

間違いないだろう・・・・・・リリシアさんだ。

「へー、1回見てみたいね!」

「そうだねーーー!!」

そう言って女子は、最近オススメのユーチューバーについてのクソどうでもいいような話題に話を切り替えた。

「今の聞いたか!?やっぱり来たんだな転校生ちゃん!」

「らしいな」

俺は、平然を装って言った。心の中の俺は、はしゃいでいて、歓喜の雄叫びをあげながら踊っている。

「なぁ!これ食い終わったら1年の教室に行って見ないか?その・・・覗くだけだからいいでしょ?」

今すぐにでも行きたい!内心を押さえ込むのも疲れてきた。少し解放してみよう。

「いいよ。行ってみようや」

「おおー!珍しい反応やね!眞君!!」

「別に俺も少し気になってるしそれに・・・・・・たまにはいいかなて・・・」

少しはにかみながら言った。顔が少し、赤くなってるだろうな。

「そうと決まったら早く食べていくか!!」

そう言って菊池は、弁当を口の中にかき込んだ。そして食べ終わったと同時に立ち上がり、「よし行くぞ!」と言って俺に弁当を急かしてくる。

「待てよ、今食べるから」

「早く🎵早く🎵」

ようやく食べ終わった。

「よし行こう!」

「おうよ!!」

俺と菊池は、教室を勢い良く出て上の階にある1年生の教室へと向かった。



1年生の廊下ーーー


1年生の廊下は、やけに騒がしかった。よく見てみると、ほかの学年の生徒も多くいた。皆、目的は、同じなんだろうな。

そんな事を考えていたらA組の方から人が歩いて来た。

「いやー可愛かったなぁ!!」

「ああ!!まるで妖精みたいだったな!!」

その会話を聞いて俺は、確信を持った。絶対リリシアさんだ。そう思ったら自然に口角が上がってにやけてしまう。

そうこうしている内に、A組の教室の前まで来た。そこには、普段だと考えられない程の人だかりが出来ていて、中に入ることはできない。だから俺と菊池は、窓越しに教室の中を見てみた。



居た。

そこには彼女が居た。

リリシアさんは、一昨日は、掛けていなかった眼鏡を掛けていたけど、あの天然の金髪と天使のような顔は、間違いなくあの時俺を助けてくれた、リリシアさんだ。

制服姿のリリシアさんも可愛いなぁー

リリシアさんは、周りの目など気にすることなく本を読んでいた。すごい集中力だ。

「凄い可愛いな!!眞!そお思わないか!?」

菊池がハイテンションで聞いてきた。

「あぁ、そうだな。凄い可愛いな」

二人でそんな会話をしていた時だった、リリシアさんは、本を読むのを止めた。そしてこっちの方を見てきた。

やばい!今一瞬彼女と目が合ったような気がする。

別に悪い事をした訳ではないのにその場から立ち去りたくなった。俺は、菊池の袖を引っ張て「ここから離れよう」のサインを出した。

そして俺と菊池は、階段の踊り場に行った。

「どうしたんだよ急に?」

「いやね・・・今彼女と目が合ったような気がして・・・・・・」

そお言うと菊池は呆れたように・・・・・・

「そんな事で!?どんだけヘタレなんだよ!!お前は!!」

俺だって分かってはいるさ・・・でも我慢が出来ないんだよ。なんというか、目が会った瞬間に逃げたくなった。別に彼女が嫌いな訳ではない。むしろ大好きだ。だけど心の中で彼女に触れるのを少し怖いと思ってしまっていた。情けない・・・自分が本当に情けない。

「もういいだろう、転校生も見れたし、帰ろう。人混みはあまり好きじゃないんだよ」

そう言って帰ろうとしたその時だった。

「あのすいません・・・・・・もう怪我(けが)は、大丈夫なんですか?」

『ん?』

俺と菊池は、同時に斜め上を見た。

そこには、リリシアさんが立っていた。そしてまだ俺のことを心配してくれていた。

「ん?どういうこと?」

菊池は、訳が分からずに混乱しているが、今は放っておこう。それよりも今は、リリシアさんの方が大事だ。

「あ、あ、あのもう大丈夫です。日曜日は、ぐっすり休めたので…」

会話が持たん・・・・・・「菊池助けてくれー!!!」と内心おどおどしていた。

「お前と転校生のリリシアちゃんだったけ?もう知り合ってるの?」

いきなり「ちゃん」付けだと!!!!!お前いつからそんな事ができるようになったんだ!!!

「はい!土曜日に知り合ったんですよ。眞先輩が道で倒れてたので少しお助けしたんです。その後は、学校まで二人で歩いて行きましたよ」

「あーなるほどねー」

菊池はそお言うと「ニヤリ」と笑って俺の方を向いてきた。後で絶対からかわれるな・・・・・・

「先輩!あんまり無理しないで下さいね!ちゃんと好き嫌いせずに食べないと駄目ですよ!」

「あ、はい!わかりました!」

俺は、また硬い返事を返してしまった。

その後リリシアさんは、俺にしか聞こえないように近ずいてきて言った。その言葉に俺は耳を疑った。

「あの、先輩、転校してきてすぐですけど、今日一緒に帰れますか?駄目なら別の日でもいいんですけど・・・」

なんですとーーーーーーーーーー!!!!!!!

そんなイベントまた俺に訪れるとは、神様はまだ俺を捨ててはいなかった。

ここでノーと言う奴は男じゃない!俺は男だイエスと叫ぼう!

しかし、今日は、部活がある・・・・・・どうしたらいいんだ!?

「あのもし部活があるのなら、待ちますよ。私も読みたい本があるので今日中に読み終えたいんですよね。だから待ってる間本を読んでいるので大丈夫ですけど・・・・・・ダメですか?」

いいに決まってるでしょうが。逆に僕が待ちたいぐらいですよ!

「いいですよ。俺なんかでいいなら」

「本当ですか!?じゃあ部活終わるの何時ぐらいになりますか?」

「えーと、ですね・・・六時半に終わると思いますよ」

「じゃあ、六時四十五分に校門前でいいですか?」

「わかりました。」

「ありがとうございます。部活頑張ってください!」

そう言ってリリシアさんは、教室に帰っていった。帰る時に髪の毛が顔にふわりと近くなった時、いい匂いがした。シャンプーみたいな匂いがして心が透き通った気分だ。


俺は菊池の方を向き肩を両腕を置いて鬼の形相で言った。

「いいか、この事や変な事をもしばらしたら・・・」

「ばらしたら?」

「×××××××××××××××××××××するぞ!」

「はい!この菊池は、神に誓ってあなたの秘密を守り通します!」

これで完璧だ。

なんとかこれで、野次馬がこっちに来る事は、ないだろう。

そうして、俺と菊池は、教室へと帰っていった。

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