第6話 いいこと思いついた

(おひとり様二個まで・・・だと!?)


今朝、例のパン屋の前を通ってきた。貰ったチラシには【おひとり様二個まで】と書かれていた。


どうせうちに帰って食べてたら弟が欲しがるだろう。そしたら1個しか食べれないじゃん。それは耐えられない。


「サクー、今日の用事ってなんだよー」

「圭太!!丁度いいところに来てくれた!一緒に並んでくれ」


圭太は暇だからいいよと承諾してくれた。

よし、これで4つは買える。


行列に並ぶ体力も万全だ。昨晩は十時半には寝た。あとは並ぶのみ。


(早く、早くクロワッサン食べたい・・・

クロワッサンが俺を待っているんだ・・・!!)


時間が経つのがやけに遅く感じる。


終礼のチャイムに合わせてクラスが騒がしくなる。帰宅の準備を素早く済ませた。

「圭太、行こう」

「おう!」


ここから駅前まで30分はかかる。いつもの混み具合を考えるとそれから20分は待ちそうだ。


(それなのに、なんでこんな時に・・・)


財布をウチに忘れた。昨日は絶対に忘れないように指さし確認をしっかりした。それに今朝も。あ、その時だ。今朝確認した時に机の上に置いたんだっけ・・・。やらかしたぁああ



□□□□□□

一旦家に帰り財布を取った。

かなり時間をロスしてしまった──


とぼとぼと最後尾に並んだ。

俺の後にも何人かすぐに連なった。


「あれ。朋たちじゃん」

振り向くと同じクラスの女子が並んでいた。


(げっ・・・何故ここに!?)


クラスメイトと鉢合わせ。今日は厄日なんだろうか。


「ごめん圭太。また明日来ない?」

圭太に耳打ちした。

「あと少しで中入れるし・・・、

初志貫徹!どうしても食べたいんだろ?」

「・・・う、うん」

あれだけ待ってもらっておいてまた明日だなんて圭太にも申し訳ないなと思い直した。

後ろにいるのは、確か城多だっけ・・・


□□□□□


(焼き立てだああ!)


焼きたてのクロワッサンが並べられた。

トングで掴んだら、サクッと音が鳴る。

香りだけで満たされる気がした。


何故か隣の人からの視線を感じる。

(あ、あの子だ)

後ろに並んでいた城多だ。

4つクロワッサンを取った俺を疑っているようだ。

(これ、あいつの分もだから)

無言で圭太を指差すと彼女は察してくれたようだ。


最新のシステムを導入したレジのお陰で案外と早く店を出ることが出来た。


朋とシズカの二人は先に出ていたみたいで、クロワッサン片手に写真を撮っていた。

早く食べればいいのに・・・

でも写真に残すっていうのもアリだな。

今まで考えたこと無かったけど。

(食べる前にクロワッサンの写真を撮ろう)

我ながらいい案だと思う。スクラップを作ってみてもいいかもしれない。

善は急げだ。急いで帰らねば──


家に帰ったら父さんのカメラを借りよう。


「圭太、ありがとな!これ、お前の分」

「おう。サンキュー」クロワッサンひとつ渡した。

「あ、そうだ。俺、思いついてさ・・・」

圭太に思いついた案を話した。圭太は微妙な顔を見せたが「いいんじゃね?ほんと好きなんだな」と言った。


□□□□□


「カメラ借りるよー」

「使い方分かるか?」

昔教えてもらったことがあるから扱えると思っていたが、ピントを合わせたり美味しそうに写るようにするにはやはりセンスが必要だった。試行錯誤をしながら撮った一枚は、雑誌に載っている写真には敗けているがなかなかいいと思う。

「兄ちゃん、何やってるの?」弟が部屋に入ってきた。写真撮ってたんだよと言うと「何の?」とのぞき込んだ。

「え、パンの写真?!兄ちゃんの趣味変」と軽く引かれた。

「今度のクラス会でも撮ってくれば?と弟は言った。

「別に写真が趣味ってわけじゃないんだけど・・・」


クラス会で写真を撮る・・・ねえ。

みんなスマホで撮るだろうし、本格的なカメラを持っていっても浮いてしまうだけだろう。


(会場・・・焼きたてパンの店だったらいいな)

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