第5話 これが話題の・・・

「シズカ、めっちゃ似合ってる!」

「えへへ、そうかな」


トモちゃんと一緒に服を買いに来た。

右行ったり左に行ったり、全然前に進まない。それもショッピングの醍醐味だよね。それに制服で買い物ってほんとに楽しい。この3年間でしか味わえない楽しみだ。

私たちは何着か買って店を出た。

「次どこに行く?」

どこかで軽く食べようという話になった。


「駅前にできた新しいパン屋知ってる?」

トモちゃんが聞いてきた。

「知ってるよ!」

確か、クロワッサンがめっちゃ美味しいって話題なんだよね。

「そう!帰りながら食べようよ!」

「でも、多分行列出来てるよ?」

それがいいんだよ!──とトモちゃんはにひっと笑った。


□□□□□□


「あれ?ガラケー王子じゃん。それと圭太もいる!」トモちゃんが言った。


「あ、朋たちじゃん!」

私たちより前に並んでいた圭太君が私たちに気づき手を振った。それに気づいたのか隣の“ガラケー王子”も振り向いて、あからさまに嫌そうな顔をした。


(あの日無言で帰った男子だ・・・)


何かぼそっと呟いたガラケー王子は列から出ようとしたがそれを圭太君に引き留められた。


『ねえ、何であの人ガラケー王子って呼ばれてるの?』とトモちゃんにコソッと訊いた。


『あー、それね。あの人は青原索っていうの。中学の頃から顔良し、運動神経良し、成績良しって女子からの人気も高いんだけど、ガラケー使い続けていて、絶対にスマホに変えないって宣言までしてるんだって。それで残念だなって思った女子たちが言い出したの。“ガラケー王子”って。』

思わず噴き出しそうになった。

それで“ガラケー王子”かあ。名誉なのか不名誉なのか。

それでこの前圭太君が「あいつ、いつもこうなんだ」って言っていたんだ。


店の中の回転率も早く、思いの外早く中に入れた。

焼きたてのパンの香りが食欲を沸き立たせる。お土産に幾つか家に持って帰ろう。

丁度焼きたてのクロワッサンが並べられた。

「これが噂のクロワッサンかあ・・・」

「うん、絶対これは美味しいね」

食べる前からほっぺたが落ちそうだ。


横からスっと腕が伸びて来て、クロワッサンを4個取っていった。

振り向くとそれは青原君だった。

このクロワッサン一人2個までって書いているのに──と思っていると、私の目線に気付いたのか青原君は無言で圭太君を指さした。

(あ、二人分なのね)


トモちゃんと私はお会計を済ませて店を出た。

「食べよ!それと写真も」

トモちゃんと一緒にクロワッサンと写真を撮ってハッシュタグを付けて投稿した。

#話題のクロワッサン

#買い食いなう


「写真撮ってんの?俺も映るー」横から圭太君も入ってきた。

「あれ?圭太、クロワッサン買ってないの?」

「俺、サクの付き添い役だから」

隅の方で青原君は袋の中を見つめていた。

食べないんだ。家でゆっくり食べるのかな。

青原君は心なしかウキウキしているように見えた。


「圭太、早く帰ろーぜ」

待ちきれなくなったのか青原君は圭太君を呼んだ。「じゃーな!」と圭太君が言った瞬間に青原君は駆け出した。それを急いで追いかけていった。


「あれは、クロワッサンにご執心ですね」とトモちゃんが真面目な顔で言うものだからまた笑いがこみ上げてきた。


クロワッサンを頬張りながら帰った。

サクサクサクっと音を立てて日は沈んでいった。

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