第4話 voice

「色々と興味深い事実が分かったよ」


 メカ子がアンドロイドの解析を終えた頃には、日が傾き始めていた。

 本人曰く、予想よりも多くの情報を拾えたとのことだ。


「まず始めに、このアンドロイドの名称はAB001――コードは『テレサ』。製作されたのは26年前。制作元は九十九坂つくもざが大学ロボット工学部、宝田たからだ大海ひろみ教授の研究室であることが判明した。当時の研究室はアンドロイドメーカであるアーク工業と共同で、次世代型アンドロイドの研究を進めていたみたい。テレサはやはり、製品化には至らなかった試作品プロトタイプの一つということのようだね」

「そんなに古いものだったのか。26年前というと、アンドロイドが今よりももっと機械的で、シルエットや動作がまだまだロボット染みていた時代だよね。あの時代にこれだけのアンドロイドを製作していたなんて、正直おどろいた」


 テレサと呼ばれたアンドロイドは、確かに現在流通しているアンドロイドに比べると、肩口の継ぎ目など(現在はデザイン的な問題で、継ぎ目が隠されているタイプが多い)、随所にレトロな特徴が見受けられるが、それでもせいぜい、型落ちした、ここ10年ぐらいの物だろうと思っていた。それがまさか、26年も前のタイプだったとは。26年前といえば、私が生まれる前年だ。


「ネットワーク経由で当時の情報を調べてみたら、宝田教授の研究テーマは、アンドロイドの音声をより人間の声に近づけることだったらしい。テレサ自体は製品化されなかったけど、研究で得たノウハウは、現在流通しているアンドロイド達の音声システムに大いに役立てられているよ。直接顔を合わせたことはないけど、いちメカニックとして、あたしも宝田教授の名前は知っている。拾った情報の中に教授の名前を見つけた時は驚いたよ」

「……何か、母さんに関係するような情報は?」


 母さんはとても美しい声を持つ表現者でもあった。

 アンドロイドの音声をより人間の声に近づけるという、宝田教授の研究テーマが気にかかる。


「あったよ」


 そう言って、メカ子は私にタブレット端末の画面を見せてくれた。

 開発者情報の中に、教授や研究室のメンバー、企業関係者の名前などが並ぶ中、私の視線は、唯一よく知る人物の名前で止まった。。今の私にとってその名前は、地球の引力以上に私を引き寄せる。


 voiceの項目に記載されていたのは、私の母の名だ。


「テレサの声が君のお母様に似ているのも当然さ。テレサ開発に際し、君のお母様は研究室に声を提供し、その声を元にテレサの音声が作られていった。テレサの声はまさに、君のお母様の声の再現というわけさ」

「ススンダダダ――!#$%&@*?+」


 驚きのあまり、すぐさま言葉を発することが出来なかった。

 まさか、亡くなった母と、漂着したアンドロイドとが、26年も前に繋がっていたなんて。


 聞き間違い等ではなかったのだ。

 再現とはいえ、その大本が母の声であることは紛れもない事実。

 ノイズと共に私の耳に届くあの美声。

 あれは母の声だった。



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