第25話


 恭子と文太郎は病院の二階に上がり、恭子の父親の病室に向かった。


「お父さん!」

 

「恭子! 無事だったか! 電話が通じないから心配したぞ。良かった、本当に無事で良かった」

 

恭子の父親の純一が目に涙を浮かべながら恭子を抱きしめた。


「ごめん、途中で携帯が壊れちゃって、でもお父さんも無事で良かった!」

 

 恭子も目に涙を浮かべていた。文太郎はその二人の姿を見て、ここまで無事これて良かったと心の底から思った。


「お父さん、こちらは伊達文太郎くん、私の同級生なんだ。伊達くんが私をここまで連れて来てくれたのよ」

 

 恭子が文太郎を父親に紹介すると、文太郎は純一にお辞儀をする。


「伊達くん、娘を守ってくれてありがとう。心から感謝をするよ」


「いえ、当然の事をしたまでです。気になさらないでください」

 文太郎は恐縮しながら答えると、恭子の方を見て頷いた。それを見た恭子は頷き返した。


「お父さん、ちょっと話がしたんだけど良い?」

 

 恭子が真剣な口調で純一に話しかけた。


「あ、ああ、もちろん良いよ」

 純一が少し戸惑いの表情を見せる。


「お父さん、突然だけど、私と伊達くんと一緒にこの町から出て欲しいの」


「なんだって! 恭子! 何を言ってるんだ。外は化け物だらけだぞ!外に出るなんてとんでもない。ここにいた方が安全だ。恭子は知らないかもしれないが、もうこの町のことはニュースになっていて、あと数時間もすれば自衛隊と米軍がこの町に突入するとテレビでやっていたんだよ。悪いことは言わない、ここにいて助けを待った方がいい」


「お父さん聞いて、怖いのは外にいる化け物だけじゃないの! もっと恐ろしい物に私たちは命を狙われてるのよ」


「何? 外にいる化け物より恐ろしい物だって? そ、それは一体なんなんだ?」


「須藤圭一よ! 彼が私たちの命を狙ってるの」


「な……きょ、恭子、お前、まだあんな不良と付き合ってたのか? 父さん反対しただろ?」


「お父さん、そうじゃないの聞いて」

 

 恭子は今まので経緯を純一に説明した。


「なんて事だ…… まさか、須藤がそんな化け物に…… それに武装した男達だって! そんな奴らが恭子たちを殺そうと狙ってこの町をウロウロしているのか!」

 

 純一はにわかには信じられないといった表情で呟いた。


「しかし、そんな化け物がいるなら尚更ここにいた方が安全じゃないのか? さっきも言ったが、もうそろそろ自衛隊と米軍がこの町に突入するんだぞ。ここで助けを待っていた方がいいだろう」

 

 どうやら純一は病院にいた方が安全と思っているようだ。


「いいえ私たちがここにいたら病院にいる人達に迷惑がかかるわ。武装した男たちと圭一がこの病院に来たらバリケードなんて意味ないの」

 

 恭子は必死に純一を説得する。


「う〜ん、しかし……」

 

 純一はなかなか判断できないようだったが二人の会話を聞いていた文太郎が恭子に話しかけた。


「恭子、確かにお父さんの言う通り、この病院で助けを待った方がいいじゃないのかな? すぐに自衛隊が助けにくるかもしれないよ」

 文太郎がそう言うと、恭子は首を横に降った。


「文太郎くん、違うの、私の勘だけど自衛隊の助けを待ってたら私たちは助からないわ」


「何故?」

 

 文太郎は不思議そうな顔をして聞く。


「圭一はお父さんがここに入院しているのを知ってるのよ。あいつは必ずここにくるわ、それに、さっきすれ違った自衛隊の車みたいなトラック、やっぱりなんかあれ怪しかったわ、奴らの車かもしれない。もしあのトラックが奴らの車なら、すぐ近くに奴らはいるはずだわ」

 

 恭子は自分の勘に自信を持っているようだった。


「う〜ん、だけどさっきのトラックが軍用トラックかどうかはハッキリ見えたわけじゃないから……ただのトラックだったかもしれないし、俺は確信持てないよ」

 

 恭子とは逆に文太郎は迷っていた。先ほどは恭子と一緒にこの町を出るつもりだったが、純一から自衛隊と米軍が助けにくるという情報を聞くと、正直ここから出ない方がいいような気もしていた。すると今度は純一が恭子を説得し始めた。


「恭子、例え私たち三人で逃げたとしてもそいつらから逃げきれるなんて出来るのかい? 恭子の話を聞く限りだと、とてもじゃないが私たちで手に負える相手じゃないよ。悪いことは言わないここで助けを待とう」


 だが恭子はハッキリと答えた。


「大丈夫、伊達くんがいれば私たちは絶対、生きてこの町から出れるわ」


「……何をいってるんだ、確かにここまで恭子が無事に来れたのは伊達くんのお陰かもしれないが、言ってはなんだが彼は恭子と同じ高校生でスーパーマンじゃないんだぞ」

 

 純一は突然、娘がわけがわからない事を言い始めて呆気取られていた。しかし、恭子はまたもハッキリと答えた。


「大丈夫よ。伊達くんはスーパーマンだわ」


「恭子……」

 

 文太郎は少し驚いた顔で恭子を見た。


 純一は困り果て、なんて言っていいかわからずにいると突然病院の一階で悲鳴が聞こえた。


「今の悲鳴は一階からだ。ちょっと見てくる」

 

 文太郎はそういうと走り出した。


「文太郎くん! 私も行くわ!」

 恭子は文太郎の後を追った。それを見た純一は慌てて恭子を引き留めたが、恭子はもうすでに走り出していた。


 

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