第24話

「着いたよ」

 

 文太郎は病院から少し離れた駐車場に車を止め、恭子と池澤に声をかけた。


「お父さん……無事かしら」

 

 恭子が心配そうな口調で文太郎に聞いた。


「きっと大丈夫だよ」

 

 文太郎は恭子の心配を少しでも吹き飛ばそうと勤めて明るい声で答えた。

 

 三人は歩きで病院がはっきり見える位置まで近づくとゾンビの唸り声が聞こえた。病院の表門を見てみると、十匹ほどのゾンビが病院の中に入ろうと表門に集まっていた。表門の自動扉は開いているが、入り口には椅子、机、ベットを積んでバリケードにしているためゾンビは中に入れないようだ。しかし、ソンビたちは必死で中に入ろうとしてバリケードを拳を振り上げながら叩いている。

 

 文太郎は表門以外にゾンビがいないか注意深くあたりを見回した。


「どうやらゾンビは病院の表門以外にはいないようだな」


 名戸ヶ谷病院の一階は全面ガラス張りになっている。だがガラスは強化ガラスになっているので流石のゾンビもガラスを割って中に入ることはできない。また病院は三階建の建物になっていて、一階の全面ガラス張りの所も含めて全ての階でブラインドを下げて外から中が見えないようにしていた。

 恐らく病院内の電気の明かりが外に漏れないようにしているのだろう。しかし、病院の表門から明かりを漏れるのを防ぐのは無理なようで、その明かりにゾンビは反応して集まっていた。


「病院の表門側は化け物でいっぱいだ。だけど親父が言うには病院の裏口には化け物はいないって話だ。裏に回るぞ」

 

 池澤が恭子と文太郎に声をかけた。


 文太郎は頷くとワゴン車にあったガンケースを一つ取る。


「よし、裏に回ろう」

 

「文太郎くん、頼むわね」

 

 恭子が真剣な眼差しで文太郎を見ている。


「ああ」


 文太郎は自信有り気に頷いた。だが、内心は不安で仕方なかった。


(ゾンビだけじゃなく、須藤や武装した奴らもいる。早くこの町から逃げ出さなくては)

 

 その不安な心を見透かしたのか恭子が少し心配そうな顔で文太郎を見ていた。

 文太郎は恭子の顔を見て決意する。


(俺は絶対に恭子と生きてこの町を出る! そのためならなんだってする……いや! しなくてはならない!)


 文太郎たち三人は、病院の裏口に着くと、池澤が電話をかけた。


「親父、俺だ、裏口に着いた鍵を開けてくれ」


 池澤が電話してすぐに裏口の鍵が開く音が聞こえるとすぐに扉が開いた。


とおる、早く入れ、友達も一緒か?」


 開いた扉からドクターコートを着た五十代ぐらいの男性が出てきて池澤に声をかけた。三人は病院の中に入る。


とおる、無事でよかった。来るのが遅かったから心配したぞ」


 池澤をとおると呼ぶ、五十代くらいのその男性は、恐らく池澤の父親だろう。池澤の父親は医者だということだが見た目はとてもそうは見えない。医者というと細身で神経質といった印象があるが、年の割には筋肉質だ。恐らく若い頃にスポーツか何かやっていたのだろう。


「ああ、悪りぃ、あちこち化け物だらけでさ、正直ダメかと思ったぜ」


「君たちが車で徹を連れて来てくれたのか、私は徹の父親の|義和(よしかず)と言います。ありがとう、お礼を言わさせてもらうよ。」

 

 義和が文太郎と恭子にお礼を言とそれを見た池澤は恥ずかしそうな顔で文太郎と恭子を見ていた。


「親父、恥ずかしいからやめろよ」


「徹、何言ってんだ、この二人の車に乗せて貰えなかったらここまで無事にたどり着けなかったかもしれないんだぞ」


「んなことねーよ」

 

 池澤は面白くなさそうな顔してそっぽを向いた。


「池澤先生、すみません、この病院にウチの父が入院していると思うのですが、どこにいるかご存知ありませんか? 名前は|吉田純一(よしだじゅんいち)です」

 

 恭子が池澤の父親に訪ねた。


「う〜ん、何科の患者さんだろう? とりあえず、患者さんには部屋から出ないようにと伝えてあるので、病室がわかっていればそこにいると思うよ」


「そうなんですね! ありがとうございます」

 

 恭子はホッとした顔で池澤の父親に礼を言った。


「文太郎くん、お父さんの所に行きましょう!」

 

 恭子は文太郎に声をかけた


「ああ」

 

 恭子と文太郎は恭子の父親の病室に向かった。


「お、おい! 恭子待てよ! 俺も行くよ!」

 池澤が焦った顔で恭子に声をかけたが、恭子はあっさり無視した。


「徹、お前は母さんの所に行きなさい、母さん心配してるぞ、こっちだ」

 恭子に付いて行こうとした池澤を義和が呼び止めた。


「あ、ああ」

 池澤は渋々、父親の言う事を聞いて引き返した。


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