第23話

 

 ――どうやら俺は化け物になっちまったようだな。

 

 あそこで馬乗りになって人を殴り続けている奴と同類になったのか……

 

 でも変だ……どう見てもあそこで人を殴ってる奴は人間としての理性ってやつが欠けらも残ってねーよなぁ。相手が誰であろうが見境なく襲ってやがる……人間だった時の記憶なんてねーはずだ。


 しかし俺はどうだ。確かにあいつらみてーに目玉は赤いし口には牙が生えてる。だが、人間だった時の記憶はある……

 

 それに、他の化け物に比べると明らかに俺は能力が高い。

 暗い森でも昼間みてーによく見えるし、1トン以上ある車も軽々持ち上げる事ができる。

 そこら辺にいる普通の化け物にはこんなこと出来ねー。

 

 他にもある。

 感覚が研ぎ澄まされてんのか、よく理由はわからねーが、近くにいる人間がどこに隠れてても分かる。

 さっきもそうだった、伊達の家に行った時、木の後ろに3人隠れてるのが分かった。殺気ってやつかわかんねーが俺に敵対心を持ってるやつらが隠れてるってのがわかったぜ。

 

 そういやぁ俺がゲームセンターの駐車場を出て森に入った時、俺を尾けていたやつもいたな。

 伊達を探すのが優先だったから、殺さずにほっといたがいつの間にいなくなっていた……。

 

 そうだ、伊達だ。俺は伊達を探してもう一度戦わなくっちゃあならねー。

 

 そして……恭子を取り戻す。


 そう一番大事なことを思い出したんだ、俺は伊達に恭子を盗られちまったんだ。


 あのゲームセンターの駐車場で伊達は恭子と一緒に逃げていった。どこに逃げたか最初はわからなかったが、そういえば恭子から伊達の住所を聞いていた。

 

 俺はそこに奴らがいるんじゃねーかと伊達の家に向かった。あいつの家はすぐわかったぜ。まさか、あのでっけー屋敷が伊達の家だったとはな。

 そんで行ってみてわかったぜ、確かにあの家に伊達と恭子はいた……

 だが、逃がしちまった。


 今度は恭子の家に来てみたが、恭子も伊達もいねー。ここら辺は一戸建ての似たような家が並んでいるが恭子の家だけではなくほとんどの家にはもう誰もいない。

 恐らくこの一帯の家の住人はすでに化け物に襲われたか逃げ出したかのどちらかだろう。


 それにしてもどこに行きやがった……

 

 ――待てよ、確か恭子の親父、入院しているとか言ったな。確か場所は名戸ヶ谷病院。

 そこに行っているかもしれねーな。……行ってみるか。

 

 それにしても恭子のやつ化け物に襲われてなきゃいいがな。

 

 ま、それは心配ねーか。

 

 不思議だが、俺の中で恭子は絶対に無事だという確信がある。あいつはこんなことで死なねーはずだ。

 きっと、伊達と上手く逃げてるはず。


 だが…… 病院に行く前に片付けなきゃならねー奴らがいるな。伊達の家からずっと俺を尾けている奴らがいる。何者かなんてどうでもいいが、だが一人や二人じゃねーな……おそらく十人はいる。恭子ん家の裏にある路地でジッとして潜んでやがるな。

 それにしても、十人か…… 少々手こずりそうだ。


 あれをやってみるか。

 

 確か、俺が恭子の家に向かう途中、何度も化け物に出会った。邪魔なんでぶっ倒してやろうかと思ったが、なぜか俺が心の中で「邪魔だ、どけ!」と思うだけで、不思議なことに化け物は本当にどきやがった。

 

 もしかしたら、こいつら俺が心の中で思うだけで何でも言いなりになるんじゃねーのか。

 

 あそこで馬乗りになって人を殴りつけている化け物がいるがあいつにやってみるか。


 おい!お前、こっち向け!


 そうだ、お前だ、こっちにこい。


 化け物が俺の方に近づいてきた。


 フッ……こりゃいい。おい、お前、この家の路地裏に行け、俺を殺そうとしてジッとしてる奴らがいる、そいつらを殺して来い。


 化け物が何も言わず、俺が指示した場所に歩きだした。


 フフ……何も変わらねーな。そうだ、俺が化け物になったとしても今までと何も変わらねー。

 誰かに何かを命令して、ムカつく奴をぶっ殺して、そうだ化け物になる前とまったく同じだ。


 あとは、恭子と伊達だ。あの二人を見つけねーと。


 「ぎゃー!」


 俺を狙ってる奴らの悲鳴だな。よし、さっさと片付けるか。


 路地裏から銃を発砲した音が聞こえた。どうやら俺が操った化け物を撃っているようだ。


 面白いな。

 よし、あそこに化け物が五匹いるな。


 おい!お前らも行け、路地裏に武装している人間がいるはずだ。そいつらを皆殺しにしろ。


 五匹全員が俺の言う通りに動いた。化け物どもが路地裏に入るとさらなる銃声が響き渡る。


 どれ、俺も行ってみるか……

 

 俺が路地裏に入ると化け物どもと武装した男達が争っていた。


 武装している奴らは、襲いかかってきた化け物に銃弾を撃ちこんでるが、三匹だけ仕留め損なったようだ。

 化け物三匹が武装している奴らの銃を奪っていた。男達はナイフを取り出し化け物と闘っている。

 

 ん?あそこにいる奴ら五人しかいない。残り五人はどうした?

 

 すると、遠くの方で走り去っている人間達が見えた。


 ケッ 逃げやがったか。まあいい。

 

 しかし、今、化け物どもと戦ってる奴らそこそこ戦闘慣れしてるな。あの化け物どもはやられちまうだろう。

 仕方ねーな、少し手を貸してやるか。


 俺は近くに置いてあるバイクを持ち上げた、そしてそのまま武装した男達に向かってぶん投げた。

 

 おらよ!


 バイクは弧を描きなら飛んでいき落下していく、そして武装した五人の内、二人がバイクに潰された。バイクは地面をドーン、ドーン、ドーンと水面に向かって石を投げた時のように勢いよく何度も跳ねて止まった。


 武装した残る三人が驚いて俺を見ている。


 おら、今だ、行け!残りの奴らをぶっ殺せ。


 化け物三匹が残る三人に襲いかかる。三人は咄嗟にナイフを構えた。

 そして三人の男のうち一人が化け物に向かって行く。

 男は、腰の下から弧を描くようにナイフを化け物に突き出したが、それよりも先に化け物の右のパンチが顔面を捕らえた。その衝撃で男はナイフを落とすと、化け物はさらに左のパンチを男の顔面に当てた。

 男はその衝撃でストンと腰を落とすと、化け物はすかさず男に馬乗りになって何度も顔面を殴りつける。

 

 それを見た残りの二人が助けに入ろうと向かうが、他の化け物が遮った。仕方なく残り二人はナイフで応戦したが、二人とも化け物にナイフを奪われさっきの男と同じように馬乗りパンチを食らった。

 

 そして化け物の馬乗りパンチの痛みに耐えられなくなったのか、三人はそのまま赤ん坊のようにうずくまる。

 もうすでに抵抗の意思は三人にはない。だが、化け物は容赦無く殴り続けた。


 フッ もうこいつらは終わりだな。だが、残りの五人は逃げて行ったがどうするか……

 どうやら気配を感じない。完全に逃げたか……。まあ、どうでも良い。

 

 確か、この路地裏を出てしばらく歩けば大通りに出るはずだ、そこを歩いていればそのうち病院につくだろう。

 

 さっさと伊達を見つけて勝負再開だ。


 大通りに出るとあちこちで化け物が暴れているのが見えた。

 おそらくあと数時間もすればこの町は化け物だらけになるだろう。そしたらこの町の化け物が全員俺の手下ってわけか。面白いじゃねーか、いいぞ、この町は完全に俺の城になるわけだ。

 

 やれ!やるんだ。お前らこの町にいる人間を一人残らず化け物にするんだ。いいか!


 俺の心の声が聞こえたのか、あちこちで化け物どもが蛇が獲物を威嚇するような声をあげて人間達に襲いかかる。


 大通りを歩いてしばらくすると名戸ヶ谷病院の建物が見えた。

 

 病院までもう少しか……


 すると突然、背後から車が走ってくる音が聞こえた。後ろを振り向くとトラックが俺に突っ込んでくる。


 チッ しまった!


 そう思ったが遅かった。トラックはブレーキもかけずにそのまま俺にぶつかってきてそのまま勢いよく吹っ飛んだ。だが痛みはなかった。


 クソ!残りの奴ら、逃げたんじゃなくトラックを取りに行ったのか、油断したぜ、だが、こんなの大したことねー。


 残りの奴らはトラックから出てきて手に持ったアサルトライフルを乱射してきた。 

 俺は咄嗟に顔面をガードした。


 どうやら俺の弱点は頭らしい。銃で攻撃されると無意識に顔面をガードしちまう。

 痛みはないが、顔面を撃たれると死ぬかもしれねー。厄介だな、クソ! なんかねーか。


 辺りを見回すとガードレールが見えた。


 よし、これだな。

 

 俺はガードレールを引っこ抜くとそれを頭全体にグルグルと巻きつけた。

 近くにカーブミラーがあり、それを覗き込むとまるで頭だけ包帯を巻いたミイラのように見えた。


 滑稽な姿だが仕方がねーな。


 そして俺は銃を乱射している奴らに向かって行った。

 途中、顔面に何発も銃弾が当たるが、顔に巻いたガードレールに当たって金属音がキンキンなるだけでダメージは全くなかった。


 フンッ! 悪くねーな。


 俺の肉体は頭以外ならどこに弾丸を食らっても大丈夫なようだな。銃弾を受けて全身から血が出てるが全くダメージはない。

 俺に銃弾を浴びせている五人は何故俺が死なないのか不思議な顔で見ていた。

 

 間抜けな奴らめ、これでもくらえ!


 俺はまずは目の前の男に手刀で首を打った。

 その瞬間、いとも簡単に首と胴体が切り離された。

 

 切り離された首は残る四人の仲間の足元に落ちた。


 「ヒィィィィ」


 四人は仲間の生首を見て悲鳴を上げる。


 いいねぇ、その悲鳴もっと聞かせろ。

 

 オラァ


 俺は胴体を切り離した男の足を持ち近くにいる男に叩きつけると、叩きつけられた男はヘルメットごと顔面が潰れて絶命した。


 残る三人は、顔面を潰された仲間を見てゾッとしていた。すると一人がいきなり逃げ始めた。そしてそれに続いて残る二人も逃げ出す。


 ケッ 逃がさねーぞ。


 あいつらが乗ってきたトラック、これを使うか。

俺は頭に巻いたガードレールを外した。

 そしてトラックを持ち上げて三人が逃げている方向に投げた。弧を描いたトラックは逃げていく三人の手前に落ちる。

 

 三人は突然、目の前に突如トラックが落ちてきて驚いたのか腰を抜かしてへたり込んでいる。


 俺は三人に追いつくとまず目の前にいる二人を持ち上げた。そして右の奴の首に牙を突き立てる。

牙を突き立てられた男は痙攣をし始めた。その次に左の奴の首に噛み付く、すぐに左の奴も痙攣を始めた。

 その光景を見ていた残り一人は震えながら俺の方を見ている。もうすでに恐怖で立つ事も出来ないようだ。

目に涙を浮かべている。


 痙攣した二人を下ろす。すると、二人はすぐに化け物に変化した。


 俺はその二人に命令した。


 おい、お前らそこで震えている男をお前らと同じような化け物に変えろ。


 すると、化け物に変化した二人は最後の一人に襲いかかった。


 俺はその光景を満足気に見ていると、突然、上空でヘリコプターが爆音を響かせながら通り過ぎていった。


 なんだありゃ、どうやら病院の方に向かって飛んでいくなぁ。あれはただのヘリコプターじゃねぇ。軍隊とかで使ってるやつだな。

 こいつらの仲間か? まあいい、俺には関係ねーし、もし、邪魔なら排除するだけだ。

 俺の目的は伊達を殺す事だ。


 もうすぐ病院だ、待ってろよ。伊達!

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