第17話

 道場の窓から須藤がクォンを殺す所を見ていた文太郎と恭子は、目の前で起きている事が現実とは思えず唖然としていた。


「な、なんだ、急に「週刊少年ジャンプ」みたいな展開になったぞ……。これは、ゆ、夢か?」

 

 文太郎は窓の外を見ながら震えた声で呟いた。


「あ、あれ、圭一よね……、圭一は化け物になったの?」

 

 流石の恭子も目の前の現実をどう受け入れていいかわからずにいた。

 

「あ、ああ……、須藤はゾンビって奴になったみたいだね。きっと噛まれたんだ。ゾンビに噛まれると同じゾンビになってしまうんだよ! 静枝さん噛まれてからすぐゾンビになっちゃったんだ」

 

 文太郎は震えながら恭子に説明した。


「そう……、圭一はゾンビに噛まれてしまったのね。確かに、目が赤いわ。でも、ちょっと普通のゾンビとは違うみたい。私達が今までみたゾンビよりも力がはるかに強いわ。圭一は普通のゾンビとは格が違うみたい。もしかしたら、こいつらが圭一を探してるのはこれが理由かもしれないわ」

 

 怯える文太郎に対して恭子は少しづつ冷静さを取り戻してきた。そして、できるだけ状況を把握しようと努める。


「ど、どういう事?」

 

 文太郎はわけもわからずといった表情で恭子に質問した。


「私も、はっきりとはわからないわ、でも今は、逃げる事が重要よ。きっと圭一はゾンビになっても人間だった時の記憶があるのね。だから圭一は文太郎くんに負けた事も憶えているはず。100%圭一はそれを根に持ってるはずよ。だから絶対、彼の目的は文太郎くんに復讐する事なはず! だからここに来たんだわ! うん、そうね……少しづつだけどわかってきたかも。そして、こいつらはどういうわけかそれを知っているのよ。だから、私達を圭一をおびき寄せる餌にしようとしてるんだわ。こいつらの目的は圭一を捕まえることよ」


 文太郎の顔から血の気が引く。


「あわわわ、俺に復讐! やばいよ、やばいよ、絶対勝てない。あれに勝つなんて無理だ!」

 

 文太郎はパニックを起こした。それに対して恭子は冷静に答えた。


「ええ、だから逃げるしかないわ。それに圭一が私と文太郎くんが付き合ってると知ったら、必ず私も殺すわ」

 

 文太郎は恭子の「付き合ってる」という言葉をスルーした。今はそれどころではない、文太郎は早くこの場から逃げる事しか考えてなかった。


 二人は須藤たちがいる所とは反対側の出入り口から逃げようと走った。

 

 だが、突然、文太郎の脇腹に何かがぶつかって来た。

 

 イムだった。


 文太郎は吹っ飛んで倒れると、手に持っていたライフルを離してしまった。


 ライフルは道場の床を3メートルほど先まで滑っていく。


 イムは両手を後ろに回された状態で結束バンドで縛られているが、両手を臀部に数回叩きつけると、結束バンドはいとも簡単に切れた。

 そして、すかさず文太郎に馬乗りになり両手で交互に殴り続けた。

 

 顔面にイムのパンチを何発か食らった文太郎は咄嗟に両手でガードする。

 それでも殴り続けるのをイムはやめない。

 

 イムの身長は180センチあり体重が90キロ近くある。160センチ65キロの文太郎では体重差がありすぎて、イムの馬乗りを跳ね返す事ができない。

 

 ガードしている文太郎の腕の上からイムは何度も殴り続ける。

 

 すると後ろから恭子が叫ぶながら日本刀でイムを殴りつけた。


 「文太郎くんを殺せないわ!」


 恭子は日本刀の使い方がわからず、刀を鞘に納めてある状態でイムの頭を叩いた。

 鞘に納めている日本刀でも殴るとそれなりに威力があったのか、イムは痛そうな顔をしながら両腕を上げ頭を守った。

 恭子は日本刀を何度も振り、イムの頭を叩き続ける。

 

「この女、いい加減にしろ」

 

 イムは一旦起き上がり、恭子の腹を横蹴りで蹴った。恭子は悲鳴を上げ吹っ飛び倒れた。

 恭子は気絶したのか、倒れたまま起き上がらない。

 それを見た文太郎は狂いそうなほどの怒りが湧き上がってきた。文太郎は叫んだ。


「てめー! 殺してやる!」


 イムは両手は顔面の前に置き構えた。


 文太郎は憤怒の表情でイムを睨んでいる。だがその表情とは裏腹に、文太郎はまるで散歩にで行くようにスタスタと無防備な状態でイムに向かって歩き出した。

 文太郎が怒り狂って突進してくると思っていたイムは虚をつかれたが、すぐに冷静になる。

 そして、文太郎がイムの間合いに入った瞬間、イムは右のストレートを出した。

 だが突如、文太郎はイムの視界から消えてしまった。イムは驚いて一瞬、動きが止まる。


 文太郎はイムのすぐ横に立っていた。  


 イムは文太郎に気づき、すぐに次の攻撃に移ろうとしたが遅かった。

 文太郎は親指と他4本の指をY字型に開いてそれをイムの喉に突き出した。

 

 イムの喉に衝撃が走り喉を抑えながら前のめりになる。

 

 そこをすかさず文太郎はイムの頭を抑え顎に飛び膝蹴りをお見舞いすると、


 イムはストンと倒れ気絶した。


 文太郎は恭子に駆け寄る。


「恭子! 大丈夫か!」

 

「だ、大丈夫よ……」

 

 恭子は苦しそうな顔で答えた。


 文太郎は恭子の腕を自分の肩に回して体を起こす。


「さあ、逃げよう」

 

 文太郎と恭子は出入り口の扉を開けると道場の外に出た。   

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